178 奥多摩
荷台で揺られること数時間。
多くが車酔いに苦しんだ末に――。
「奥多摩に到着だ!」
無事に目的地までやってくることができた。
地方の人間がイメージする東京とはまるで異なる緑の豊かな場所だ。
道は狭く、傾斜が多く、一部の民家は蔓に絡まれている。
「愛理、〈地図〉を見せてくれ」
俺が言うと、愛理は「分かった」とスマホを操作する。
(どう見ても日本人だが、Xと同じ異世界人なんだよな……)
愛理を眺めながらぼんやりと思う。
そんな俺に、彼女はスマホを渡してきた。
「本当に敵が少ない……というか全くいないな」
愛理は〈索敵Lv.3〉を発動している。
そのため周囲10キロメートルの敵が表示されるはず。
なのに、〈地図〉には赤い点が一つすらなかった。
「これならどこを拠点にしても問題なさそうね」と彩音。
「そうだけど、念のためにある程度は固まっておこう」
ということで、俺たちの拠点はホームセンターに決まった。
そこそこ大きなスーパーとキャンプ場が併設されている。
どちらも新しいので、昨今のキャンプブームにあやかって建てたのだろう。
「腹が減った! 昼メシにしようぜ!」
栗原が腹をさすりながら訴えてくる。
「そうだな」
「スーパーで何か調達してきて準備しますね」と美咲。
俺は「いや」と首を振った。
「美咲は運転で疲れているだろうし休んでくれ」
「よろしいのですか?」
「ここならBBQができるから大丈夫……なはずだ!」
「じゃあお任せします!」
美咲は笑顔でペコリと頭を下げた。
「そんなわけで、美咲以外のメンバーで手分けして準備しよう」
「「「了解!」」」
スーパーから食材各種を調達。
今日でイベント4日目だが、食材はどれも新鮮だ。
日本を模したこのフィールドには、腐敗という概念がないのだろうか。
BBQの道具はホームセンターにあった。
炭や着火道具、その他、必要な物は何でも揃っている。
それらをキャンプ場に持ち寄り、俺たちは昼休憩を堪能した。
◇
遅めの昼ご飯が終わり、キャンプ用の椅子に座って一休み。
「漆田、俺のポイントがまだ足りていない!」
毒嶋が焦った様子で言う。
「分かっているさ。今からポイントを稼ぎにいこう」
「ではトラックの準備をしますね」
椅子から立ち上がる美咲。
「いや、トラックはここに残して別の車にしよう」
皆が「え?」と驚いた。
「別の車っていうと……?」
「アレなんかどうだ」
俺が指したのは、ホームセンターの駐車場にあるSUVだ。
「おいおい、あんな車じゃ皆で乗るなんて不可能だぞ」
と、爪楊枝で歯間をほじくる栗原。
「だから皆では乗らない。行くのは俺と美咲、あと毒嶋と愛理だけだ」
「はぁ!? なんだその組み合わせは! まともな戦力が毒嶋のペットだけじゃねぇか!」
「目的は毒嶋のポイント稼ぎだから十分だ。愛理の〈地図〉で敵の少ない場所に車で突っ込み、パンサーだけ外に出て戦う。敵を蹴散らし終わると車に戻ってすぐに移動する……そんなヒットアンドアウェイ戦術を想定している」
「人間は車から降りないわけか」
「そういうことだ。だから栗原がいたとしても出番がない」
この戦い方の場合、機動力が大事になる。
SUVであれば、少なくともトラックよりは軽快に動き回れる。
「漆田君たちはポイントを稼ぎに行くとして、その間、私たちは何をしていればいいの?」
彩音が髪を掻き上げる。
「自由だ。周囲を調べたり物を調達したり、各々の思うように動いてくれ。休憩してくれてもいい」
「分かったわ」
「ただ、涼子には一つお願いがある」
「お! どうしたのだい少年! お姉さんを指名してくれるとは嬉しいじゃないか! 久しぶりの混浴か!?」
早くも服を脱ごうとする涼子。
「涼子、今は風斗以外の男がいるっすよ!」
「おっとっと! すっかり忘れていた!」
なはは、と愉快気に笑う涼子。
栗原は呆れ顔で、毒嶋は残念そうにしていた。
「それで漆田少年、お姉さんにお願いとはなんだね!」
「俺の武器を作ってほしいんだ」
「武器とな?」
「リヴァイアサンとの戦いで木刀が折れたからね」
「それで器用なお姉さんに依頼しようってわけか!」
「その通り。涼子は自分の槍も軽々と作ったし、その気になれば刀も作れるかと思ってな」
「さすがに刀鍛冶じゃないから無理っすよー!」
と、燈花が笑う一方――。
「分かった! 刀を作ろうではないか!」
「マジっすか涼子!?」
「模造刀をちょちょいと磨けば完成するのだ!」
大半が「おー」と感心する。
しかし、彩音が「それはどうかな」と言った。
「模造刀を研いでも日本刀にはならないわよ」
「なぬぅ!」
「刃に使われている材料が違うからね。日本刀の刃に使われているのは
「なんてこった!」
頭を抱える涼子。
「私も手伝うわ。研ぐ方法は分からないけど、材料については分かるから。刃に使われている材料次第では、研いで刃をつけることができると思う」
「ありがとう楢崎女史!」
「楢崎女史!? なんか恥ずかしいから名前で呼んで。女史も不要よ」
「承知した彩音!」
とにかく俺の刀は作ってもらえるようだ。
「じゃ、俺たちは毒嶋のポイントを稼いでくる。何かあったらチャットか電話で連絡してくれ」
「それはこっちのセリフ。風斗、無理しないでね」
由香里が心配そうな顔で言う。
俺は「問題ないさ」と笑った。
「漆田、美咲ちゃん守れよ! 絶対だからな!」
栗原がひときわ大きな声で言う。
俺はキリッと表情を引き締めて「もちろん」と頷いた。
「遅くても夕方までには戻るから、そのつもりで頼む」
SUVに乗り込む。
この車は3列シートで、最前列は俺と美咲だ。
2列目に座るのは愛理とパンサーである。
「なんでパンサーの隣が俺じゃないんだぁ!」
毒嶋は窮屈な3列目にぶち込んだ。
「ジョーイ、お利口さんにしているのですよ」
「ワン!」
「ウシ君も大人しくしていろよー」
俺の言葉に、ウシ君が「モー!」と答える。
「では出発!」
俺たちはお隣の
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