〔第0章:第2節|{任務会議:ミーティング}〕
十字架を
刃の輝きは鋭利で、十字剣は芸術品でも装飾品でもなかった。
十字剣は、
金線を
頭に沿って丸く流れている、
人によっては腹立たしく見られるかもしれない。あるいは、心配してくるか。
光の当たり具合の問題でもある。薄暗い部屋にある唯一の光源は、刀身の上下に白く反射している、天井から吊るされた蛍光灯だけ。
その白光りに挟まれた自分の顔。
「——ソウガ?
イントネーションが妙な低い
十字剣を抱くように持っていた青年——ソウガは、映る自分の顔を打ち消すようにして、十字剣を両手の中でクルリと回すと、右手に持ち替えてから振り返る。
向かって立つのは、長身の男。
明らかな異国の肌の、スーツを着崩した格好の黒人。白いタンクトップは
短く刈り込んだ黒い巻き毛は、もみあげから
「華麗な負ケッぷリだッたよなァ、今の」
「うるせえよ。てか、負けじゃねえ。まだ終わってねえだろ」
「終わッテンだろ、もう。なンならおレの十字剣も貸シテやろーか?」
「いらねえよ」
ソウガは一度手首を返し、黒人の男が立っている正面へ。床に貼られた、二本の赤いテープの間に立ち戻る。
「言っとくがバンキ、試し斬りだぞ。試合でもないのに、マジになんなよ」
ソウガに、相対する男——バンキは鼻で
体格はともかく、二人は全く同じ構えを取った。十字剣を持つ右手を右
十字剣の基本的な構え。互いに相手を真っ直ぐ
「顔が不快だ。あっち向け」
「向かセテ見セろよ。デキるもンならなッ!」
十字剣が左右から打ち合い、刀身が金属音を響かせる。
身長と力ではソウガに不利だったが、打ち合った剣で弾かれたのはバンキの方だった。明らかにワザと……クソが。
ソウガの視界の下から、長い左足が振り上がる。勢いに乗じた
「試し斬りって言ってんだろ! 足出すなよ!」
「そレも剣デ、
バンキの剣が振り下ろされるも、ソウガはさらに一歩退がった。
ソウガは、バンキの戦い方が嫌いだった。というか、知る者全員から嫌われていた。
お試しで足を断切するのは、あまりにレギュレーション違反。バンキもそれが分かっているが故、あえて足を突き出してきたのだ。
ソウガは後退しつつ、相手の十字剣を警戒。
その剣が今度は下から斬り上がってくるが、これは想定通り。刃を回すように軽く外側へと弾く。
左手が掴みかかるように伸びてくる。クソ野郎。マジで斬ってやろうか。
そんな思惑も一瞬で過ぎ、ソウガは素早く身を屈めながら剣を引き、手の中で逆手に持ち替える。その
「ウェゥッ!」
後ろへ倒れるバンキ。長い手足を床に投げ出し、左手で胸を押さえる。派手に倒れるパフォーマンスだが、剣だけは持ったまま。これもワザとだ。
「痛ェな……」
バンキは相変わらず薄ら笑いで、胸をさすりながらゆっくりと立ち上がる。
「おレの負ケかァ? イや〜、残念残念だ」
「勝ち負けじゃねえって何回言えばわかんだよ。てか、わかってんだろ。——ガンケイ!」
ソウガとバンキがいたのは、部屋の真ん中ら辺。
ソウガが振り返ったのは、左後ろ。この部屋唯一のドアから向かって、左手奥の一帯。
打ちっぱなしの壁材で囲まれた部屋だったが、その隅の付近だけは一部、特殊な床材が被っていた。床まで繋がったその特殊材の上には、壁沿いに広いL字型の机が置かれ、幾つかの電子機器が置かれ、鏡や
バンキみたく学生服を着崩しているが、バンキほど高くない身長の黒髪の少年。光の辺り具合の所為だろう、若く血色の良いはずの肌はその彫りが深く濃く、青白く見えている。ソウガと似た雰囲気を
花柄の白いシャツにダークブラウンのロングスカート。スカートと同じくらい濃い茶髪を、左右それぞれ目と耳の間から二つに束ね分け、胸下まで真っ直ぐに降ろしている。ガンケイと共に振り向いたよく焼けた小麦色の笑顔には、本人の純然さを相乗させるような、可愛らしいそばかすを浮かべている。その笑みは、ソウガより一つ年上である事を忘れさせるような、実に無邪気な
そしてやっぱり、手には剣を。
「なに?」
