152 TYPプロジェクト第二弾
8月23日、火曜日。
昼過ぎ、俺たちは船で過ごしていた。
TYPプロジェクト第二弾に参加するために。
今回の参加者は、島に生存するほぼ全員。
残ることを希望した一部の生徒や行方不明の者以外は参加する。
そのため、海には俺たち以外の船もたくさん。
どの船も大きさは俺たちの船と同程度だ。
大きすぎるとゲートを通るのに支障がでるかもしれない。
――と、〈サイエンス〉の増田が言ったからである。
「あとは合図を待つだけだな」
13時30分、俺たちは目的の座標に到着。
外に出ると蒸し暑いため、船内で快適に過ごす。
「ゲートが開くのって何時だっけ?」と麻衣。
「14時っすよー!」
燈花が答える。
彼女はベッドでゴロゴロしていた。
テレビを観る気はないようだ。
全てのチャンネルでTYPプロジェクトの生放送をしているからだろう。
いつも燈花が座っているソファには美咲がいた。
足下には愛犬のジョーイが伏せている。
「順調そうですね」
「ワン!」
他のメンバーも適当に過ごしつつテレビに目を向ける。
画面にはテレビ局の中継ではなく、手島重工の配信が映っていた。
そちらでなければ手島の声が聞こえないからだ。
『すごいですよ手島さん! 見てくださいこのアクセス数! 5億人が観ていますよ!』
宍戸里奈が手島にタブレット端末を見せる。
手島は鬱陶しそうにしつつも画面を確認していた。
「あの二人って普通にいい感じだよな」
「分かるー!」と頷く麻衣。
「あの金髪君が既婚者でなければ我が親友・里奈のターゲットになっていたのだがなぁ!」
涼子は食事用のカウンター席に座ってテレビを観る。
『そろそろ時間だな』
腕時計を確認すると、手島は部下を呼んだ。
部下といっても彼の倍以上の年齢はありそうな男である。
その部下と何やら言葉を交わすと、手島はカメラに向けて言った。
『それではこれよりゲートの生成の始める。14時00分にゲートが開くので、前回と同じ要領で頼む』
俺たちに向けてのセリフだ。
「いよいよだな」
俺は船の自動操縦機能を設定した。
手島の指示に従い、前回と同様のタイミングで突っ込めるようにする。
設定が終わると、船が緩やかに動き始めた。
「麻衣、カメラの映像を」
「了解!」
麻衣がリモコンを操作する。
テレビの画面が、船のマストに取り付けたカメラの映像に切り替わった。
他の船も俺たちに合わせて移動を開始している。
「みんなついてきているな」
再び手島の配信に戻す。
ほどなくして霧が発生し、何も見えなくなった。
『ゲートを開け!』
手島の声が響く。
それに呼応して、俺はマイクで話す。
「Xの妨害に備えてくれ!」
これは他の船に対するメッセージだ。
前回は近くに隕石を落として妨害された。
今回も同様の手口で脱出を阻止しようとするに違いない。
だから、いつ衝撃に襲われてもいいように備えておく。
「さぁ来るぞ!」
今度は仲間たちに向かって言う。
脱出をかけた手島祐治パーフェクトプロジェクト第二弾。
霧の向こうには手島重工の作業船だけでなく自衛隊も待機している。
もっと言えば世界中が見守っている。
生成AIですら遠く及ばない壮大で革新的な計画。
それが今、成就――。
『部長! 増幅器の様子がおかしいです!』
「「「――!」」」
不穏なセリフが聞こえてくる。
『おかしいってどういうこ……』
そこで手島の声が途切れる。
「何が起きているんだ?」
答えられる者はいない。
霧のせいで何も見えないので状況が不明だ。
「何も聞こえなくなったっすねー?」
「どうかしたのですかな!?」
「嫌な予感がする」と、由香里が呟いた。
「増幅器がどうとか言っていたから、何かトラブルがあったのかもな」
「その場合はどうなるのでしょうか?」
美咲の不安そうな声。
「仕切り直しになると思う。それが今日になるか明日になるかは分からないけど、たぶんそこまで時間を要しないんじゃないか? ゲートを生成すること自体は既に成功しているわけだし」
「同感!」と麻衣。
話している間にも船は進み続けて霧を抜けた。
案の定、いつの間にやら島に向かって進んでいる。
それ自体は手島の声が途絶えた時点で覚悟していた。
だが――。
「おい、テレビがおかしいぞ!」
配信が終わったとかではなく、そもそも映っていないのだ。
真っ暗な画面がこちらの姿を薄らと反射している。
右上には緑の文字で「ビデオ出力1」と書いていた。
「ネットも見られない」と由香里。
「どうなっているのでしょうか?」
美咲が麻衣を見る。
俺を含む他のメンバーも彼女を見ていた。
麻衣はウチの情報収集兼エンジニア担当だ。
「美咲、適当なチャンネルに変えてくれる? ネットがダメでも普通の番組なら観られるはず」
「分かりました」
麻衣に言われて美咲がリモコンを操作する。
しかし、どのチャンネルにしても同じような有様だった。
「ネットの配信はおろかテレビも観られなくなったぞ」
「これがXの新しい妨害っすか!」
「タイミング的にそう思うけど、こんなことができるなら前の時にしていたはず。わざわざ海に隕石をぶち込む必要なんてないわけだし」
皆でアレコレ考えるが分からない。
「風斗、グルチャでどうしたらいいのか訊かれているよ」
麻衣に言われてグループチャットを確認。
たしかに他所の連中が俺に指示を仰いでいた。
増田ですら「漆田君の判断に従おう」などと言っている。
「俺だってどうしたらいいか分からないんだけどな……」
ということで、「とりあえず霧に突っ込み続けよう」と返す。
テレビやネットが機能しない以上、日本側と連携を取るのは不可能だ。
そんな中でできることと言えば、ひたすら突撃を繰り返すのみ。
運良くゲートが開いていたら日本に帰還できる。
「やややっ、これは苦しい状況だなぁ漆田少年!」
「だなぁ」
その後、俺たちは何度となくゲートの座標に向かって船を突っ込ませ続けた。
しかし、どれだけ挑戦しても、霧を抜けた先にはいつもの島が待っている。
テレビは死んだままで、インターネットにも繋がらない。
グループチャットはできるのに。
そんな状況が数時間続いた。
「そろそろ日が暮れるし、今日はもう諦めた方が良さそうだな」
日本側の状況は不明だが、さすがにもう引き上げているだろう。
こちらも各々の拠点に戻る都合があるので、これ以上の長居は難しい。
もっとも、俺たちは〈テレポート〉があるので問題ないのだが。
俺はグループチャットで計画の失敗を宣言した。
こちら側に落ち度がなかったとはいえ、皆の落胆は隠しきれない。
しかし次の瞬間、俺たちの落胆は別のものに変わった。
「テレビが映ったっすよ!」
燈花の声が聞こえる。
皆がソファに駆け寄る。
タロウやウシ君などの動物たちも近づく。
「おいおい、なんだこりゃ……」
復旧したテレビに映っていたのは、上空からの生中継だ。
ヘリのうるさい音に負けじと女性アナウンサーが叫んでいる。
『ご覧下さい! 東京が! 日本の首都が! 完全に崩壊しています!』
崩壊したビル群、至る所から上がる炎と黒煙……。
カメラが捉えているのは、地獄絵図と化した東京だった。
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