150 第九章 エピローグ

 ダンジョンの勝者を決める最後の総合順位は――。


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 総合スコア:374

 総合順位:1/4

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 一瞬の沈黙。

 そのあと、全員が吠えた。


「1位だあああああああああああ!」


「勝ったっすよー! 私達の逆転勝利っすよー!」


「やりましたね! 風斗君!」


「よかった、風斗を奪われずに済んだ」


「漆田少年の快楽ブーストが決まったな!」


「流石ですともー!」


 俺も「うおっしゃー!」と拳を突き上げる。

 それから楢崎グループのスコアを確認。


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 グループスコア:70

 本日の順位:2/4

 総合スコア:373

 総合順位:2/4

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 予想通り、楢崎グループのスコアは安定していた。

 総合スコアも俺達と1点しか離れていない。

 その事実に俺は衝撃を受け、真顔で固まった。


「どうしたの?」


 麻衣が顔を覗き込んでくる。

 他の仲間も俺が神妙な面持ちでいることに気づいた。


「薄氷の勝利だと思ってな」


「薄氷だろうが勝利は勝利っすよ」


「それはそうなんだが、正直、もっと余裕で勝てると思っていたんだ」


「マジっすか!」


「島での活動を振り返った時、これといったミスをしていないからな」


 俺達の持ち込んだアイテムはどれも欠かせないものだった。

 今でも地図タブレット、ライター、鍋セットの3つで正解だと思う。


 島に転移したあとも下手を打たなかった。

 最適解と言っても過言ではない動きをしていたはずだ。


「涼子がサバイバル能力に長けているというポジティブサプライズもあった。転移時の測定で低いスコアだったとはいえ、その後の測定では他の追随を許さないスコアを刻めると思っていたんだ」


「でも、そうじゃなかったと」


 麻衣の言葉に頷く。


「俺達に落ち度があったわけではなく、他所……主に〈スポ軍〉や楢崎グループが想像していたより手強かったというのが本音だ。きっと俺は、心のどこかで他所の連中を下に見ていたのだろうな」


「世界は広いからねー! 楢崎さんのグループにもサバイバルの達人がいたんでしょ! そうじゃないと地図タブ抜きで何日も高スコアを維持するなんて無理っしょ普通に考えて!」


「そうだな」


「そんなこと考えても仕方ないし、今は素直に勝利したことを喜ぼうよ! 1点差の大接戦だろうと勝ちは勝ち! 私達は全員が報酬の500万ptをゲットし、私は言い寄ってきた男どもに『私より弱い男は興味ないんだよね』ってセリフを言える!」


「ははは、モテ男と評判の坂本が振られるわけだな」


「そういうこ――」


 麻衣が話している最中に転移が始まり、俺達はダンジョンの外へ戻された。


 ◇


 〈テレポート〉で拠点に帰還した。

 城の扉を開けると、可愛いペットたちが待っていた。


「タロウー! コロクー! ジロウー!」


 燈花はサイのタロウに飛びついた。


「寂しかった? ごめんね」


 由香里はハヤブサのルーシーを肩に乗せて微笑む。


「安全な場所にいたようですが、快適でしたか?」


「ワンッ!」


「それはなによりです。私も楽しく過ごしていました」


 美咲はしゃがんでゴールデンレトリバーのジョーイを撫で回す。


「皆よく我慢できるねー! わたしゃ風呂に入らせてもらうよ!」


「モォー♪」


 麻衣はウシ君と一緒に階段を上っていく。


「私達も風呂っすよー!」


「ブゥ!」


 燈花はタロウに騎乗して大浴場へ。


「誰でもいいから上がったら教えてくれ。俺も風呂に入りたい」


「なら今すぐ一緒に入ろうぞ! 漆田少年!」


「いやいや、涼子はともかく他が嫌がるだろう」


「私はいいっすよー!」


 階段の上から燈花の声が聞こえる。


「私もいいよー! 今日は一秒でも早くお風呂に入りたいだろうし!」


 麻衣の声だ。

 他の女性陣も「かまわない」とのこと。


「決まりだな漆田少年! 夢のハーレム風呂だぞ!」


「動物もたくさんいるからそんな感じしないけどな」


「またまたぁ、漆田少年は紳士ぶるのが下手だなぁ!」


「いや、マジだって」


 皆の承諾を得たので、俺も大浴場に向かった。

 全員で一緒に風呂を堪能するのは、転移41日目にして初のことだった。


 ◇


 夢のハーレム風呂は全く興奮しなかった。

 やはりペットも一緒ということで性欲が抑えられるのだろう。


 嘘、本当は密かに興奮していた。

 興奮を抑えるのが難しくて真っ先に上がったほどだ。


 ハーレム風呂サイコー!


