069 徘徊者戦と新たな実装

 機械弓兵は一糸乱れぬ動きで弓を構えた。

 光の矢を召喚してつがえている。

 狙いは徘徊者のようだ。


「「「…………」」」


 何も言わずに攻撃が始まった。

 徘徊者の大軍に向かって矢の雨を降らせている。


「「「グォオオオ……」」」


 射られた徘徊者は即死だった。

 外れた矢は地面に突き刺さらず弾けて消える。


「こいつらカカシじゃなかったんだな」


「それどころか凄い戦力だよ!」


「頼もしいっす!」


 弓兵の攻撃速度は驚異的な速さだ。

 由香里の速射にも勝るほどで、さながらマシンガンのよう。

 徘徊者は門に辿り着くことすらできなかった。


「防壁のステータスもやばいと思ったが、弓兵の戦力はそれ以上だな」


 徘徊者は以前と同じく数種類の雑魚とバリスタ兵で構成されている。

 どちらも弓兵が排除するので、今日は眺めているだけで大丈夫そうだ。


(今の内に確認しておくか)


 俺はその場に腰を下ろし、胡座あぐらをかいてスマホを操作する。

 〈地図〉を開いてゼネラル徘徊者がいないか調べた。


(今日も復活していないか)


 ゼネラルは〈地図〉のどこにも表示されていなかった。

 俺達が死に物狂いで倒した黒騎士の代わりはいないようだ。

 昨日もそうだった。


「今日はこのまま終わりそうですね」


 美咲が隣に座る。

 体を密着させてスマホを覗き込んできた。

 素晴らしき胸の弾力にニヤけてしまう俺。


「平和が一番さ。麻衣たちも楽しそうだし文句はない」


 チラリと麻衣の様子を窺う。

 燈花と二人で由香里に弓術を教わっていた。

 どちらもしっかりゆがけを装備している。


「全然飛ばないじゃん! この弓バグっているんじゃない!?」


「バグっているのは麻衣の頭」


「その通りっすよー! ほら、ちゃんと飛ぶじゃないっすかー!」


 麻衣が苦戦している一方、燈花は弓を使いこなしていた。


「燈花、すごく上手。才能ある」


「やっぱり? 私わりと器用なんすよねー!」


 その後も平和なものだった。

 俺達は雑談するなど適当に過ごして時間を潰す。

 そして4時になり、徘徊者戦が終わった。


「戦闘終了! お疲れっすー!」


 機械弓兵が再び機能を停止する。

 全ての門が無傷だった。


「少し不安だったが余裕だったな」


「むしろ今までで一番楽だったね」


「寝るっすよー!」


 話しながら階段を下りようとする。

 その時、スマホが一斉に鳴った。


「もうミッションが発令されるの?」


「違うだろう。ミッションは10時からのはずだ」


 何だろう、と皆でスマホを確認。

『クラス武器実装のお知らせ』という通知が表示されていた。


=======================================

 この度、【クラス武器】を実装することになりました。


 クラス武器は徘徊者に特化した特殊な武器です。

 徘徊者にのみ有効であり、その他の生物には使えません。


 クラス武器は無料で使用できます。

 使わないメリットがないので積極的に利用しましょう。


 クラス武器は徘徊者が現れる時間帯にのみ使用可能です。

 武器には種類があり、コクーン内の〈クラス〉より選択できます。

 複数のクラス武器を同時に使うことはできません。


 クラス武器の試用期間は【8月1日11時59分まで】です。

 期間中は何度でも使用する武器を変更できます。


 試用期間の終了後、使用するクラス武器の最終決定を行います。

 最終決定後の変更はできません。

 様々なクラス武器を使って、自分に合う物を見つけましょう。

=======================================


 通知を閉じると、コクーンに〈クラス〉が追加された。


「徘徊者に特化した特殊武器……また妙な物が実装されたな」


「すごいっすよ! 銃とかあるっす! ていうか種類多ッ!」


 燈花は早くもクラス武器を確認しているようだ。

 俺達も〈クラス〉を開いた。


「マジで半端ない種類だな」


