第8話 イトミミズ オイシイ

 イモリちゃんの水槽の水質についてはまだ試行錯誤の途中ですが、先日、水槽の底に、汚れを分解してくれるバクテリアが入ったソイル(土をぎゅっと固めた粒のようなもの)を敷いてみたところ、濁りはかなり改善されました。

 そして、イモリちゃんも少し落ち着いたのか、しっかり最後まで脱皮をしてくれるようになりました。


 これまで、バクテリア入りの製品は、うちのイモリちゃんに合うのかしら? と思ってなんとなく避けていたのですが、本当に水の濁りが酷く、藁にもすがる思いで手に取ってみました。

 そうしたらもう、良かったです……。


 ただ、このソイルの粒、イモリちゃんのお口に入る大きさなんですよね。

(お店で私が見たところ、その大きさのものしかありませんでした……。)


 こうなると、イモリちゃんが間違ってソイルを食べてしまって、それがお腹に詰まってしまう、という事故が心配ではあります(実際の事例の詳しい話は聞いたことがないのですが、飼い主は心配性)。


 しかし、土や小石なんかは自然界に山ほどあって、それでも野生のイモリさんたちは生きているわけですから、恐らく、お腹の調子が悪いときに大量に、などということでなければ、多少のソイルは食べても自然に排出されるものかなと思います。

 野生のイモリさんたちは、骨のある小魚や殻のある虫なども食べるでしょうしね。


 また、今使っているソイルの粒は、イモリちゃんのおめめ一つ分から、大きくとも二つ分くらいの大きさですし、小石のように硬いわけでもなく、土を焼き固めてあるわけでもないので、力を加えれば崩れます。

 なので、イモリちゃんが間違って食べてしまっても、お口の中(ちっちゃい歯があります!)やお腹の中で、崩れやすいかな、と。


 そして何より、今は水質を安定させてあげたいのです。

 あまりにも汚れた水の中で過ごすことはもちろん良くないでしょうし、うちの子は水替えが嫌いですから、頻繁な水替えもストレスになってしまいます。


 加えて、脱走事故防止やかくのぐらつき防止、イモリちゃんの歩きやすさ、うちのイモリちゃんはごはんが無いときに砂利などを食べようとしたことがないこと、なども考慮しまして、今はソイルを使うという選択をしております。


 インターネットで他の飼い主様の様子を見てみると、誤食が心配なので、と気を付けていらっしゃる方もいれば、たくさん飼育していらっしゃる方でも、私のと同じような大きさの粒の土を使っておいでの方もいました。


 基本さえ押さえていれば、飼育方法に「絶対にこうしなきゃダメ!」ということはなく、それぞれの子と飼い主様に合った方法を選択することが大切かなと思いますので、今後、より良い方法が見つかれば、イモリちゃんと相談しつつ、また試行錯誤をしていきます。


 ただ、やはり心配ではあるので、できる限りの誤食防止対策はしております。


 対策その一は、ごはんのときの見守りです。


 まず、うちのイモリちゃんは、ごはんを食べるのが下手へたくそです。


 肉食のイモリちゃんは、動くものの方がよく見えるようなので、動かない人工飼料(うちで使っているのはつぶつぶの、金魚の餌のようなもので、水に沈みます)を食べるのは下手くそでも仕方ないのですが。


 ただ、やはり下手くそですので、イモリちゃんはごはんの隣にお口ぱくぱく攻撃をすることがあります。

(イモリちゃんは前足などを使わず、お口でごはんを捕まえます。)


 そんな時に、間違えてソイルをたくさん食べてしまう可能性が高いかな、と思ったので、水の中でごはんをあげるときには、ソイルをどかして、水槽の底のツルツルのところにごはんを置くようにしています。


 そして、イモリちゃんがごはんを全部食べるまで、見守ります。


 イモリちゃんは狙いを外すだけではなく、時折、目の前のごはんをおててで後ろに押しておきながら、「ごはんはどこでしょうか」とこちらを見るのです。


 後ろですよ。


 しかし、こうなると、おててでソイルの中に押し込んでしまったごはんをあとで見つけて食べようとして、ソイルをたくさん食べてしまう、といったことが起こるかもしれませんので、イモリちゃんのお食事が終わるまで、飼い主がしっかり見守ります。