ガンケイが眉を
「変わってくれ。相手にならない」
「……それなりに良い試合じゃないの?」
ガンケイではなく、隣の女が言った。
「なら、キキはバンキとやってくれ」
「…………遠慮しちゃう」
女——キキは誤魔化すように笑った。
「試し斬りにもならねえんだぞ。こいつの——」
「——
妙に
少し圧倒されたのであろう、固まった薄ら笑いを浮かべるバンキに、ソウガはあえて偉そうに言ってやる。
「……どうよ?」
部屋の隅から小さな拍手が聞こえた。
「凄っご〜い! ソウガ、やるねぇ〜!」
一部始終を見ていたキキだ。ソウガはバンキに背を向け、剣を拾いに向かってやりながらも聞こえるように吐き捨ててやる。
「お前の
「……よーやく、半人前くらイか?」
ソウガは十字剣を拾うと、剣先を床に向けてバンキに渡す。バンキは唖然とした気構えの抜けないであろう微妙な表情で、ソウガのそれを見てすっとした。気分が良い。
「お前と同じ土俵でなら、こんくらい朝飯前だ」
「そーか? 偶然ニシか見エなかッたゼ? ……そレデもま、
ソウガは立ち位置に戻った。
残念ながら、口論はあまり得意ではない自覚がある。バンキに対し
「ショーがネエよな。結局、おレの事がだ〜イ好キなンだもンな」
「いい加減、自分の好感度の極小さに気付け」
互いにひと言言い合ってからの、腰を落とした次の一瞬。
バーーーーン!!!!
と。誰もがビクッとした音と振動を
部屋中の視線を集めたソウガの背後のドアの前には、一人の女が胸を張って立っていた。
「——わたしの、登場!」
両腰に手を当てて宣言したのは、顎を突き出し、見下すように一行に視線を返す、露骨に
ドアの開閉にしては強過ぎる勢いは、腰まで垂れていた女自身の濃緑色のツインテールを大きく揺らした。首から足先までパンクロックとゴスロリを混ぜ練ったような、派手で装飾の多いモノトーンの格好で、背負っているリュックサックは
部屋の中にいる誰よりも小柄で、誰よりも幼さを残した顔であったが、その視線は幼子とはほど遠い、乱暴な不快感やら嫌悪感を乗せて、この暗い部屋——「
全面コンクリートで囲まれており、壁には換気扇がついているだけで窓は一つもない。天井から下がっている光源となる蛍光灯は、今
向かって左側の作業区域にはキキとガンケイ。部屋の中央にはバンキとソウガ。最後に部屋の右側——暗闇で
「……しけてる」
挨拶無しに
「おはよ〜、シダレ」
小娘——シダレはワザとらしく口角だけを目一杯上げて、誰が見ても「作り笑い」だと分かる顔を一瞬。開け放ったドアもそのままに部屋の中へ。作業区域と床のテープの間を横切り、奥に転がっていた一台のキャスターチェアに
シダレと目が合うと、ガンケイは頷いた。「よう」と、ソウガも。
二人なりの挨拶に対し、シダレは「フンッ」と、鼻を短く鳴らした。
「おレニ挨拶は無シか?」
バンキはニヤリとして言った。シダレは無言で、中指を立て返す。
「機嫌が良イな」
これもこれで、いつも通りの挨拶であった。シダレはソウガの十字剣を見る。
「なにしてんの?」
ソウガは剣先をガンケイに向ける。刺々しい「なにしてんの?」から逃げたわけではなく、当事者であるガンケイを示したのだ。当事者が答える。
「……バージョン9のお試し。シダレも一昨日試したやつ」
「あっそ。……
興味無さげなシダレが顎で指したのは、トレーニングゾーンの暗闇の中。
目を凝らせば一人の何者かが、敷かれたヨガマットの上に座っているのが分かる。座禅を組むかのように
「
ガンケイが言うと、
「おはよう」
冷たく抑揚のない、透くような女の声が聞こえた。シダレが開けっ放しにしたドアから。
視線は再びドアの方へ。
全体が
本人の体だけでも充分、印象的な白さであるにも関わらず、着ている物も全て真っ白で、白無地の長袖シャツに白いアンクル丈のズボンと白いスニーカーを
「おはよ〜、クフリ」
白い女——クフリはキキに軽く頷くと、もう一度「おはよう」と告げ、ガンケイを見た。その手にある剣も。
「新版の説明?」
