第25話 港町、ブラウンハーバー

チュンチュン…と小さな鳥の声が聞こえて来る。


「うーん…もう朝か…」


アランはゆっくりと起き上がると、ベッドから降り剣を背中にかけた。

そして、大きく伸びをする。


「よし、行くか!ブラウンハーバーに!」


そう言うと、アランは軋む木の扉を開け家の外へ出た。


ーーーーーーーー


「あ、アラン来たよ!」


「おはよう、アラン。よく眠れた?」


町の広場には既にリサとエルザの姿があった。


「あぁ、もう元気満タンさ!」


「なら良かったわ!ここからブラウンハーバーまでは山の間を抜けて、さらに森を抜ける必要があるの。着くのは日が暮れる頃になりそうね…」


「そっか、そんじゃあ早く行ったほうがいいな!」


「おーい!三人共!!」


そう声を上げて走ってきたのはロマーニだった。


「ロマーニさん!」


「みんな、もう旅立つのかい?」


「えぇ、そのつもりです!」


「そうか…最後に改めてお礼を言わせてくれ、ありがとう!!」


そう言うと、ロマーニは頭を下げる。


「いいんですって!」


「そうですよ!」


「うんうん!」


「…君たちならきっと勇者団に入れるはずだよ。俺たちも応援してる!これから嬉しいことも悲しいことも沢山あるだろうけど、目標に向かって頑張ってね!」


「ロマーニさん達も、復興大変だろうけど頑張って下さい!勇者団に入ったら、また必ず会いに来ますから!」


「うん、それまでに町を直して歓迎できるようにしておくよ!その時はまたキャンプファイヤーをしよう!」


「はい!」


そう言うと、アランとロマーニは握手を交わした。


「さ、町の出口でみんな待ってる行こう!」


ーーーーーーーー


町の出口に行くと、そこには町の人々が全員集まっていた。


「町のみんなも君たちを見送りたいって言うから連れてきちゃったよ!」


「あんたらはミネラバを救った英雄だ!!」


「あなた達のことは一生忘れないわ!!」


町の人たちが歓声をあげる。


「いやー、相変わらず照れるな…」


「やっぱり嬉しいわね、人を救って感謝してもらえるのって」


「うんうん、確かに」


「リサや」


そう言って近づいてきたのはローズさんだった。


「ローズさん!」


「お主に教えた回復の印、お主なら使い続けておればもっと強化していけるはずじゃ。いいか?印術は使い続けることが大事じゃ。それを忘れぬ様にな」


「はい、私もいつかローズさんみたいにすごい回復印術を使える様に頑張ります!」


「うむ、楽しみにしておるよ。アラン、エルザ、リサ。これから先色々あるじゃろうが目標に向かって全力で突き進むのじゃ。お主達なら、きっと、目標に辿り着けるはずじゃ」


「はい!…それじゃあ俺たちは行きますね!」


「また会おうね、三人共!」


「もちろんです!」


こうして、三人はミネラバの町を後にし次の町ブラウンハーバーに向かい歩きだしたのだった。


ーーーーーーーー


「…相変わらずでけぇ山だなぁ」


アラン達の両サイドには雲を突き抜ける程の高さの山脈が広がっていた。


「ここら辺はミネラバ山脈って言うらしいわ。あの町もきっとこの山脈の名前を取ってるんでしょうね」


「へー、そうだったのか…」


そんな事を話しながら、三人は山脈の間を進んで行った。


ーーーーーーーー


「次は森か?」


「そう、この森を抜ければブラウンリバーが見えて来るはず。その川沿いにブラウンハーバーはあるはずよ」


「そういえばさ、なんでブラウンリバーって名前なの?」


エルザはリサに不思議そうに問いかける。


「私も実際に見た事は無いけど…ロマーニさんが言うには、どうやら水が常に真っ茶色に濁ってるらしいの。そこから取ったみたい」


「へー、そうなんだ…」


「はー、なんかワクワクして来たぜ!さ、早く行こうぜ!!」


そう言うと、アランはズカズカと森の中に入っていく。


「…全く、昨日あんな大怪我負ってよくあんな元気あるわね」


リサは呆れた顔を浮かべ、アランを追いかけた。


ーーーーーーーー


緑が多く、余り日の入らない薄暗い森を歩いて行くと奥に出口が見えてきた。


「やった、やっと出口だ!!」


「本当!?やったぁ!!」


「はぁ、はぁ、疲れた…」


元気に走り出すアランとエルザの後ろで、リサは息を切らしながらふらふらと歩いていた。

森の中から出ると、すでに日は暮れ始め辺りは薄暗くなり始めていた。

よく見ると、道の先に光り輝く大きな街が佇んでいた。


「アレがブラウンハーバーか…!よっしゃあ!ラストスパート行くぜ!」


「おー!」


そう言うと、アランとエルザは道を走り出す。


「ちょ…ちょっと待ちなさいよー!!」


