第5話 遺物

「久しいね、ドンワーズ君。こうして実際に顔を合わせるのは〝あの時〟以来かね」


 小綺麗に纏められた艶のあるブラウンの長髪、どことなく相手に威圧感を与える赤い瞳に年齢を感じさせる顔に刻まれたしわの数々。

 ダッカニア国、現最高指導責任者——政統首カッキスタ・フォーゼンミリア。

彼女と直に顔を合わせるのは、ドンワーズが『ダッカニア』に帰還した当時から数えておよそ一、二年ぶりだった。当時と変わらず光すら飲み込んでしまいそうな漆黒の上着を纏い、その下から覗くシャツの縁には金糸が道を描いている。その黒と金のコントラストが我が国のトップである彼女を象徴する証であった。


 彼女と相対している場所は当然ながら調査局ではなく、国の中心に位置する政統府内のいち会議室であった。ドンワーズの横には部門の三人に加え、当事者であるトルスタが椅子に腰かける。 

 そして艶のある木目のテーブルを挟んだ向こう側には、カッキスタと今回の事で招集が掛かった各局を取り仕切る大臣が数名。極秘も極秘の今回の会談は、こうして行われることとなった。


「お久しぶりです、カッキスタ統首。今回の件ではお騒がせして誠に申し訳ございません」


「ふむ、そうだな……まぁ、君がホラ吹きではなくなったというだけさ。しかし、まさか本当に……」


 今回の事で、調査局———主にドンワーズが作成した資料を捲りながら重苦しい息を吐く政統首。かつて彼女が目の前の男から告げられた、常軌を逸した報告の数々が鮮明に脳裏に蘇る。


「それで、あの遺物に関してようやっと説明してくれる気になったというわけだね?

しかし残念だね。せっかくその遺物が表に出てきたというのに、現物をこの目で見ることが叶わないとは………」



 時間は遡り、ドンワーズらが政統府を訪れる数日前——


「局長、政統府から照会が届きました」


 あくる日、いつものように異界探査部門とは何ら関係のない、別部門の事務仕事を手伝っていた時、一緒に手伝いをしていたテルルがその事務関連資料の束を運んで来るのと同時に、封筒を差し出した。


「あぁ、来たか。ありがとう」


一旦作業を止め、その薄茶色の封筒をハサミで開封した。


「………」中に入っていた薄い紙に印字された文字列を眼で追う。すると半分まで読んだところで、向かいの机で資料整理をしていたテルルに「なぁ」と、声をかけた。


「どうしました、局長?」


「………少し、困ったことになった」


「はい…?」


「ここを見てくれ」


「はい、分かりました。………っ、これは…………」


 怪訝な顔をしながらそれを受けとり、同じ箇所に目を通す。すると程なくしてテルルもドンワーズと同じように眉をひそめた。


「遺物を政統府まで持ってこい、ですか………。ですがまぁ、これに関しては当然の要求なのでは?」


 いまいちドンワーズが困っている理由が分からないテルルだった。書面の指示通りに遺物を政統府に持っていけば良いのでは。と、単純にそう思ったからだ。


 しかし、ドンワーズの不安の原因はテルルのあずかり知らぬ所にあった。


「あぁいや、そうじゃなくてな。遺物に関してのことなんだが………まぁいいか」


 今更になって隠すことでもないかと思い直し、ドンワーズはテルルから書面を受け取るとその原因について静かに話し始めた。


「……トルスタのことだ。記憶障害があるって話、前にしたろ?」


「えぇ、彼を僕たちに紹介する前に、事前に説明されていたことですよね。それが何か?」


「実はな……あの記憶障害、遺物が関連しているかもしれんのだ」


「………遺物が?」


「まぁ、そういう反応になるよな。いや本当だ。…ぁいや、本当と言うと語弊があるが………」


 あくまでも推測に過ぎないことだが、と付け加えた。そしてあの日起きたことと、トルスタの襲撃者との短い会話について手短に共有した。


「—————つまり、遺物に直に触れたことが原因だということですか?」


「まぁ、私の見立てではそうだ。検証は出来ないが、現に遺物に触れたと明言しているトルスタの記憶に欠落が生じていることは事実だ。何より、アレを直に触れたのはトルスタだけ………正確には遺物を盗み出したあのメンバーだけだ。私がアレを運ぶ時は元々アレを包んでいた麻布を介してしか触れていないから大丈夫だとは思うが…………」