 そんなこんなで夕方になった。

 晩ご飯まで時間があるため、俺は自室で待機していた。


「無人島も楽しかったが、やはり現代が一番だな」


 久々のベッドはあまりにも素晴らしかった。

 ダイブした瞬間、気持ちよすぎて失神しそうになった。

 スマホやPC、テレビがあるのもいい。


「そろそろ確認するか」


 戻ってから初めてとなるグループチャットの確認。

 案の定、サバイバルダンジョンのことで盛り上がっていた。


『俺もサバイバルダンジョンに参加しとけばよかった!』


『すげー楽しそうじゃん! いいなぁ!』


 不参加だった者の多くが羨ましがっている。

 その時の会話で知ったが、サバイバルダンジョンは並行できないようだ。

 先に始めた奴等――今回だと俺達――が終わらないと次の奴等が挑めない。


『でも油断できないぜ! ラストの暴風雨はマジでヤベーから!』


 五十嵐が大興奮で話している。

 この時の反応を見て新たな事実が判明した。

 ダンジョン内の天気とこの島の天気が異なっていたのだ。


『おい漆田! 楢崎! 次は俺達〈スポ軍〉が勝たせてもらうからな!』


 五十嵐は早くも次のサバイバルダンジョンに乗り気だ。

 明日にでも始めたいと意気込んでいるが、残念ながらそれはできない。

 今日ないし明日にはTYPプロジェクト第二弾の発表があるからだ。


 今回のプロジェクトにはほぼ全員が参加を表明している。

 数少ない例外は栗原など動向が不明な奴等くらいだ。


 もちろん〈サイエンス〉の増田も参加する。

 最初は否定的だったが、俺達が挑んだ第一弾を見て考えを変えた。


「手島祐治パーフェクトプロジェクト……本当に酷い名前だな」


 一人でクスクスと笑いながらテレビをつける。

 ちょうどニュース番組が終わったところだった。

 大手企業のCMが流れている。


「やっぱりいいな、現代は……」


 CMですら面白く感じる。

 空調が効いているので室温も完璧だ。


 ずっとこの環境で過ごしていたい。

 自分はインドア志向の人間なのだと改めて思った。


『これより手島重工未来開発部部長、手島祐治さんの会見が始まります!』


 19時00分になった瞬間、手島の会見が始まった。

 手島は既に席に着いており、背後には大きなスクリーンがある。


「手島、ニーズを分かっているな」


 無意識にそう呟く。

 手島の後ろにあるスクリーンに全て書いていたからだ。

 それを見れば会見を聞くまでもなく内容が分かるようになっていた。


「ついにこの時が来たか」


 会見のテーマはTYPプロジェクト第二弾のスケジュールについて。


 第二弾の開始は8月23日、つまり、明日の14時からだ。

 場所は前回と全く同じで、スクリーンに詳しい座標が載っている。


『前回はちょっとした揺れで機器が故障して失敗に終わったが、今回はその辺の対策もしっかり整えてきたので問題ない。日本政府をはじめ、多くの企業や人の支援によって増幅器の数も増やすことができた』


 手島が自信に満ちた顔で説明している。


『TYPプロジェクト第二弾の成功率について、手島部長は何パーセントくらいだとお考えですか?』


 質問タイムになった瞬間に飛び出た質問だ。

 手島は画面越しでも分かるほどの軽蔑した目で答えた。


『成功率については前回も今回も100%だと思っている。しかし、前回は予期せぬトラブルによって失敗した。今回もそうなる可能性はあるので、成功率などというものには何の意味もない』


 そこまで言ったあと、手島は水で喉を潤し、さらにこう続けた。


『何が起きるか分からない以上、成功を確約することはできない。だが、分かっている限り失敗する余地は残っていない。我々は失敗になり得る要素を精査し、その全てを潰した。企業としてではなく、手島祐治個人の意見を述べるのであれば、絶対に成功すると確信している』


 力強い言葉に、記者たちが「おお!」と沸いた。

 この会見を観ているであろう数千万の人間が同様の反応をしたはずだ。

 俺も「そこまで言い切るか」と感動した。


「実際、前回の挑戦でXの動きは分かった。今回は負けようがないよな」


 テレビに向かって呟く。

 脳内に手島重工や海自の船に迎えられるシーンが浮かぶ。


 これまで何度となく挑んでは失敗してきた帰還。

 だが、今回は違う。


 手島重工が総力を挙げ、日本政府が全面的にバックアップ。

 こちら側も数百人規模の大軍をもって脱出に向かう。

 手島の言う通り、失敗する余地は残っていない。


 いよいよ日本に帰る時がやってきたのだ!

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