ドリームワールド ー夢の世界の勇者達ー

はるく

旅の始まり編

第1話 旅の始まり

勇者団と呼ばれる組織が均衡を保つこの世界。

少年アランは、"勇者"を目指し、旅に出るのだった…。


ーーーーーーーー


チュンチュン、と鳥のさえずりが聞こえる。

それと同時に、眩しい陽光が暗闇の中に差してきた。


「ん…」


だるい体を動かし、寝返りをうつ。

その時だった。


「こらぁ!!アラン!!いつまで寝てるのよ!!今日から旅に出るんじゃなかったのー!?」


「たび…旅…旅!?」


アランは布団から飛び出し、壁にかけていた時計を見つめる。よく見ると時計の針は、午前10時過ぎを指している。


「やっべぇー…完全に寝坊した…」


アランはボーッとする頭をフル回転させ、部屋の扉を思い切り開けた。

そして、一階へと続く階段を下ろうとした時。


「あっ…」


足はずるりと滑り、アランの体は宙に浮いた。

体勢を立て直す暇もなく、アランの体は階段を転がり落ちた。


「痛ってぇ…」


ぶつけた頭をさすっていると、アランの母親であるアリナが近づいてきた。


「もう、何やってんのよ!さ、ご飯できてるからパパッと食べて行きなさいな!リサちゃん待たせてるんでしょ!?」


「やっべー、そうだった…」


アランはその場から飛び起き、リビングへと走った。

こんがりと焦げ目のついたパンを横目に、寝間着を脱ぎ捨て白い長袖Tシャツと茶色いカーゴパンツを身につけた。

そして、テーブルに置いてあったパンを口に詰め込み、牛乳で流し込む。


「そんなに一気に食べたら喉詰まらすわよ!」


アランはゴクン、とパンを飲み込み玄関へと向かった。玄関の横には、黒い柄の両刃刀が置かれている。

それを背中にかけ、アリナから受け取った水筒とお金の入った袋を腰につけた。


「その袋には50000ゴールド入ってるから、考えて使うのよ!」


「ありがと、母さん!」


お気に入りのブーツを履き、アランはアリナの方へと振り返った。


「…それじゃ行ってくるね!勇者になったら帰ってくっから!」


「気をつけなさいよ!…お母さん、楽しみに待ってるから」


「うん、行ってきます!」


アランは振り返り、玄関を飛び出して行った。

今まで騒がしかった家の中を静寂が包み込む。


「あなた、アランもとうとう旅に出たわよ…」


棚に置かれた写真盾を見つめ、アリナは涙を流した。


ーーーーーーーー


数軒の木造住宅が並ぶ村を駆け抜け、畑に囲まれた道へと出る。

その道をまっすぐ進むと、アランの住むフォレス村の入り口が見えてくる。

入り口にそびえ立つ大きな木の門はかなり古びており、いつ壊れてもおかしくないほどだ。

そんな門の下に、一人の少女が腕を組んで立っていた。

紅い長髪の少女はアランに気づくと、怒った顔で近づいていく。


(や、やべぇ…完全に怒ってんじゃん…)


「よ、よぉ、リサ!その…えーっと…遅れてごめんなさい!」


アランは男のプライドを捨て、その場に土下座した。


(今はプライドどうこう言ってる場合じゃない。生き残ることが優先だ…!)


「…全く、ほんとあんたって変わらないわよねぇ」


そういうと、リサは門の方へと振り返った。


(あれ?怒ってない!?)


「誰かさんが寝坊してくるから予定が台無しよ!早く行かないと日が暮れるわよ!」


「リサ…そうだな、早く次の村へ行こう!」


「た・だ・し」


振り返ったリサの人差し指がアランの鼻に押し付けられる。


「寝坊した借りは、どこかでキッチリ返してもらいますからね」


「は、はぁ〜い…」


「よろしい。それじゃあ行きましょう!」


フゥー、と安堵のため息を漏らしアランはリサの後を追いかけた。


ーーーーーーーー


白い長袖の上着に、赤い短めなスカート。すらりと長い脚を包み込む赤いニーハイソックスに茶色のブーツ。

あまり旅向けではないだろうとツッコミたいところだが、アランは普段見ないリサの格好に目を奪われていた為、ツッコミどころではなかった。


(こいつ…普段こんな格好しないくせに…。くそ、目のやりどころに困る格好してきやがって…)


