第5話 和風カフェとその後の話②
次の日は、朝五時にアトリエに入った。
キャンバスをセットして、油絵具を慎重に混ぜる。
わたしのイメージする「スミレ色」に絵の具の色を近づける。
その絵の具を、乱暴に絵筆でキャンバスに投げていく。
わたしの絵画はいつもこうだ。インスピレーション頼みで、一つの色彩にとことんこだわる。
この間は緑色にこだわっていたけれど、今日は「スミレ色」にこだわってる。こんなにも。
脳裏に先輩の顔がチラチラ浮かぶ。
苦しいよね。これって、恋、なのかな。
窓の外でパラパラと小雨が降ってる。
その小雨もインスピレーションにして、朝ごはんなんか食べないで、昼ごはんも我慢して、ずっと描き続けていた。
一つのキャンバスが終わったら、また違うキャンバスをセットして、同じような絵をひたすら描いた。
もうキャンバスは三作目。
「恋なのかも、しれないよね」
まだ完成していない三作目の絵を恨めしげに見て、わたしは先輩と会う支度を始めた。
このアトリエを見せないとならない。
わたし、何やってるんだろ。
あの先輩に、なにもかも調子を狂わされてる。
「おばあちゃんー。わたしの描いた絵、絵の具が乾いたらしまっておいてねー」
おばあちゃんに声をかけると、「いま、羊羹食べてるから、そのあとしまうわい」と、いつものダミ声でおばあちゃんは答える。
わたしは家の外に出て、雨上がりの空気を吸った。
先輩に会いに行くために。
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