天の川の輝きに黒薔薇を添えて
もかの
天の川の輝きに黒薔薇を添えて
1つひとつの星がお互いに尊重しつつ、それでも自分を主張するかのように光り輝いている。その輝きは決してそれぞれを邪魔し合うことなく、全体で一つの輝きをまとまりを見せているようだった。
男がもし星になって天の川の中の1つに入れたとしたら、ポカンと穴が空いたように真っ黒に染まっているだろう。いや、周りの輝かしい星に押しつぶされて、男の存在を知られることすらないかもしれない。
8階のベランダからそんなことを考えながら空を眺めていた。部屋に散乱しているカップ麺などのごみからかすかに腐臭を感じ、男は覇気という存在を知らないかのような顔を少ししかめ覆う。
7月7日、七夕とも呼ばれるこの日の東京だが、見下ろす限り明かりのついた家は1つもない。それは7月7日といっても今は午前2時、丑三つ時ということが関係しているのであろうか。
男が星々を睨みつけていると、流れ星が1つ流れた。しかしそれに目もくれず、ただひたすらに輝かしいものを睨みつけていた。
輝かしいものが嫌いだ。互いを尊重し合うものなど消えてほしいと思っている。そんなものは上っ面だけ取り繕った、10年前の偽善者のクラスメイトと同じだからだ。
身につけていたネックレスが月明かりに照らされ、きらりと光る。男に当たるはずだった月明かりがすべて吸収されたかのようだ。
自分のネックレスが│
すると、ちょうどその視線の先にコンビニがあった。七夕だろうが関係なく、人工的に作られた輝きに2つの黒い影が入っていった。その手にはその影よりも鈍く輝く鉄パイプが握られているように見える。
計画性の無い杜撰なコンビニ強盗だろうか。
少し離れたところにいたもう一つの影は、楽しそうにそれを眺めていた。首もとにあったネックレスは部屋の中にへと投げ捨てられていた。
男がしばらくそれを眺めていると、2つの影がコンビニから飛び出してきた。その手には何も持っていなかった。失敗に終わったようだ。しかし、サイレンの音は聞こえていないので、男は捕まらないことを祈って視線を空に戻した。
空は雲に覆われ、天の川や月の明かりは隠れていた。
男は両手をポケットに入れ、部屋の中に戻っていった。その顔はなにか考え事をしているようだった。
しばらくして、男の部屋から真っ黒に染まった影が出てきた。
「……あぁ、今日は七夕か。なら、そうだな……あの星のような輝きがこの世から消えることを願っておくか」
その後の男の行方は誰も知らない。ただ、少ししてからこの近辺で30代の男女の殺人事件が多発しだしたという──。
天の川の輝きに黒薔薇を添えて もかの @shinomiyamokano
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