「なるほど………。仮にその推測を尊重するとして、どうするつもりですか?本当にそのような弊害があるとしたら、遺物を政府に提出することも、詳しく調査することもままならないということになるのでは?しかし、直に触れなければ良いというのであれば、他にやりようはあるのかもしれませんが……」 


「うむ………。個人的にはそれでも調査を中止した方がいいと言わざるを得ないのだがな。しかしそうは言っても政府の連中が、はいそうですかと納得する可能性も低いだろう。何より未知の物体なんだ。調べようとしない方がおかしい」


「………そうなってくると、今までどこかに埋まっていたのが幸運かのようですね」


「だから掘り起こされて困ってるんだ。あんなものは永久に人前に姿を現さない方が いいに決まってる」


 はぁ……。と、二人しかいない異界探査部門室にため息が生まれた。考えただけで気が重いが、遺物を政府に公言すると決めた以上避けては通れない問題だった。

 しかし先の発言の通り、遺物を専門的に調査させるというのはドンワーズの本意ではない。


 どうにかして遺物を政府に提出するのを避け、さらに精密な検査、調査も避けなければならない。——となれば、最有力である政統首、カッキスタ・フォーゼンミリアに直接頼み込み、遺物に関して可能なかぎり詳細なデータを提出する代わりに、遺物本体の干渉は避けて欲しいと交渉するしかなかった。



 時が戻り現在——


「………えぇ、その件についても了承いただきありがとうございました。ご理解いただけたようで助かりました」


「不服だがね。だが私も子供ではない。考えられるリスクは排除するのが鉄則さ」


 涼しい顔をして言うが、この判断を下すのは容易なことではないということだけはドンワーズにも理解できた。裏でどれだけ彼女が尽力してくれたのかは言わずとも察知出来る。だからこそドンワーズも彼女に対して限りなく真摯であらなければならない。


「……さて、本題に入ってもらおう。私とて、十分待ったつもりだ。あの日、君が異界について語ってくれた日から——ずっとね」


「もちろんです………しかし、あまりにも衝撃的な事実がありますゆえ、少し端折らせていただけないでしょうか」


「なんだ、この期に及んでまだ隠し事をするのかい?」


「いえ、そういう意図はありませんが、如何せん私としても説明が困難なもので」


「………ふむ。そうか、分かった。では、この場は君を信用しよう。あぁそれと、この場には録音機器といったものは持ち込ませてはいないから安心して、君が話せる範囲で存分に話してみてくれ」