リサはふらふらと二人の後を追いかけた。


ーーーーーーーー


「ここがブラウンハーバーか…」


古びた木でできた入り口の門には、『港町ブラウンハーバー』と書かれていた。

日は落ち、暗くなっているというのに、町はバーや宿屋の明かりでとても明るく感じる。

町は主に木造の建物が立ち並び、入り口付近は殆どがバーか宿屋だった。


「へー、明るい町だな…」


「ここら辺は殆どバーか宿屋だね…」


「はぁ、はぁ、ベガッジやミネラバの人が言ってたけど…ここは貧富の差が大きいらしいの。表向きは楽しげな港町って感じだけど、東側には大金持ちだけが住める"特別住宅地"、西側には貧困な人たちが住む"スラム"。大金持ち達は奴隷なんかも働かせてるみたいだし…なかなか闇は深そうね…」


「そうなのか…」


「それと、この町には港以外にも重要な役目があるの」


「役目?」


「この町には、勇者団の第四支部があるのよ」


「第四支部か…!」


「そう。このアリア王国はブラウンリバーで北と南に分かれている。北側に本拠地があるけど、ブラウンリバーを渡るには時間がかかる。それで作られたのが第四支部らしいわ。…ま、この地形のせいもあって第四支部の情報がなかなか本拠地に届きづらいってのはあるわね」


「なるほど…」


そう聞き、アランはギュッと拳を握る。


「…アラン、今第四支部に直接話に行こうって思ったでしょ」


「えっ!?なんで分かったんだ!?」


「何年あんたといると思ってるのよ!単純なあんたの考えなんて丸わかりよ!…でも、それはやめといた方がいいわね」


「なんでだ?」


「私達が勇者団に入るつもりが無いなら何を言っても大丈夫だろうけど…もしここで第四支部に行って問題が起きちゃったら最悪私たちは勇者団に入れてもらえなくなる可能性も出てくるわ」


「………」


アランは少し考えてから口を開いた。


「…そうだな、問題を起こしてもしょうがないしな!よし、それじゃあとりあえず港に行こう!船の時間も気になるし」


「そうね、それがいいわ」


「うん、それによってはここで泊まるかどうか決まるしね」


「よし、港へ行くぞ!」


三人は町を歩き、港へ向かっていった。


ーーーーーーーー


「すみませんねぇ、さっき出た船が最後なんです」


三人は町の北側にある港にたどり着いていた。


「そうですか…船の時間って何時なんですか?」


「船が出るのは二回、朝七時と夜七時です。勇者団の要請があった時はいつでも船を出しますけど…基本はその二本だけですね」


「なるほど…分かりました!ありがとうございます!」


「それじゃあ私達が乗るのは明日の朝七時の船だね」


「そうなるわね…」


「それならとりあえず町を見て回ろうぜ!ちょっと気になるし!」


「そうね、せっかくだしそうしましょ!宿探しも兼ねて!」


そう言い、三人が歩き出そうとした時だった。


「カン!カン!カン!」


町に不気味な鐘の音が鳴り響き始める。


「なんだ…?」


「鐘の音…?」


その鐘の音に続き男の叫び声が聞こえて来た。


『緊急連絡!緊急連絡!特別住宅地のマライア邸で奴隷の脱走事件発生!!繰り返す、特別住宅地のマライア邸で奴隷の脱走事件発生!!奴隷はマライア夫妻に怪我を負わせ逃走中!奴隷の特徴は、緑髪の少年と黒髪の長髪の少女。少年は武器を持っていると思われる。目撃した場合はすぐに第四支部まで連絡を!絶対に奴隷には近づかない様に!!以上!!』


そう言うと、声は途切れた。


「奴隷の脱走か…」


「まぁ、そりゃあ脱走もしたくなるよね…奴隷の生活なんて」


「奴隷…」


(確かベガッジもおんなじ事を話してたわね…)


リサはモヤモヤとした気持ちになり、大きくため息をついた。


「どうする?」


「とりあえず、私たちは町を見に行きましょう。私たちにどうこうできる事件じゃ無さそうだし」


「それがいいよ」


「よし、それじゃあ町の探検行くぞー!」


三人は町の中心部へと歩き始めた。


ーーーーーーーー


「何!?ディオゲインがやられただと!?一体どこのどいつにだ!?」


薄暗いバーの中で大声をあげたのは鎧の男、ダンテだった。


「ベガッジさんからの報告によると、バーガー達を倒した奴らと同じ連中みたいですね…」


「ディオゲインを倒すとは…なかなかの実力者の様だな…。クソッ!!大事な流通ルートまでめちゃくちゃにしやがって…!!次見つけた時は必ず殺してやる…!!この俺自らなぁ!!」


そう言うと、ダンテは机を思い切り蹴り飛ばす。

そして、ビンの酒を勢いよく飲み干した。


続く。

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