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引っ越しが終わり、その間に溜まっていた仕事をしていた。部屋は前のマンションにあったクーラーと違って効きが良い。良過ぎて寒く感じるくらいだ。
MacBookProでPythonのコードを書き終えた。とても疲れた。あとは納品するだけだ。Gmailで会社に送信した。
時計を見ると、15時を回っていた。気分転換と散歩を兼ねてジョンを散歩に連れて行こうかと思ったが、やめた。散歩するには暑すぎる。黄金の羽毛で包まれたジョンをこの暑さで散歩させるのは酷な話だ。なので、最近は出来るだけ日が沈んだ頃に散歩するようにしている。それに、ジョンは寝ていた。無理矢理起こすのも可哀想だ。
今日は健の最初の登校日だ。本当なら夏休みまで2週間しかないので、健の夏休み中に引っ越して2学期から学校に通わせようと考えていた。しかし、マンションが予定より早く売れたことで中途半端な時期の引っ越しになってしまった。
今日は仕事をしながら心の片隅で健の事が心配だった。新しい学校に馴染めるだろうかと。
雅人は「健なら大丈夫だよ。性格も明るいし、人見知りしないし、誰とでも仲良くなれる。心配するなよ」と言っていた。
確かに、健は元気な子だ。直ぐに人の心を開く事ができた。おそらく雅人に似たのだろう。雅人は、私と違って性格は明るく、人を魅了する力があった。その力のおかげもあり、彼の仕事の営業に役立っている。今年の上半期の営業成績で1番になり、ボーナスの他に報奨金が入ってきた。
新しいマイホームは、今の所とても快適だ。家は世田谷区にしては広く、買い物も自転車で10分しないところに二子玉川があるため困らない。まさか、こんなに早くマイホームが手に入るなんて思っても見なかった。これも、雅人の父の遺産のおかげだ。
雅人の父と母は去年、直撃した台風の影響で土砂崩れに巻き込まれて死亡した。その際に、多額の遺産が入ってきた。私は思わず驚いて桁を1つ間違えているのかと思ったくらいだ。
雅人の父は、桃の農家をしていた。彼は、桃を研究し品種改良を重ねて「育田桃」を作り出した。「育田桃」は従来の桃より一回り大きく、柔らかく甘く、発売当初こそ話題にはならなかったが、テレビで紹介されると人気が出た。今は育田村の名産品となっている。「育田桃」は高級デパートやWebストア上で取引されていて、桃一玉、1000円で取引されている。少しぼったくりではないかと私は思っている。
確かに美味しいが、桃一玉で1000円はやりすぎのように感じる。だが、売上は上場で父が亡くなった後は雅人の叔父が農園を管理している。
ドアの開く音が聞こえた。寝ていたジョンが目を覚まして、玄関へと走っていった。それから、居間にジョンを引き連れて健が入ってきた。彼は笑顔だった。
「ただいま」
「おかえり。どうだった学校のほうは?」
「すごく、良かった。みんな優しくて友達ができたよ」
「そう、それは良かった」
私は安心した。もしかしたら暗い表情で帰ってきたら、どうしようかと思っていたからだ。
「ねえ、おやつは?」
「キッチンにクッキーがあるわよ」
「わかった」
健は、キッチンの棚からクッキーを取り出し食器棚からお皿の上に乗せた。そして、コップを取り出してオレンジジュースを注いで、リビングにあるソファーに座った。
「ねえ、母さん。仕事は終わったの?」
「うん、どうにか」
「じゃあ、一緒にスプラトゥーンをしようよ」
「いいわよ」
「どうせ、俺の勝ちだけどね」
「何を云てるの。今日は負けないからね」
健は、Switchの電源を入れた。私はコントローラーを握った。
今日は、私が勝つ。最近、健はコツを覚えたのか彼に負ける事が多くなっていた。負ける度に意地になっていた。7歳の息子にゲームで負けたからと云って意地になるのは少し恥ずかしいが本当にそう思っているから仕方ない。
*
20時に雅人が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり。今日は定時に上がれたのね」
「ああ、今日は暇だった。おかげで、久しぶりに定時で帰れた」
「よかったじゃない」
「ところで、今日の夕飯は?」
「焼肉よ」
「お、今日は豪勢だな」
「安かったから買っちゃった」
「お父さん!」と健が雅人に向かって走ってきた。
「隆、学校のほうはどうだった?」
「とても楽しかったよ。友達もできたんだ」
「そうか、それは良かった」
私はダイニングテーブルにホットプレートと食器と牛肉と野菜を置いた。そして、一緒にゲームをしている雅人と健を呼んだ。
二人がダイニングチェアに座ると、ホットプレートの電源を入れた。健は、誰かに急かされるかのように牛タンをプレートに置いて、片面が焼きあがるとそれを食べた。
「おい、ちゃんと焼かなきゃダメよ。お腹壊すかもしれないでしょ」
「大丈夫だよ。牛肉はバイ菌がいないてテレビで言っていたから」
「健、野菜もたべろよ」と雅人がいうとプレートに、ピーマン、キャベツ、玉ねぎを置いた。
「わかってるよ」
「本当か?肉ばかり食べていると怪物になっちゃうぞ。それでもいいのか?」
「だから、後で食べるよ」
「さあ、あなたも食べて。今日は沢山買ったから」
すると、ジョンがダイニングテーブルに近づいて座り、尻尾を振り笑顔でこちらを見つめていた。
「ねえ、ジョンにあげていい?」
「生はダメだよ。焼いたのなら大丈夫」と、私が言うと健はプレートで焼かれたカルビを床に置いた。ジョンはそれを食べた。
*
焼肉を食べ終わり、お風呂に入ってパジャマに着替えて寝室に向かった。寝室では、雅人がベッドの上でiPadをいじっていた。
「なに?仕事?」
「いや、ニュースを見ていた。まあ、取引先との話題話を収取しているって意味じゃあ仕事の延長線上だけど」
「何か面白いニュースはあった?」
「特に。また税金が上がるってさ。全く。面倒臭い世の中だよ」
私はベッドに入った。雅人はiPadをサイドテーブルに置いた。
「どうだい?新しい家は?気に入った?」
「うん、気に入った」
「それは良かった。それで、仕事の方はどうなの?」
「まあまあかな。最近はプログラミングができる人が増えたしチャットGPTのおかげで仕事が前より減っている」
「そうか、でも、安心しろ。明美ならどうにか生き残れるよ。きっと」
「そうだといいけど」
「お金の心配ならしなくていい。貯金は沢山あるからね」
「そうだけど、私は働いていないと心配なたちだから」
「まあ、いざとなればどうにかなるさ」
雅人は急にキスをしてきた。焼肉の匂いが微かにした。
「雅人、昨日したでしょ?」
「いいじゃないか。明美を見ていたらしたくなっちゃった」
「あら、元気なのね」
「もしかして、嫌かい?」
「うん。いいわよ」
そのまま、私は雅人に身を任せた。胸を揉まれてパジャマとブラジャーを脱がされた。
今日は特にしたい日ではなかったが、断るほどでもない。それに、直ぐに終わるだろう。
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