目が覚めたのはーエリンギル
ガシャリ、と冷たい感触と、金属音がして、エリンギルは目覚めた。
ずっと、夢の中に居て、今目覚めたような感覚だ。
周囲を見回せば、石の壁で、片腕はまだ鎖に囚われている。
もう片方の腕は。
「……やっ…わよ……」
小さな声がして、足下に目をやれば、血の海の中にエリーナが倒れていた。
ごふり、と口から血を溢れさせる。
「ざま……み、ろ」
明らかな罵倒の言葉を投げつけながらも、その眼には涙が浮かんでいた。
エリンギルの右手は、血に塗れている。
「エリーナ!!」
駆け寄ろうとするも、左腕の鎖が邪魔で近くにはいけない。
必死で戒めを解こうと腕を引くが、ガチャガチャと金属音がするだけだ。
「……何をした!」
俺は何をした。
お前に何をした。
お前は。
「………ふ…」
エリーナが握りしめていた手を力なく開く。
ころん、とその手から転がり落ちて石畳に煌めいたのは、小さな瓶。
見覚えのある、「忘却薬」の瓶だ。
エデュラが去った事は覚えている。
耐えがたい痛みも。
リリアーデと話した内容も、薄っすらとは覚えていた。
誰かのせいにしようとしても、自分の非は軽くならずに、絶望したのだ。
「ばぁ……か……あの女、だって……兄上を愛してた、のに……」
「リリ……リリアーデは何処だ、どうした……」
ガシガシと左腕を力任せに引いたせいで、鎖が食い込んだ所が擦れて血を滲ませる。
エリーナは五月蠅そうに眼を細めた。
「……助けようとし…のに、あんたが、殺した……じゃ、…ない」
何を、言っているんだ。
下がれと言って、あいつは出て行った。
それから……それから?
「殿下、お飲みになって下さい」
「……殿下、生きて、ください」
「お慕いしております、ギル様……」
嘘だ、夢だ。
右手に残る、骨を砕く感触なんて……。
「……嘘だ」
「ふ、ざけんな……愛して、貰ったくせに、全部捨てたくせに!!……たしと、エリ、ドは愛されなかった……」
叫んだせいで、エリーナの口からも腹からも夥しい出血が広がる。
気が付くと、沈痛な面持ちの騎士達が、鉄の檻の外で立ち尽くしている。
「何をしているんだ、エリーナを……」
「禁じられております。エリーナ様のご命令です」
何を言っているのだ?
助けないと死んでしまうではないか。
思い切り腕を引けば、壁が崩れて、漸くエリーナの近くへと膝を着けた。
だが、もうその目には何も映してはいない。
微かに、唇が動く。
「……に、えは…生きるの……ざ、まぁ…ろ」
最後の最後まで口の悪い妹だった。
「兄上は生きるの。ざまぁみろ」
血まみれの、口も性格も悪かった妹の亡骸を抱きしめる。
慟哭するエリンギルを、騎士達はただ見守った。
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