「………ありがとうございます。………では、まず——」


 この男がこれから何を語るのか。その場にいた全員が固唾を飲んだ。ドンワーズが異界から帰還して二年弱。当時ですら遺物に関しての情報はほぼ何も言わなかった。

 ただ、とある遺跡があるとされる地点周囲に厳重な監視体制を敷くようにと、まるで怯えたようにそう指令を下しただけだった。

 その狂言に政統首であるカッキスタが耳を貸さなければ、完全に頭が狂ってしまった可哀そうな人だと、恐らくそう結論付けられていただろう。


 ドンワーズの話が続いている間は誰も口を挟もうとしなかった。ただ彼の口から出る概念があまりにも難解なものであり、常軌を逸したものだったからだ。

 今度はどんな酔狂なことを並べるのかと半ば期待していたカッキスタでさえ、その予想を大幅に超越した事実に、ただ閉口し黙っていることしか出来なかった。


 ドンワーズはそう長々とした話はせず、ただ端的に事実だけを述べようと努めた。

何故そうしたのかといえば、ドンワーズ自身も端的にしか理解していないからである。実際、まだ不明な点は多いし、嘘や想像でそれを補完することも出来ない。

 この際、ドンワーズは遺物に関する資料を新たに作ることはしなかった。なるべく口頭での説明で済ませたかったし、文字として残したい情報でもなかったからだ。


 数分程度の時間でそれの要所を一気に話し終えた彼は見るからに疲弊していたし、呼吸もやや乱れていた。

 また、聞き入っていた彼女らの表情も様々であった。ただ、話し終えた後の静寂を誰も破ろうとはせず、沈黙と鈍重な空気が流れた。どれほどの沈黙を経たか。その沈黙の中からようやく声を出したのはドンワーズだった。


「………話は以上です。これ以上は、もう何も…」


「……ありがとう、ドンワーズ君。もう十分だ」


カッキスタは肘をつき、手で口を覆った。彼女も動揺しているのが分かる。


「はぁ………何から感想を言えばいいのかわからないな……」


彼女は大きく息を吐き、天井を見上げ内容を咀嚼するようにつぶやいた。


「龍……か……」


「カッキスタ統首、こ、この話はいくら何でも……」


 呟く彼女の隣に座っていた口ひげを蓄えた高年の調査局大臣、カウンも狼狽えていた。その他大臣らも皆一様に感想を言うわけでもなければ、ただ今しがた耳に入れた話を飲み込むことに精一杯の様子だった。


「………ドンワーズ君。一つ、こんな話を聞いたことはあるかね?」


唐突にカッキスタは彼の話を聞いてとある話を思い出した。


「これは、私が昔他国で遊学していた時に知った叙事詩……まぁ神話と捉える者もいたようだがね。かなり古い話さ。数千年以上前に書かれたとされる叙事詩の一説でね」


「叙事詩……?なぜ急にその話を………」


「今の話を聞いている時に、ふと思い出したんだ。似たような話を聞いたことがあるとね。その国では、まぁ有名という程でもないが、少なからず一般的に知られている内容だった。〝光昌の神が、突如現れた世界を滅ぼす邪悪な存在——龍を倒す物語〟さ」


「………っ!?」


「当時、この話を教わった時はよくある神話的創作の一つだと、それくらいにしか思っていなかった。しかし、私の直感が正しければ、恐らくこの話の淵源は多少の誇張はあるだろうけど完全な作り話ではなく、君が見聞きした遺物に関する一連の出来事を当時の人々が伝え広めた英雄譚。………本当にあった歴史の話なのかもしれないね」


「そんな、話が………」


「あぁ。なぜこの国でその話をあまり聞かないのか、ということに関してはまた別の要因があるのだろうが、とにかく私の中で何か腑に落ちた気がするよ。………さて、ひとまず今日は一旦お開きにしないかね? 話を整理したい。あぁ、もちろん公的な資料としてまとめるのではない。あくまで私の個人的なメモとしてね」


「はい、分かりました。統首………」


 それに関する話をしただけで満身創痍になっているドンワーズを部門メンバーが支える形で退出していった。


「……我々は一体、何を知ってしまったのかねぇ——」


「それは…。いえ、しかし、我々も懐疑的ではありました。しかしドンワーズの話は……それに、その神話というのも……」


 未曾有の事態を知ってなお、それを形容する言葉を紡ぐことは出来ず、広々とした会議室に取り残されたカッキスタと大臣らは、結局無言のままだった。


「……はは、私は少し、不謹慎ながら年甲斐もなく興奮しているよ。彼が伏せていた遺跡も明らかになったんだ。本格的に調査を開始する必要がある。この国で遥か昔に何があったのか………この目で明らかにしなきゃねぇ」


「勿論です統首。地区保全局や考古学チームと連携し急ぎ調査を」


 大臣らもにわかに高揚した様子でその場を後にした。


「ふふっ…異界か………。なぁパルフォル…………お前の教え子は、とんでもない奴だね———————」


 空気が抜けた風船のように背もたれに倒れ、ある女性の名前を懐かしそうに、噛み締めるように呟き、天井に自身の手をかざした。照明の光が指の隙間から日食のように漏れ出る。