通った声にガンケイは頷いた。
「そう。ご苦労様」
シダレと同じように、部屋を横断するクフリ。その後ろ髪は腰まで真っ直ぐ伸びている。
「さっき、『
クフリの言葉に、全員の反応は
「うぅ〜。……私はいいや」
吐き戻すようにキキが煙たがり、ガンケイは首を横に振る。シダレは無関心の顔で無視。バンキは苦虫を潰したような表情を浮かべ、ソウガを見る。
「お前が大活躍シたやつジャネエか? ン?」
「うるせえよ」
総じて、あまり楽しい
「だと思った。グレンに言っておくわ」
「それよりさ——」
キキは丸椅子からぴょんと立ち上がると、クフリに尋ねた。
「なんで招集されたか知ってる?」
クフリは首を振った。
「どーセ、任務だろ? 久シ振リと言エば久シ振リか?」
「あんたは、でしょ。この間サボったじゃない」
噛み付いたのは、
「サボッたわケジャネエよ。たまたまイなかッただケだ」
「そのたまたまが、今回も——」
「そう言えば」
減らず口二大巨頭が不快な論争を始めようとすると、クフリが静かに口を挟んだ。
「私も詳しくは知らないけど、任務だとは言えるわ」
「どうして?」
キキは訊き返す。
「
「……どうして?」
キキが深く首を傾げると、ドアがゆっくりと開いた。
「おはよう」
またまた、一人の女が現れた。今度は強く低い声だった。
凛とした顔の女。鋭敏な視線が部屋中を貫いた。一気に引き締まった空気が、過激なほどに全員の肌と意識を刺激する。
濃紅色の髪をポニーテールに
「
「グレン、おはよ〜」
女——グレンは全員を見て頷く。
「
ブーツが音を立てて部屋を横切った。同時にそれぞれが動き出す。
ソウガもバンキも作業台へ向かい、キキから鞘を受け取ると、刀身を納め——ン?
刀身に映った顔——自分ではない者の顔が、奥からソウガを見返していた。その
ガシャッ。
ドアの前で立っていたのは、見知らぬ一人の男。
銀髪のウルフカットが短く跳ね、もみあげは猪の牙のように、口端まで伸びて尖っている。
「グレン、入っても?」
男は見た目通り、細くとも見た目
「嗚呼。入ってくれ」
グレンは頷いたが、シダレが訊く。
「あんた、誰?」
だが答えたのは、別の男。
「同類。——
ゆっくりと、トレーニングゾーンの暗闇から音を立てずに現れた男——メイロだった。
「その、
シダレが再び訊くと、エリートと呼ばれた男は軽薄な笑みを浮かべ、軽く手を振る。
「ソウガ」
「なんだ?」
「それ、貸して」
ガンケイは掌を向けて、十字剣を渡すよう求める。ソウガは剣を鞘に納めると、両手で献上するように差し出した。
「 ……念の為に言っとくけど、作業区域は
鞘とはいえ不用意に音を立てたことが、ガンケイの
「悪い」
素直に謝罪の意を示す。
当然だ。
ソウガはこの場で、最も後輩にあたる。
「では、
第二地下倉庫室の中央で円陣を組んだ9人。
全員が内側を向いて立ち、黒の革ジャンの上下の女——グレンの言葉を促して待つ。
真白の透明感が強い女——クフリ。暗闇にいた和服姿の男——メイロ。
陽気で呑気な洒落た女——キキ。大人びた雰囲気の少年——ガンケイ。
目立つ白黒の派手な女——シダレ。長身のニヤケ面黒人男——バンキ。
そしてこの中で、自分の所在そのものを疑いたくなるほど、普遍的な格好の男——ソウガ。
と、和服姿でグレンの隣に立つ男。
我らがリーダーであるグレン——開口一番は、
「紹介する。彼はダンガ——〈
〈継承ソレット〉。
4つの〈ソレット〉の中で、人の身で個としての『最強の極致』を司る一派。
このご時世において、人里離れた奥地に
「あんたが? 〈継承ソレット〉の
シダレの生意気口調に、男——ダンガは口角を上げた。
「よろしくな、〈
ソウガもシダレと同じで、〈継承ソレット〉のヴァイサーは初めて見た。というより、〈継承ソレット〉自体を初めて見た。話には聞いていたが、向かい合った顔を見るに、他の数人も同じようだった。
「なンか……オーラがネエな」
「おまけにセンスもない。もっとお洒落とか考えなさいよ」
