第7話 鉄子はMPが多い。



「レベル5になっても、まだ魔力が足りないスキル、か……」

「ええ、あまりにも驚いたので、最大MPを教えてほしいとノゾミくんに頼みました」


「魔力量か? 数値はどうだった?」

「そうです。ノゾミくんが言うには500だと」


「500だと!? レベル5で? まさか、信じられん……」

「いや、さすがは『勇者』というべきか」

「生産系じゃからな、これはますます期待できるのぅ……」


 アカツキは宰相をはじめとするオジサン軍団と話していた。


「魔力量が500で、まだ使えぬ固有スキル、か。『鉄道』とは、それほどまでに恐るべきもの、ということかもしれぬのぅ」


「そうですね。おれたちの世界では、まさに世界を変えたものでした」


 アカツキがイメージしていたのはイギリスの産業革命、蒸気機関車だ。


「世界を変えた、か」

「確かに。魔力量500で発動できぬとなると間違いなく、すごい固有スキルじゃろうて」


「それにしても魔力量500とは。かしこさが100ということじゃな。惜しいことよ。『土魔法』でなく『水魔法』であったなら、『勇者』でありながら『聖女』ともなったものを……」


「アカツキ、そなたやナハよりも、魔力量とかしこさは優れておるのではないか?」


「……同じレベルで、というのであれば、その通りかと。それにおれたちとは違って、魔法スキル持ちでしたしね。『土魔法』ですが」


 この世界に召喚された『勇者』は、優れたステータスを与えられる。


 そのレベル1での初期値が、そのままステータスの上昇値となる。ちからがレベル1で10だったら、レベル2で20、レベル3で30というように上昇するのだ。


 この世界の者は、レベルアップでのステータス上昇値はランダムだ。具体的には2から12までのいずれかで上昇する。サイコロを2個振った合計値である。期待値は7ということになるだろう。


 固定値で上昇する『勇者』と、ランダムで上昇するこちらの世界の人。

 どちらがいいとは言えないが、初期値が高い場合は、圧倒的に『勇者』の方がいい。だから、戦闘系の『勇者』は強い。しかも、最終的に到達できるレベルの高さが違う。


 のぞみは生産系の『勇者』だ。戦闘系の武技スキルはないし、攻撃魔法が扱える『火魔法』や『風魔法』のスキルもなかった。

 回復魔法が使える『水魔法』だと、のぞみのMPとかしこさなら、まさに『聖女』として活躍ができただろう。農地に必要な水分をもたらし、傷ついた人々を癒すことができるからだ。


 のぞみのかしこさの初期値は、実際、アカツキやナハよりもはるかに高かったのだ。

 その代わり、という訳ではないが、ちからとみのまもりの初期値は、かなり低かった。


 かしこさとMPは連動している。だから、のぞみはMPも高い。

 逆に、HPは少ないのだ。


「どの時点で使えるようになるのか想像もできんが、魔力量1000でも使えぬスキルなど聞いたこともないからのぅ。レベル10までには『鉄道』とやらもお披露目してもらえるじゃろう」


「……ただ、あちらの世界では、本当にただの女の子だったんです。今日も、ゴブリンを殺すのに泣きながら吐いてましたよ」


「……精神的な弱さか。勇者にもそれは多いと伝わっておる」

「むむ、課題は多いのぅ……」


 のぞみは、ケイコ教国の上層部であるオジサン軍団から、とんでもない期待をかけられていた。

 しかし、それと同時に、その心の弱さやもろさは、大きな不安材料でもあった。


「それと、ゴブリン相手ではレベル10には届きません。コボルトやオークとなると、聖騎士のみなさんでも、地面に押さえつけて、という訳にはいかないでしょう?」


「痛めつけて、とどめをあの娘に刺させればよいじゃろう?」


「効率は落ちますが、そうするしかないのかもしれませんね……」


 アカツキは考え込むように腕を組み、瞑目した。






 この2日後、問題が発生する。


 アカツキ、ナハの二人の『勇者』と、ケイコ教国の聖騎士たちによってパワーレベリングを行ったのぞみがレベル10に達したのだが、それでものぞみの固有スキル『鉄道』は、MP不足で使えなかったのだ。


 のぞみの異世界での未来に、暗雲が立ち込めた瞬間であった。


 レベル10、MP1000となっても発動できない固有スキル『鉄道』への期待と不安。


 なんとか、のぞみがケイコ教国で生きていけるようにと考えていたアカツキだったが、これは想定外だった。


 少なくとも、『勇者』として得た固有スキルが活用できれば、宰相たちも悪いようにはしないはずなのだ。


 それが、いつまで経っても使えないスキル、というのであれば、そうもいかない。


 そして、のぞみが使える他のスキルは、『土魔法』なのだ。


 この世界、『土魔法』の地位は低かった。


 地面を急に剣山のように尖らせて敵を貫くとか、石つぶてを大量に投げつけるとか、そういうことはできない。

 そういう攻撃魔法が存在しているように書かれているラノベなどでは攻撃も可能な『土魔法』だが、この世界ではそんな感じではなかったのだ。


 この世界では、『土魔法』を行使しても、大地や土に起こる変化はゆっくりとしたものだった。

 いや、もちろん、何億年という時間を使って変化していく大地と比べれば、1時間程度で剣山のように尖らせて隆起させることはできる。

 そういう地学的な視点からいえば十分に早いとも言えた。


 一瞬で発動する『火魔法』や『風魔法』は攻撃魔法として重要視されている。それに、多少時間は必要でも回復魔法として使える『水魔法』は特にケイコ教国では重んじられている。


 もちろん、魔法が使えない者からすれば、『土魔法』も大切な魔法だし、役に立つと言えた。

 ただ、即効性がないため、戦術的な利用は難しく、あくまでも戦略的な城塞建築などで活用するものだった。

 そして、それは人の数さえ集めてしまえば、『土魔法』を使うよりも早く、済ませることができるものでもあったのだ。ケイコ教国は宗教国家だったので、そのような動員は得意分野とされていた。


 そのため、『土魔法』の使い手は、土木作業員のサポート的な役割であったり、用水路にたまった土砂を除去したりという、とても地味な、そう、地味な場面で、活躍とは呼べないだろう活躍をする魔法使いだったのだ。


 固有スキルである『鉄道』を使えない限り、のぞみの『勇者』としての価値は魔力量が多い『土魔法』の使い手、という程度になってしまう。


 アカツキは決断し、女性の聖騎士にのぞみの訓練を依頼した。


 のぞみをダンジョンの中層、レベル10よりも上へと導くために。


 それがのぞみを救うことだと信じて。





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