第3話 王子様を見つけた日③
二十代のお姉さんの知り合い、花さんが、近くの街の丸岡ビルで「バレリーナさんの衣装を展示してる」のに行きたかったんだ。
忍田先輩も、きっと可愛いものが好き。
なんとなく、先輩のバックグラウンドを想像しちゃう。
小さな頃から優等生だったと思う。そして、「お姉さんが外遊びが好きで、お姉さんがもらったぬいぐるみや人形で自分が遊んでた」とこの間、ルミちゃんを返してくれる時に、先輩は言ってた。(陰キャラだね!)
その気持ちをいつからか封印してた、と、ちょっと辛そうに吐露した。その表情に影があるような気がして、ある種の美しささえ感じた。わたしはそういうわけで、ルミちゃんを先輩にあげてしまった。そして、先輩のことが連休中もなんだかんだと忘れられなかった。
丸岡ビルに着くと、花さんの展示に向かう。忍田先輩は丸岡ビル自体、あまり来たことがなさそう。新鮮な驚きをもって、いちいち、周りの風景を見てる感じが伝わってきた。
バレリーナさんの衣装の展示は、想像よりはこじんまりしてる。ただ、花さんがちょうど、受付のところにいたから、ついガールズトークしてしまう。
「ねえ、あのイケメン。ほんと誰なの? 彼氏?」
花さんが小声でわたしに言う。
「今日はメガネをかけてないから、イケメンさんですよね」
わたしも小声で、(先輩には聞こえないように)話す。でも、忍田先輩は意外と耳がいいのか、形のいい耳をピクリと動かしてた。
先輩はアラビア風の衣装の前でじっとしてる。花さんとたくさん話したいことがあったけれど、先輩の後ろ姿が妙に物悲しく感じてしまって、途中で話をやめて先輩のところに行った。
「すごく綺麗だよ。これ」
先輩は穏やかな目でそう言って、衣装から目を離そうとしない。
絵描きの卵のわたしは、こういう場所は慣れていた。バレエそのものを劇場に見に行ったことだって、これまでの人生で三回あった。
(この人は、こんなにも「可愛いもの、美しいもの」に飢えてるのか)
なんだか、胸がバクバクして苦しい。
わたしは和風カフェに先輩を誘う。こんなの、予定してなかった。
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