6-新たなる、番

数年が過ぎると、また王子の態度に変化が現れた。

冷たい目で見たり、無視することはないけれど、少し傲慢な態度を取るようになってきたのだ。

心当たりは、ある。

またエリーナ姫だ。


「番があんなに地味で、お兄様がお可哀そう」


城の人間はそれでもあのエリンギルの暴力を身に受けた者も多く、エデュラを排除しようとするものも噂話も起きなかったが、社交界では違う。

確かにぱっとしない見た目なのは否定できない。


王子も番だという事は否定しないが、軽んじるような言動が増えてきた頃、一つの出会いが訪れた。

薄紅の髪に深紅の瞳の可憐な伯爵令嬢が城に訪れ、王子と面会をしたのだ。

エリンギルはその美しく可憐なリリアーデを見た時に、運命を感じたという。

エデュラはそれを同じ広間で見つめていた。

確かにエデュラよりも、竜としての魔力は高いのかもしれない。

赤い色は火竜としての力だと言われている。

美しく可憐な伯爵令嬢は、それでもその場で涙を流しつつ、番だとは告げずに場を辞した。

後々王子が彼女の家に訪れて問い質し、実は、と申し出たのだという。


エリーナ姫も彼女を絶賛した。


「リリアーデ嬢ならお兄様のお相手に相応しいですわ」

「兄上が娶らないのならば、僕が娶ってもいい」


エリード王子も煽るように付け足した。


すぐにも婚約解消をと迫ったエリンギルに、国王と王妃は首を縦に振らなかった。

以前の様子を覚えていたからだ。

本人は半分以上我を忘れていたが、周囲は忘れてはいない。

だが、エリーナ姫はエリンギル王子をさらに焚きつけた。


「知っていまして?お兄様。ちょうど同じ頃リリアーデ嬢は隣国へと旅に出ていたのですって。そして、エデュラ嬢が戻ったのと同じ日にお城へ挨拶に来てらしたのよ」


隣国へ行っていたという証拠は何もない。

海路で1日の距離である。

だが、城に訪れた日は裏付けがとれてしまった。

一つの真実が、別の虚構を覆い隠してしまったとしても、それを炙り出す手段がなければどうしようもない。

先んじて、別の記録を父親のポワトゥ伯爵は握り潰していた。

名簿に書き入れることは不可能でも、何かの事故で名簿が汚れて読めなくなる事はある。

その事実にエリーナもエリンギルも、当事者のリリアーデすら気づいていなかった。


王子はならば、と愛する者に心を傾けていく。


学校が始まる直前の出来事に、エデュラはまた心を引き裂かれた。

どんなに番だと主張したところで、運命で繋がっている筈の相手に否定されれば証明の仕様がない。

更に今回は相手が居り、二人が番だと認めているのだ。

国王や王妃が認めない事の方が奇跡と言えただろう。



人は信じたいものを信じてしまう生き物だ。

帝国への旅から四年経っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る