「ん?どうしたの?アラン」


「あー、いやいや、なんでもない」


「…ねえ、この格好…似合ってる?」


「!!」


普段見せないような上目遣いと声。

あまりの衝撃に、アランは2、3歩引いてしまった。


「あ、えーっと…ま、まぁいいんじゃないのか?ハハ、ハハハ…」


「ぶふ…ぶははははは!!」


突然お腹を抱えて笑いだすリサ。

その姿を見た時、アランの顔がカッーと赤色に染まった。


「アランってほんと女性への免疫ないわよね!ちょっとからかったらこれだもん!」


ニコニコと笑うリサを睨みつけ、アランはトボトボと道を歩き出した。


「ちぇ、ちょっといいなって思ってた俺が馬鹿だったぜ…」


「あ、待ちなさいよ!ちょっとからかっただけじゃない!」


ーーーーーーーー


そんなこんなしているうちに、一つ目の村の入り口が見えてきた。


「あ、あれが一つ目の村の"レインズ"だわ!今日はとりあえずこの村で宿を探しましょ!」


「…そーだな」


ムスッとした顔のアランを横目に、リサは小走りで入り口へと向かった。


「全く元気いい子だねぇ…」


それに続き、アランもゆっくりと入り口に向かった。


入り口に立った時、村の中から男の叫び声が聞こえてきた。


「おらぁ!とっとと金目のもんだせや!じゃねぇと若い娘連れてくぞ!」


「なんだろ…」


「穏やかな雰囲気じゃないのは確かね…ちょっと行ってみましょう!」


「あぁ、そうだな」


二人は入り口の門をくぐり抜け、村の中心部に向かった。

この村は畑作の村とも呼ばれるほどの農村で、あたりを見渡してもあるのは民家と畑ばかりだ。

村の中心部にある広場に着くと、そこには緑のハチマキを巻いた男二人が村人であろう老人に刀を向けているところだった。


「なに?あいつら…」


リサがそう呟いた時、後ろにいた若い男が口を開いた。


「あんたら、奴らを知らないのか?奴らはここらの山を根城にしてる山賊だよ!山から降りてきてはここらの村を襲って金目の物を奪ってくんだ…」


「誰も抵抗しないのか?」


「したい気持ちはあるんだが、俺らじゃどうにもできない相手だからな…。唯一戦えるのは村長くらいなんだけど、その村長も普段村にいないことが多いからな…。そこをつけ込んでくるんだ。そんで、毎回金目の物を渡してるうちに村から金品は無くなって、今じゃ娘を連れ去ろうとしてる…」


