第14話
あれから数週間が経った。私はなんとかボロも出さず、
つまり私の行動次第で佐伯君の死を免れる可能性があるということだ。私はこの三ヶ月間、これから訪れる選択肢を間違えることなく七月二十八日を迎えなければならない。
上手くいくかはわからない。それでも、もう一度やり直せる保証などないのだからできる限りのことはやるしかない。そして悔いなくさらに未来へと進もう。
そう決意してから、まず私はできるだけ前回と同じようにふるまうことを徹底していた。初めはあったばかりで距離を縮めることが優先だ。自然にふるまえていた前回の動きをそのまました方が効果的だと判断した。
しかし、佐伯君の近くにいるとどうにも落ち着かない。鼓動も幾ばくか早くなっている気がする。毎度変な態度を取ってしまわないか不安になりながらもなんとかここまでやってきた。
そして今日は部活動の写真撮影の日だった。何事もなく授業が終わり、私たちは調理室に集まった。
「今日は部活動の写真撮影の日だけど、忘れてないわよね?」
「あれ、今日だったっけ。明日だと思ってた」
案の定というか、前回と同じように撮影のことは忘れていた夏葉がハッと気づいたような表情で答える。
「もうすぐ時間だから行きましょうか」
調理室に鍵をかけ、私と夏葉は佐伯君を昇降口に待たせ、職員室に向かった。鍵を返し終わり廊下に出ると、やはり夏葉はまだ職員室の中だった。
この後はアネモネの花の前で写真を撮り、そのまま解散だったはず。しっかり違和感のないよう前回と同じように行動しなければ。
そんなことを考えていると後ろからバラバラと何かが落ちる音が聞こえた。振り返ると床一面にノートを広げ、あわあわと拾い上げようとしている女子生徒が一人いた。胸元のリボンが卒業した先輩と同じ色だった。つまり今年の一年生だ。集めた課題を職員室に持ってきたところ手を滑らせてばら撒いてしまったのだろう。
さすがに見ているだけというわけにもいかないので一緒になって拾い上げることにした。しかしこんな事前回あっただろうか。
すべて拾い集めるとその子は「本当に助かりました。ありがとうございました」と丁寧に頭を深々と下げ職員室の中に入っていった。見送って戻ると夏葉はすでに用事を済ませ廊下で待っていた。
「ごめんなさい、待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ。ちょうど今出てきたとこ。佐伯君待たせてるし行こっか」
夏葉の言う通り、今回はかなり待たせてしまった。気持ち足早に昇降口へ向かうと、前回と同じような場所で佐伯君は待っていた。
「佐伯君お待たせ。遅くなってしまってごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」
外に出ると花壇の前には見たことのある三脚が一つ、若い女性と教頭先生と一緒に立っていた。目が合ったので軽く会釈をして挨拶をする。
「料理研究部です。本日はよろしくお願いします」
「写真家の瑞樹です。よろしくね。それじゃあ早速写真を撮りたいのだけれど、どこか取りたい場所はある?」
前回はアネモネの花の前で撮ったんだったっけ。今回もそうなるだろうが、同じ行動を繰り返すために二人にも希望を聞いた。
「特に希望はないです」
「あたしもどこでもいいよー」
全く同じ返答が返ってきた。確認も終えたところで瑞樹さんに報告しよう。
「それじゃあ、あそこで撮ってもらってもいいですか?」
色とりどりのアネモネが咲いている花壇を指さして提案をした。もちろん快諾してもらえた。
準備ができたので三人並んで花壇の前に立った。前回と同じように左に夏葉、右には佐伯君だ。ただ何故だかやはり、佐伯君が近くにいると少し緊張してしまう。私は無意識のうちに一歩左にずれてしまっていた。
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