 例えば刀だけで「短刀」「刀」「薙刀」「太刀」と分かれている。

 銃もピストルからロケットランチャーまで幅広く揃っていた。


「とりあえず適当な武器を設定しておかない? 今は召喚できないみたいだけど」


 麻衣が言った。

 こういう時、彼女の適応力は頼りになる。

 俺は「そうだな」と答え、試しにアサルトライフルを選択。

 設定する前に武器の説明が表示された。


=======================================

【名前】アサルトライフル

【説明】

両手で扱う自動小銃。

攻撃力は低いが、連射性能が高くて扱いやすい。

装弾数:30発 / 再装填:3秒

=======================================


 短い説明なのに二つも気になる点があった。


 まずは攻撃力。

 ゼネラル以外の徘徊者は軽く小突くだけでも死ぬ。

 そんな相手に攻撃力など必要あるのだろうか。


 次に再装填。

 ゲームでもないのに時間が決まっている。

 どういう原理かは不明だが自動でリロードされるのだろう。


 ま、次の徘徊者戦がくれば分かることだ。

 俺はアサルトライフルを自身のクラス武器に設定した。


 さっそく召喚しようとするが、今は無理みたいだ。

 先程のお知らせに「徘徊者が現れる時間帯のみ使用可能」と書いていた。

「使用」という単語の中には召喚も含まれているようだ。


「こっちは設定完了だ」


「私もOKっす!」


 燈花に始まり、他の女性陣も終わったと言う。


「皆は何の武器にしたっすか? 私は……」


「待って燈花、今は内緒で!」


 麻衣が止めた。


「どうしてっすか?」


「だって徘徊者戦の楽しみにしたいじゃん!」


「なるほどぉ! たしかにそっすね!」


 麻衣が「いいよね?」と俺に確認する。


「かまわないよ」


「じゃ決定!」


 話がまとまったので、俺達は城に向かった。


「武器の種類に対して試用期間が短すぎるよな」


「8月1日までだっけ?」と麻衣。


「だな」


「たしかに短い! ……って言いたいけど、今日が何日か覚えてないんだよね」


「おい」


「だってこの島にいたらカレンダーを見なくなるし。風斗は覚えているの?」


「7月28日……いや、0時を過ぎているから29日だ」


 麻衣はスマホを確認して「おー」と感心した。


「するとあと3回、計6時間しか試せないわけだ?」


「だな。1回の徘徊者戦で10回は武器を変えないとな」


「そんなんで自分に合う武器が分かるのかなぁ」


「厳しいだろうな。ウチは少人数だし。他所との情報共有は不可欠だ」


 話していてグループチャットの存在を思い出した。

 思えばギルドクエストを受注して以降、一度も見ていなかった。


 折角だし確認しておこう。

 俺は余裕の歩きスマホでグループチャットを開いた。


(やっぱり帰還が視野に入るとこうなるか……)


 チャットの話題はミッションのことばかり。

 徘徊者戦やクラス武器については殆ど話されていない。

 それでも、知りたい情報の一つが見つかった。


 徘徊者戦における敵の数についてだ。

 どうやら他所のギルドはこれまでと変わらなかった模様。

 数千体の徘徊者に攻められたのは俺達だけである。

 敵の数が急増したのは拠点が城になったからのようだ。


 その他に有益な情報はなかった。

 誰もが数時間後に発令されるミッションを待っている状態だ。

 俺はスマホをポケットに戻し、麻衣に話しかけた。


「クラス武器ってミッションに関係していると思うか?」


「いや、関係ないよ」


「きっぱり断言するんだな」


「まぁねー」


「大した自信だが根拠は?」


「ま、勘だよねー」


「勘かよ!」


「任せて、私の勘ってめちゃ当たるから!」


「わりと外している気がするけどな」


「うるせー」


 俺は「ふっ」と笑い、城の扉を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る