「最低な奴らね…。ねぇ、アラン、私達でなんとか出来ないかしら?」


「…できないか、じゃなくてやるんだよ!俺たちは"勇者"目指してんだ。それくらい出来なきゃ勇者にはなれねぇよ!」


そう言うとアランは男達の方へ向かい歩き始めた。


「ふん、アランにしちゃそれっぽいこと言うじゃない。私だって負けてらんないわ!」


それに続き、リサも男達の元へ向かう。

二人は男達の前に立ち、それぞれ剣を抜いた。

その瞬間、リサの手の甲には赤い星の描かれた二重丸の紋章が、アランの手の甲には同じく黄色い紋章が現れた。


「おい、あんたら。それくらいにしときなよ、村人たちが困ってんじゃんか」


「あぁ?なんだ?このガキども。初めて見る顔だなぁ…どうする?ネズ、こいつらやっちまうか?」


「いいんじゃねぇか?たかがガキ殺したくらいじゃ大した罪にはならねぇよ」


山賊の男達はアラン達の方へ向き、腰にかけてあった剣を抜いた。


「リサは左のやつを頼む。俺は右のやつやるから」


「あんたに言われなくても分かってるっての。さ、来なさいよ、コソ泥さん」


「ち、なめ腐りやがって…そんなに死にてぇならぶっ殺してやるよ!」


男の持つ剣がリサに向かっていく。

しかし、リサに焦る様子は全く無い。


「貴方みたいな悪者にはちょっと熱めの炎でいいわね」


そう言うと、リサは地面に剣を突き刺した。

すると、地面に赤い紋章が現れた。


「な、なんだ!?」


「くらいなさい!"火炎の舞"!」


リサがそう言った瞬間、紋章から炎が舞い上がった。

炎は男の周りを舞い、包み込んで行く。


「な、なんだこれ!?あちぃ!!」


あまりの熱さに、男は炎の渦から飛び出し倒れ込んだ。


「どうよ、怒りの炎は!もう悪いことすんじゃ無いわよ!」


ーーーーーーーー


「ちっ、雑魚が。まぁいい、まずお前から殺してやるよ!」


男の振った剣が、左から迫ってくる。


(こんなの、リサの剣に比べれば遅すぎるぜ)


剣が頭の横に来た瞬間、アランはその場にしゃがみこみ、攻撃をかわした。


「何!?なんて早さの回避だ!!」


「今度はこっちの番だぜ!」


アランは立ち上がり、一気に男の懐へ走り込む。


「ま、まず…」


「今日は峰打ちで許してやるよ!」


剣を横に向け、刃のない面で思い切り、男の腹を殴りつけた。


「ぐっ…」


男はお腹を抑えたまま後ずさりし、その場にしゃがみ込んだ。


「クソ…ガキがぁ…覚えてろ!次はボスを連れてくるからな!行くぞ!ネズ!」


「あ、ま、待てよ!」


山賊の二人は慌ててその場から走り去り、村を出て行った。


「ふぅ、修行の成果発揮できたわね!」


「そーだな…あの厳しい修行が役に立って良かったぜ…」


二人で話をしていると、誰かがこちらに近づいてくるのが見えた。


「あ、あのー…」


近づいて来たのは、緑のチェック柄のロングワンピースを身にまとった、黒髪ショートヘアーの女の子だった。見たところ、アラン達と同じくらいの年齢のようだ。


「村を救ってくれてありがとございます!!」


女の子は深々と頭を下げた。

思わず、アランとリサは顔を見合わせた。


(ど、どうするの?なんか大変なことになっちゃったけど…)


(ま、まぁ救ったのは本当だし…とりあえず喜んどけばいいんじゃないか?)


「い、いえいえ、そんな…」


「本当だよ、ありがとー!!」


「あんたらはこの村の英雄だ!!」


その少女の一言に続き、周りにいた村人たちもアラン達に感謝の言葉を投げかけ始めた。


「えへへ、なんか照れちゃうわね…」


「そーだな…」


「あの…良かったら今日、うちに泊まりませんか?もう日も落ちて来たし…」


そう言われて空を見ると、気づかぬうちに空はオレンジ色に染まり始めていた。


「どうする?お邪魔して行くか?」


「せっかくならお邪魔しちゃいましょーよ!お金も節約できるし…」


「い、いいんですか?」


「えぇ、村を救って下さった英雄さんですから!案内しますよ!」


女の子はニコッと笑うと、振り返り歩き始めた。


(か、かわいい…)


鼻の下を伸ばすアランを、リサは思いっきり殴りつけた。


「いってぇ!!」


「ばか!!」


ーーーーーーーー


女の子に連れられて着いたのは、村で一番大きな建物だった。古い木造の建物で、2階建の家のようだ。


「…あ、そうだ!私まだ自己紹介してませんでしたよね!私は村長の娘のユリーナです!よろしくお願いしますね!」


「あぁ、よろしく!ユリーナ!あ、それじゃ俺たちも自己紹介しようか。俺はアラン!勇者目指して旅してるんだ!んで、こっちの紅いのがリサ。同じく勇者目指して旅してるんだ!」


「誰が紅いのよ!」


「ふふふ、お二人は仲がいいのね!それに勇者なんてすごいわ!尊敬しちゃいます!」


「そ、そーかな…」


「はい!実は私の父も勇者なんですよ!よく分からないんですけど、なんか名の通った勇者らしくて…」


「名の通った勇者か…かっこいいな…」


「こんなところで長話もなんですから、そろそろ中に入りましょうか!」


「うん、そーしましょ!」


こうして、アランとリサはレインズ村の村長の家に泊まることになったのだった…。


続く。

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