 また、おててで押すだけでなく、ぱくぱく攻撃の勢いでごはんがあちこちに散らばることもあります。

 そうしてごはんがソイルの方に行ってしまったときには、食べやすいように、ツルツルのところに戻してあげます。


 そして、イモリちゃんが陸に上がっているときは、そのまま、陸の上でごはんをあげます。

 その時、水の中にごはんを落としてしまったら、これもソイルと一緒に食べようとしてしまうかもしれないので、できるだけ回収しておきます。


 飼い主としては、陸の上で食べてもらう方がやりやすいです。


 対策その二は、ウンチのチェックです。


 イモリちゃんのお腹の調子を確認するために、日ごろから、ウンチあるかなー、と探しています。

 イモリちゃんのウンチは柔らかいですし、隠れ家もあるので、見つかる前に潰れて分からなくなってしまうことも多いのですが。


 時々でも、出たねー、と確認できれば、飼い主としては安心です。


 そして最後、対策その三は、健康の維持です。

 ウンチの確認にも繋がる話ですが。


 健康に何か問題があれば、普段と違う行動をしてしまう可能性が高くなるかもしれませんし、お腹の調子も悪くなってしまうでしょう。


 実際に、最近のイモリちゃんには、脱皮の回数が増えるという変化が起こっています。

 脱皮の頻度は、季節にもよりますが、普段は数週間に一回くらいかな? というところ、最近は数日に一回です。

 水が汚れていたので、お肌を頻繁にきれいにする必要があったのかもしれません。


 できるだけ環境を整えて、まずは元気に過ごしてもらいたいですね。


 ――と、対策というのはこのくらいです。


 イモリちゃんは脱皮のときにも、脱げた皮を食べるという行動をすることがありますが、うーん、なかなか、全ての脱皮に気が付いて見守るというのは難しいんですよね。


 ただ、うちのイモリちゃんは、恐らく他のイモリさんたちよりは皮に執着(?)しませんし、皮は水槽の底にべたーっとなっているよりは、イモリちゃんの体にくっついていたり、水槽の底にあっても、ふわーっと立体的に立っていたりすることが多いので、ごはんと比べれば、ソイルを一緒に食べてしまう可能性は低いかなと考えています。


 と、ここまでは近況報告でした。

 ここからがタイトルのお話です(遅い)。


 うちのイモリちゃんの場合、今のような暖かい季節には、ごはんはだいたい二日に一度です。


 人間ならば、そのような生活をしていればやせ細ってしまうかもしれませんが、イモリちゃんは平気です。


 というより、イモリは食べすぎると消化不良を起こしてしまったりするようなので、このくらいがちょうどいいのです。


 とはいえ、ごはんのちょうどいい頻度や量は、それぞれの子の大きさや体格、また、その時によっても違うかなと思います。

 うちのイモリちゃんも、やせすぎ・太りすぎになっていないか、脱皮の皮をどのくらい食べたか、食欲はどうか、気温はどうか、などの様子を見つつ、ごはんの頻度や量をその都度つど決めています。


 およそ二日に一度のごはんでも、イモリちゃんはぷにぷにですよ。


 そして、このごはんについてですが、うちのイモリちゃんには栄養が偏らないよう、人工飼料のほかに、時々、乾燥エビや乾燥アカムシなどをあげています。


 それで、この前、イモリちゃんに初めて、フリーズドライのイトミミズをあげてみたんです。


 私がお店で見つけたのは、イトミミズが小さなキューブ状にぎゅっと固められたもので、バラバラのアカムシよりも食べやすいかしらと思ったのです。


 さて、食べてくれるかしら。

 ええ、食べてくれるでしょうとは思っていました。

 だって、うちのイモリちゃんは今まで、ごはんの好き嫌いをしたことがありませんから。


 イトミミズは水中でばらばらになってしまうので、イモリちゃんが陸に上がっているときを狙って、塊になっているのを小さくちぎり、水でふやかして、割り箸でつまみ、イモリちゃんのお口の前へ――。


 ぱくんっ!


 イトミミズの香りを察知したイモリちゃんは、迷わず食いつきました。


 ああ、この、陸でごはんをあげるときの何がいいって、イモリちゃんのお口の中の、ベロがよく見えることです。

 イモリちゃんの、ピンクの、うるうるの、ぽにょんとした丸っこいベロがもう、かわいくてかわいくて……いえ、変態飼い主は放っておいてください。


 とにかく、イモリちゃんはイトミミズを気に入ってくれたようで、用意したお試し分を全部食べ、ちょっぴりおかわりまでしてしまいました。


 ああ、よかった。

 おいしかったんだねー。

 今まで足りていなかった栄養がイトミミズに入っていたのかしら。

 ああよかったよかった。


 ――と、安心していたのもつか


 イモリちゃんは食後、水に入ると、水槽の底のソイルに鼻を押し付けるようにして歩き回り、必死に何かを探している様子――。


 水に落ちたイトミミズはできる限り回収したのですが、細かいものや、香りは残っていたのかもしれません。


 ソイルは食べちゃだめよ⁉ とハラハラする飼い主をよそに、イモリちゃんはイトミミズののこ辿たどり続けます。


 そ、そんなにおいしかったんですか……。


 ――そんなにおいしかったようです。


 その日はイモリちゃん、諦めてくれたようだったのですが、翌日。


 イモリちゃんをふと見ると、水槽の中から飼い主を見て、水槽の壁にお口ぱくぱく攻撃をしているではありませんか。


 ぼこっ、ぼこっ、と、何度もお口が壁にぶつかる音がします。


 イモリちゃん!

 お口痛いよ!

 飼い主は食べられないよ!

 あと、そんなにぱくぱくされても今日はごはんはお休みよ!

 食べ過ぎたらお腹も痛くなっちゃうから!

(イモリに『腹痛』があるのかは分かりませんが……)


 とにかく、イトミミズを大層たいそう気に入ったイモリちゃんでした。

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