#2
先行は老狐。
余裕綽々で人里に降りた老狐は、頭の上にハラリと木の葉を乗せました。
「『犬』と言ったら『飼い犬』が定番だろう!よぉし、あの古狸に一泡吹かせてやる……」
不敵に笑ってまじないを唱えた老狐は砂埃を携えて踊ると、忽ちに茶色い巻き毛が愛らしいトイプードルに化けます。
「完璧だ!よぉし、人っ子を虜にしてやろう」
ふらりと里の中でも賑わう町に進んだ老狐もとい、トイプードルが歩くだけで黄色い歓声を上げる民衆は、我よ我よと里親に名乗りを上げました。気分が良いプードルは適当に選んだ身なりのいい女の足元へ擦り寄ると、他の民衆は残念さと羨ましさを混ぜた瞳でこちらを眺めます。
「あら、私に懐いてくれるの?では早速、家で飼うことにしましょうね」
──チョロいなぁ。
クリクリの目で女を見つめるトイプードルは、心の中でしめたと手を叩きました。
─────
家に着くなり手足を拭かれたトイプードルは、玄関に上がってから10分も経たないうちに風呂へと連れられます。
「外で拾った犬なんて、洗わずに家に上げたら大変よ……ほらほら、嫌がらない」
ニッコリ笑顔の女に押され、狐は渋々入浴する事に相成りました。
最初は嫌々かけられるお湯もあっという間に夢見心地の極楽となれば、老狐は飼い犬も悪くないなと笑います。
「さて、風邪をひかないように乾かさないと」
わしゃわしゃと長い毛を丁寧に拭かれ、ゴー……ッと地響きのような音を立ててたドライヤーの熱風に、思わずトイプードルは顔を顰めました。
──この人っ子め、俺が大人しいからと調子に乗りやがって。
その後も毎日同じご飯を出されたり、なんの刺激もない不毛な日々を過ごしたり、果てはフリフリの洋服を着せられて辟易した老狐。
どうしても外の世界、いつもの森が恋しくなった彼は、女が寝静まった新月の晩にまじないの術を解いて犬神と古狸の元へと逃げ帰りました。
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