「外国人観光客ミテエだ」
言いたい放題のゴスロリ娘と異国の肌を持つ男。ソウガは隣に立っていたシダレに「おい」と軽く制し、バンキにも同じくクフリの制止が入る。
ソウガは内心、冷や冷やしていた。ダンガは腰に物騒な物を二本も差しているが、こちらは背中を見せて数メートル先に手を伸ばさなくてはならない。互いに悪意を持つ事無く、
さらにソウガの聞いていた話通りなら、腰にあるその二本は、ただの刀剣ではないはずだ。強者
「ハッハー、……お前ら面白いな。初対面で見た目について問われるとは。軽い服が好きなだけなんだが……動きやすい格好を探してたら、これが見つかったってわけでな」
「申請出してくれれば、ものによっては作れるよ」
ガンケイが口を挟むと、ダンガは癖のように返事代わりに笑った。……と、目を細めるとガンケイに指を差す。
「ちょっと待て。……お前、例の
「その呼び方は認めてはないけど……特殊な武具の設計と鍛造、ついでに製造責任者、的な意味合いのことを指してるなら、確かにそうだよ」
ソウガはガンケイと二年の付き合いがある。それは、彼の表情に照れが混じっていると見抜けるほどの期間だった。認められている事が密かに嬉しいのだろう。
グレンが咳払い。ダンガは笑って言った——「次の機会にな。〈十字ソレット〉のブラックスミス」
全員が改まって、グレンに注目する。
「始めよう。急な召集で悪かったが、集まってくれて良かった」
「その
「シダレ」
いちいち突っかかるな。ソウガが呆れ声で再び制すと、片眉を上げるゴスロリ娘。
「……なに?」
「黙れよ」
「あんたも——」
「黙れって」
大多数の視線に、舌打ちがピリオドを打つ。
「何も言わずに、黙ってて」
クフリに先制され、ヘラヘラと肩を
「質問は後で受け付けよう。まずは概要を」
グレンはひと呼吸。
「二日前、〈
〈四宝ソレット〉。
〈ソレット〉の中で唯一、『
それは
故に、〈四宝ソレット〉は〈ソレット〉の中で唯一、戦闘が専門ではない《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。
「詳細を説明する。——『
挙手したのは、ガンケイ、バンキ、ソウガの三人。意外にも知っている者が多い。
「〈四宝ソレット〉が管理している『識別可能な人外概念』のことだ。主に『生類』と『区域』に分けられ、それぞれ命ある生物なのか座標変更が不可能な一帯なのかで、分類される。
ファンショは〈四宝ソレット〉のヴァイサーとして、その対象を直接訪問し、状態を確認するための『巡回任務』に出た。これが二日前の話だ。朝から出発し、二箇所ほどその対象を巡って、夜中には
『巡回任務』では、各所の出発と到着を連絡する手順があった。だがファンショからの最後の連絡は、『二箇所目に着いた』という到着のみ。その二箇所目からの出発——本来あるはずの『帰路に着いた』という連絡はなかった。そして昨日丸一日が経過したが、今現在まで一切の連絡がない。何らかの状況に
〈四宝ソレット〉の秋のヴァイサー・ファンショが行方不明。それはイコールで、秋の「
〈四宝ソレット〉は戦闘が専門でなくとも、「人外」は専門であるために、争い事に出向く事もある。人外種の中には、対話や交渉の通じない種が一定数存在し、それは知的生命が故に関わりを持ちたがらない生類や、そもそも意思疎通のできない半分
〈四宝ソレット〉は『現実の境界』を侵そうとする事象に対し、物理的な制圧処置や事態の収拾を試みる。それが結果として、戦闘や戦争になる事もある。
そして昨年発生した「人外戦争」にて、かなりの戦死者を出してしまっているために、この一年は酷い人員不足ながらもなんとか『境界』を支え続けてきた。専門とする「人外」関連の任務であっても重要性や専門性の低い事案に関しては、手が回らない分を他の〈ソレット〉へ委託して。〈十字ソレット〉が参加した、三ヶ月ほど前の『呪うドロシーの夕焼け事件』も、そうだった。
そして昨年の「人外戦争」にて、ソウガは秋のヴァイサー・ファンショに会っている。
