1巻 3章 3話

サイプレス号の下層で3人と2匹は泥のように眠った。


クラウンは珍しく一番に目が覚めた。

久しぶりに部屋に戻ってみるとほっとした。


鏡に写る姿を見て、少し背が大きくなっている事に気づいた。

「マザー。ただいま。僕、背が伸びたかな?」


ーはい。大きくなりました。頑張って成長しましたねー

ガッツポーズをして喜ぶクラウン。

船内のテロップが流れ続け、眺めると今まであった事を思い出させてくれた。


ーmcsからお届け物です。トロフィーが追加されましたー

小包を開けてみるとアルバ山の模型にメモが付いていた。

「アルバ山、奪還おめでとう!感謝を込めて。 フリー」

クラウンは微笑んで部屋の棚に飾った。


シャトルに戻るとスノーも同じアルバ山の模型を棚に飾っていて、2人とも笑った。


みなで食事をしているとシャトルにテロップが流れた。


ー水素工場のガリレオ氏から送金とメッセージです。「機密事項の為、明細証は出せませんが、お一人につき5000クレジット送ります。お受け取り下さい。ありがとうございました。」ー


3人はスプーンを落とした。


ーガリレオ氏よりジュピターラビリンス特製のエンジンパーツが3つ届きましたー


3人はハイタッチで喜んだ。


⭐️


ジュピターステーションのギルド。

広い部屋にポッドが等間隔で斜めに並んでいる。


3人はそれぞれポッドに入った。


水素工場、ジュピターラビリンスの廃品回収、工員の救助の特別報酬、ギルドのワッペン回収、クラウンは全ての報酬を受け取った。

全身が金色に2連続光りクラウンはレベル10になった。


「シシッ!パーツ屋に行けるー!」スノーはテンションが上がった。


スノーが運転するジュピターステーション内専用パークカートに乗ってパーツ屋「ヘイスティー」に向かった。


店内は所狭しと商品を陳列しており、スノーは体を斜めにしてズイズイ奥に進んだ。クラウンは後をついて行くが、スノーはどんどん曲がりすぐ姿が見えなくなった。振り返ると棚の隙間から、ブラストが見えた。入口の商品にすぐつかまり買い物モードになっていた。


スノーの声がする方に進むと、無精髭に黒髪のオールバック、両腕にタトゥの入った男と親しげに話していた。


「よう!スノー!今日はどうすんだ?」


「見てくれよ、これ。」


「あれお前、ギルドになったの?」


ディスプレイをみると無精髭の男は歓声を上げた。


「おおーう!すごいのゲットしたね。何倍も早くなるぞ!」


「ワリぃけど、友達の分も一緒にやってくんない?」


「そりゃーお前の頼みなら、友達価格でいーけど、まあまあ高くつくぞ?」


「大丈夫、みんな払えるくらい持ってる。」


「あんなに若くてか?」

無精髭の男がクラウンを指差すと、クラウンはお辞儀した。


「クラウン、ブッチだ。チューニングがハンパなくうまい!」


「よろしくお願いします。」


「おう。任せな。数日あずからせてくれな。」


「スノー、その間ウチに泊まってくだろ?」


「あ、いい?もう1人いるから3部屋頼むよ。」


ガサガサー。

買い物カゴをパーツでいっぱいにしたブラストが現れた。

「レジどこですか?」


「ばあちゃん、レジ。」ブッチが上を向いて声をかけると、天井から正座したままの老婦人が降りてきて、スキャンすると380クレジットと表示された。


「早。」ブラストは、いつスキャンしたのか?何か不思議な力なのか?ブッチの祖母の周りをキョロキョロみた。


スノーはブッチと軽く打合せし「後で顔出すわ。」と、手を振った。


「見に行ってもいいですか?」ブラストは興味深々だ。


ブッチも歓迎した。「おう。パーツもいっぱい買ってくれたから、同時にやっちゃおう。」


「僕はチョコと部屋でゲームしたり休んでる。」


スノーに連れられて、クラウンは店をでた。ブッチの隣の店もブッチの店だった。


「スペースパラダイスカフェ・ジュピター。すぐ隣じゃん。」


「シシッ!個室になってるから空いてる部屋使っていいぞ。」


スノーとクラウンはジュピターステーションのドックまで犬達を迎えに行き、スノーはブッチの所へ、クラウンはブッチの店の部屋に向かった。


⭐️


廊下は静かだった。

クラウンはペットスペースのあるシングルタイプを選んだ。

部屋はいたって普通、モニターにイス、シングルベッド、ペットスペース、シャワーとトイレがあり、飲み物を注文するとトロピカルジュースがスペースシャトルのミニチュアに乗って運ばれてくる。


