絵描きの卵と、「王子様」を見つけた日
瑞葉
第1話 王子様を見つけた日①
高校一年生になったばかりの四月半ば、大事にしてたぬいぐるみを落としてしまった。
ウサギのキャラクターで、お父さんとお母さんと二年前に行った遊園地のお土産だった。わたしは「ルミちゃん」と名付けて、カバンにその子をつけていた。
この間、絵を描くのに熱中しすぎて、低血糖でフラフラしてた朝だ。きっとその時に落としたんだと思う。気づいたらカバンにいなかった。
絵はできていた。緑色のカーテンの中にたたずむ「誰か」の絵。わたしの「王子様」だったらいいな。
今日はゴールデンウィーク三日前。バスを待ちながら自然と鼻歌が生まれる。
「ね、ねえ」
誰か、男子が声をかけてきた。バス停でわたしを見つけて駆け寄ってくるその人は、きっと高校三年生。その人の手には「ルミちゃん」。
恋の始まりだったらいいのにな。
でも、すごく残念だけれど、タイプじゃないの。
顔は知ってた。うちの高校の生徒会長さん。濃緑色のメガネがダサダサで、残念な人。うちのクラスでも「メガネの会長」ってからかいのうわさの対象になってる人。
わたしが少し話してると、妙に照れてる様子なのが、なんともキモチワルイ。
「あげますよ、ルミちゃん」
気がついたら、先輩にそう言ってた。なんか、可哀想なんだもの。そういう「可愛いもの」をお守りにして、この先、生きて行った方が、この人は良さそうだもの。
なんとも言えない照れた表情で、その男子、忍田(しのだ)先輩はぬいぐるみを受け取った。大切そうにカバンにしまっている。
ルミちゃん、あげちゃったな。よりにもよってダサメガネの会長さんなんかに。
バスがガタンゴトンと揺れてる。わたしは、カバンについてる新しい青いテディベアをそっとなでた。
ルミちゃんほどお気に入りじゃないけれど、おばあちゃんがこの間買ってくれた子だ。
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