『
『〈四宝ソレット〉や
「はい質問。——
キキの挙手に、グレンが答える。
「『先の大戦』の影響で、秋のエィンツァーは今二人しかいない。ファンショは『一人で大丈夫』だと言って出たそうだ」
〈ソレット〉のリーダーたち「ヴァイサー」に対し、それ以外は「エィンツァー」と称される。〈ソレット〉に共通する階級的なこの二つの称号は、各〈ソレット〉にて明確な定義と役割は異なるが、本質的には意義が共通している。因みに、言葉自体は『
リーダー的な存在である「ヴァイサー」と、ヴァイサー以外の「エィンツァー」。
質問したキキはエィンツァーで、ソウガもエィンツァーである。歴は違えど、立場は一緒。
ヴァイサーはヴァイサー同士対等であり、エィンツァーはエィンツァー同士対等。
エィンツァーは各〈ソレット〉間で共通した、ヴァイサーの
「ざまあないわね」
であったが、シダレには通じなかった。その言葉は全員で無視した。
ガンケイが挙手し、我らがヴァイサー・グレンに尋ねる。
「装備はどうする? 戦闘任務じゃないなら、手ぶら?」
「いや、一式持っていく。状況次第で夜間捜索も行う。ファンショの
「アンテツとドンソウの分も?」
「頼む」
「そうじゃん」と、思い出したようにキキ——「二人はどうするの?」ダンガも同調する。
「そう言えばそうだな。『
「ドンソウはうちのエィンツァーだ。二人は今、〈
ガンケイは「了解」と。
バンキの挙手。
「そレデ? このエリート様は、おレらと一緒ニ行くンか?」
親指を向けるバンキに対し、ダンガは首を振る。
「いや。実はたまたま近くにいたから、顔見せついでに寄っただけだ。〈
「別件ってなに? 整形?」
「違う違う。俺らも別の
「
「シダレ、話が脱線してる」
クフリの制止が入るが、ダンガは続けた。
「いいよいいよ。——〈四宝ソレット〉が『
何故かワクワクしてそうなシダレに、何故か嬉しそうに語るダンガ。……この近くにそんな奴がいるって言ったか?
「獣に言葉は通じねえって事で、そのまま俺らに白羽の矢が立って、今は〈
ダンガは苦笑し、腰に差した刀剣を手で叩く。そのどちらか、あるいはどっちもは、普通の武器ではない。ソウガの聞いていた話が本当なら、「
「元属武具」は〈四宝ソレット〉で管理していた『特定管理対象』で、発見された異常物であるも、解析が終了しているために〈継承ソレット〉へ貸与されている。
膨大な元素属性的なエネルギーを活用する、超常的な威力を有する武具——だったか? 人の身で使いこなせるのはそれこそ、〈継承ソレット〉くらいであると判断されたもの。そのどれかが、今この場にあるかもしれない……。
ふと疑問が湧き、ソウガも挙手する。
「二箇所目の捜索って事は、一箇所目があるだろう? あと、その道中は? その辺の捜索はどうする?」
グレンが答える。
「春のヴァイサー曰く、
「ジャ、おレらニ押シ付ケテ、サボるわケジャ無イらシイな」
「春だけが遊ぶのね」
減らず口二人の文句は、キキの言葉に流された。
「結局、二箇所目ってどこなの?」
「それが——」
グレンは言葉を切ると、短く溜め息を一つ。ダンガも露骨に視線が遠のく。……何だ?
「懸念事項だが……」
グレンは手にしていた紙の束を見せる。
通常、人間的な戦闘が専門である〈十字ソレット〉の『戦闘任務』であれば、ここから具体的な戦略や戦術を話し始める。しかし、そうはいかないらしい。
紙に写っていたのは、どこかの航空写真。遠目から撮影された、周囲が山に囲まれている地帯。その真ん中には、円形に近い家屋の密集地域。超田舎だが、集落と言えるくらいには密集している。
写真の右下には、無機質なゴシック体で書かれた漢字が三文字。
「……う〜わ……。面倒な事になりそう………」
シダレの隣で、会議中一言も発していないメイロが呻いた。
そこには「針子村」と書かれていた。
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