チョコはペットスペースで丸まって寝始めた。


久しぶりにクラウンはゲームに没頭した。

数時間後。

「休憩〜。」

ベッドに倒れ込むとチョコが飛び乗ってきた。

まったりした時間が流れた。


モニターにテロップが流れた。


ーイブさんからメッセージです。「ギルドのイブです。いきなりですみません。明日、ジュピターステーションで調達のクエストが終わるので、その後会ってお話できませんか?」ー


クラウンはベッドから飛び起きた。

どうしよう?部屋中見回しても飲みかけのトロピカルジュースしかなかった。


「ギルドのクラウンです。いいですよ。ギルドで待ってたらいいかな?送信。」


心臓がバクバクしている。

すぐ返信がきた。


ーイブさんからメッセージです。「クラウンさんありがとうございます!ドックで待ち合わせして私の部屋でお話ししませんか?その後ご飯も行きませんか?欲張りですか?」


「いや、大丈夫。明日、何時にしますか?送信。」


「10時には終わる予定なので、11時はどうですか?」


「わかった。明日ね。送信。」


「うわー。どうしようー。」

声に出してうろたえているとブラストからのコールが鳴った。


「クラウンー、みんなでご飯食べない?」


「わ、行く行く。今どこ?」


「ブッチさんのガレージでBBQするから、チョコも連れて来てー。場所チェックしたー。」


「は、あ、うん。マップのチェックの所ね。」


「寝てたか?待ってるぞー。」


クラウンはオロオロしながら合流した。


ブッチの店の裏は広いスペースの奥に工場、重機、ガレージがあり、ガレージ前に炎が見えた。


ブッチは肉の塊に遠くから塩を投げて豪快に料理していた。

スノーたちが手を振って合図した。

記憶がないままクラウンは席についた。


「どした?まだ緊張してんのか?ブッチはこう見えていい人だぞ。」心配そうにスノーが話しかけた。


「おい!スノー!」ブッチは肉をひっくり返しながら煙たそうに言った。


「違うんだ。女の子に初めて誘われたんだ。」クラウンはもごもご言った。


「えーー!!」ブラスト、スノー、ブッチの声が揃った。


クラウンがディスプレイを出してログを見せた。


「ホントだ。」ブラストがクラウンの顔を見たら、嬉しそうではなく微妙な表情をしていた。


「僕、明日どうしたらいいんだろう。」


「声ちっさ、しかも簡潔なやりとり。シシッ!明日、初デートか。」


「皿、出しな。こりゃモテないやつのなんだ?その、アレだな。」ブッチが焼きたてのステーキを差し出し、クラウンは皿に乗せてもらった。


「シシッ!ブラスト、こんな機能ギルドにあったんだな。」スノーはステーキにかぶりついた。


「機能としてはあるけど、知り合い以外でいきなりってないな。オレは一回もないね。」ブラストがディスプレイを出しギルドのメンバーリストをチェックし始めた。「ギルドのイブちゃんね。あ!いた!可愛いーー。調達がんばります!だってー。いいなー。」


