『サクハラ』やめてください!

弓倉ハルキ

✿ 1話 桜、開花宣言! ✿

桜の蕾が色づき始めた関谷せきや高校では終業式が行われた。


式が終わり、正門前で男女で群れをなす集団もそそくさと学校を出る者も皆、今から始まろうとする春休みに胸を高鳴らせているに違いない。例に漏れず俺、宮本脩みやもとしゅうもそのうちの一人だ。


サッカー部に所属している俺は1年生でありながら、レギュラーの座につくことができた。しかも、関高せきこうは都内の進学校でありながら定期考査、校内模試ともに学年TOP10を外したことはない。我ながら結構凄いと思ってる。だから高校生活は、彼女がいないこと以外、全くもって不満がなかった。



彼女アイツ』が関高に来るまでは...。



特に用のない俺は、親友の月島照といつも通りの会話をしながら、いつも通りの道を歩いて帰っていた。


「そういえば、脩が言ってた『例の女あの子』、どうなった?」

「テスト終わってから毎日絡んできてる。多分目付けられた。」

「あの子見た目からは全然想像できないよなぁ。大人しいし、ザ・清楚って感じなのに。」

「清楚ねぇ...。」


確かに振る舞いやその容姿は清楚で、周りにはそう見えるのかもしれない。実際は全くそんなことはないのだが...。


「実際満更でもないんでしょ?」

「あのなぁ...。1回『サクハラ』受けてみろって。」

「俺は全然大歓迎だから!!」


このように『彼女』の異質な点はまるで伝わっていない...。

そんなことを話しているうちに俺の家についたので、春休みに遊ぶ約束をして解散した。


「平和な春休みを過ごしたいなぁ...。」


ボソッと呟いて自室に入った俺は、視界に入ってきた光景に目を疑った。俺のベットで横になり、スマホを見ている女。こいつこそが最近の俺の悩みのタネ、桜木志乃さくらぎしのだ。


「...何故お前がいる。」

「あ、帰ってきた。ども〜。」

「俺の質問に答えてくれ...。何故お前が、"俺の"家の、"俺の"部屋の、"俺の"ベッドの上にいるんだ。」

「なんでかな〜。宮本くんなら頭いいからわかるんじゃない?あははー。」

「はぁ...。」

「そうそう、今日から私ここに住むことになったから、よろしく〜。」




遡るほど2ヶ月。3学期が始まり教室の至る所から冬休み関連の話題が聞こえてくる中、転校生がやってきた。桜色のショートヘア、身長はやや小さめの、見るからに清楚な女子だった。クラスメイトは男子だけでなく、女子までもが釘付けとなるような可愛さで、初日から凄まじい存在感を放っていた。俺は特に関わりがなかったのだが、休み明けのテスト結果開示後、突然彼女は俺に話しかけてきた。


「宮本くん、凄いね。」


俺は突然のことで少し戸惑ったが、「ありがとう。」と一言だけ返しておいた。その時は気が付かなかったが、彼女は俺の順位の1つ下だったらしい。その日を境に彼女は俺に少しづつ絡んでくるようになった。



いや、『桜木ハラスメント』。通称『サクハラ』をしてくるようになった...。



『サクハラ』と聞くと、昨今問題になっているものに聞こえるかもしれないが、そんな深刻なものではない。それに比べたら凄い可愛いものだ。例えば、休み時間に脇腹をちょっとつついてきたり、膝の上に座ってきたり。そんなようなものだった。最近は少しづつレベルとか頻度が上がってきてるけど。正直ちょっとめんどくさいが、『サクハラ』を受けて俺が本気で嫌がってる訳では無いから全然許してる。


「でも流石に部屋に無断でいるのは度が過ぎてませんかねぇ...。」

「え〜。私がいたらやだ?」

「いや嫌だとか、そういう問題じゃなくてさ...。」

「『嫌だ!』って言わないってことは結構嬉しかったりするんじゃない?もしかして女の子が部屋に来るの初めて?(笑)」


この見た目でこんなことを言うのだから本当に恐ろしい。


「...っていうか桜木はいいの?彼氏でもない人の部屋にいて。普通部屋に来るって嫌がるもんじゃないの?ほら...まぁ色々あるし。」

「私は全然心配してないよ〜。宮本くんだし。」


どういう意味だおい。というツッコミは口に出さずに飲み込んだ。


「襲おうと思えばいつでも襲えるんだぞ。」

「宮本くんが襲う?(笑) 襲う... おそう...。」


徐々に桜木の顔が赤く染まっていく。こういうとこは素直に可愛い。

...っていうか自爆した?


まあそろそろ俺の我慢も限界な所もあるので「帰って欲しい。」と言いかけた。言いかけたんだけど...同時にナチュラルにスルーした桜木の言葉を思い出した。



え...?今日からここに住むって何...???



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