「ほんとだ、、カワイイ。」クラウンはのぞき込んだ。幼い顔の少女はクラウンと同じ歳。明日、ジュピターステーション到着予定となっていた。


「シシッ!オレも自己紹介書こうかな。」


「モロクリアンの戦士です!寝相が悪いです。って?」ブッチがくしゃっと笑って言った。


「ブッチもういっかい言ったらお前の部屋で寝るぞ。」


「聞いて、僕どうしたらいいか教えて。」


3人が少し黙って考えた。

焚き火のパチパチする音がゆっくり流れた。


「モテるには、豪快にご飯を食べるんだ!」スノーが閃いた顔で言った。


「明日、女の子の部屋に行くんだから、いい匂いで行けよ。後は女の子の話を聞いてやればいいのさ。相づちもしろよ。」ブッチが真面目に答えた。


「ブラストも何か言ってやれ!」スノーがブラストに言うと、ブラストは力強く言った。「自信もてよ!」


「自信ないよ〜!」情けない声でクラウンは笑い、みなも笑った。


BBQと焚き火を楽しみ、解散する時、ブッチが祖母にコールした。

「ばあちゃん、クラウンの部屋にとびきりいい香りのシャンプーセット置いてやってくれ。」ブッチはクラウンにウインクした。


「シシッ!オレ達にもくれよ。」


「お前らは明日もここだろ?いい匂いしなくていいんだよ。」ブッチは半目を下げて言った。


⭐️


「回って、OK!」ブラストのお見立てが終わり、デート服にクラウンは着替えた。


ドックで待ってると11時にコールが鳴った。

「クラウンさん準備ができたので203に来て下さい。待ってます。」


「うん。わかった。今から行くね。」

ドキドキしながら203ドックに入ると、体がフワーっと浮いた。

扉がスイン。

開くと小柄な女の子がフワッとやってきた。

ゴーストのフリーズをかけられたみたいにゆっくりに見えた。


「初めまして、イブです。今日は来てくれてありがとう。」


「初めまして、クラウンです。誘ってくれてありがとう。」


笑顔で振り返りながら前を飛ぶイブについて行き、部屋に入ると無重力は消えた。


「ソファーにどうぞ。」


女の子の部屋だ。いい香りもする。

「ソーダ飲みますか?」


「うん。」クラウンは部屋をキョロキョロ見てはソーダを少しずつ飲んだ。


イブから話し始めた。

「同い年なのにすごいな。って思って、話がしたくなってメッセージ送りました。迷惑じゃなかったですか?」


「ぜんぜんっ。迷惑じゃないよ。あと、すごくもないよ。」


「だってレベル二桁でしょ?私なんてまだ一桁だから。」


「二桁になったのなんて本当、最近だよ。」


「そうなの?この仕事って孤独も多いじゃないですか?だから時々、誰かと直接話がしたくなって。」


「それでリストで見てメッセージくれたんだ。」


「そーなんです。無視されたりする事もあるけどね。」


「びっくりしてるだけじゃないかな?はは。」

期待していた話じゃなくてクラウンは少しがっかりした。


その後は、ブッチのアドバイス通り、女の子の話を聞いた。


「あ!もうこんな時間。ご飯に行きませんか?」


「そ、そうだね。」


「私、ジュピターステーション内にオシャレなカフェ見つけたんです。行きませんか?」


「うん。そーしよう。」


若くて幼い2人はギルドあるあるで少しは盛り上がった。


オシャレなカフェからは宮殿がよく見えた。

オーガニックプレートを注文した。

思い出したクラウンはご飯を豪快に食べ切った。


「うふふ。私は調達系のクエストばっかりなんだけど、クラウンはどうやってクエスト選んでるの?」


「なりゆきとかーなりゆきばっかりだな。」


「どーやって早くレベルアップしたの?」


「早いって思った事はないけど、今できる事をしただけかな。」


「ふーん。そーなんだ。」


「クラウンはどの銀河系が好き?」


「えー?えっと、太陽系以外出たことないかな。」


「それで、そんなに?私もがんばろっと!」


クラウンの自信のなさがイブに伝わってしまい、食べ終わると、それぞれ会計を済ませ、イブは次のクエストに向った。


「クラウン、今日はありがとね!また近くになったら遊ぼうね!」


「イブも元気でね!じゃまた!」


クラウンは走りだした。

急にみなに会いたくなってブッチのガレージまで走った。


⭐️


「おー!デートどうだった?」すすで汚れたスノーとブラストが駆け寄った。


「デートかなんかよくわからなかったけど、終わった。緊張したー。また遊ぼうねって。」


「この広い銀河でまたね。だとー?!」ブラストはクラウンと肩を組んだ。


「こっち来いよ!」ブッチが立ち上がり、後ろにチューニングが終わった3船が輝いていた。


⭐️


続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る