「……まったく、おかげで今日はよく眠れる気がするよ」



「大丈夫ですか、局長……?」


 その後、政統府を後にした部門組は、ドンワーズが運転する四駆に乗りそれぞれシートに体を埋めていた。帰る際も皆無言で、車内でも重い空気が空間を満たし、普段軽口を叩くアドノですら何か思い詰めるように車窓から流れる街並みを眺めていた。

 定位置である助手席に座っているテルルがハンドルを握る局長を何となく横目で見て、咄嗟に大丈夫ですか。と声をかけた。


 ここまではっきりと動揺した彼の姿は、付き合いの長いテルルですら見たことがなかった。あの異界から帰還した当初でも見せたことのない様子で、どう言葉をかけていいのかも分からなかった。

 テルルの言葉には、平気だ。と平静を装った表情で返された。いつも通り安定したその運転から、先ほどよりは落ち着いているのだろうかと推察することしか出来なかった。


「………?」


 不意に交差点を右折した。いつもなら直進するルートだ。わざわざ遠回りする必要もないはずで、道を間違えるというのも考えにくい。


「……あれ? 局長、どこ向かってるの?」


同じく異変に気付いた、後部座席に座っていたアドノが声を出した。


「………少し、気分転換をな」



 目的地は海沿いにある臨海公園だった。少し遠かったが、その甲斐ある非常に綺麗な水平線を一望出来る景色が広がっていた。


「ここって………」


 降車したドンワーズに続き、テルルたちも降車した。初めてこの場所を訪れたトルスタは浮かない顔をしていた。

 降りた途端、少し冷えた潮風が彼らの生ぬるい体に吹き付ける。駐車場からほど近い場所に案内板が設置してあり、その中に「ジュトーン・ビーチ」と年季の入った木製の看板にはそうあった。


「……ドンワーズさん、どうしてここに?」


『ジュトーン・ビーチ国立臨海公園』。この場所はドンワーズにとってある意味では特別な場所だった。

 〝その事〟についてはトルスタを除くテルルら三人も承知している所であり、ドンワーズがここを訪れた理由もわざわざ聞かずとも何となく腑に落ちるものがあった。


「まぁその…なんだ。いわゆるケジメってやつだ」


彼は追及を避けるように曖昧な返事をトルスタにし、先へ歩いて行った。


「いい場所ですよね。今日は快晴で、なおさら」


カーラが日差しを手で僅かに遮りながら言った。彼女言った通り、今日は快晴だった。平日にもかかわらず、この場所は人で賑わい様々な所から声が聞こえてくる。


「あんな話の後だもん。局長でも黄昏たくなるよね」


アドノはトルスタを連れ、桟橋近くのベンチに腰かけた。


「ドンワーズさんと、ここに何かあるんですか?ケジメっていうのは……」


「うん、まぁね……でも、これはアタシから言うことじゃないから、いつか本人に聞いてみなよ。少なくとも、明るい話題じゃないけどね……」


言いながら少し俯き、彼女の透き通るような前髪が重力に従い垂れる。


「……アタシもまぁ、似たような境遇、だからさ」


「えっ?」


「あぁっ、ううん。何でもない。それよりさ、少し浜辺の方とか散歩しない?」



「心中お察しします………。などというセリフは、些か不謹慎でしょうか」


「ふっ。そう気を遣うことはない。………ただ、ようやくここまで来た、ってことを形だけでも報告しに来ただけだ」


「二十年以上前でしたか。早いものですね………」


「あぁ、しかし実際は三十年近いだろうな。私も随分年を取った」


 デッキと浜辺を隔てる手すりに手をかけ、ゆっくりと体重を預け、身を若干乗り出すような形で少し伸びをする。その顔は依然として疲労を感じさせるものだったが、どこか憑き物が落ちたような雰囲気があった。


「そういえば、パルフォルさんが存命だった頃、息抜きに皆でこの公園に来たことがありましたね」


 テルルはドンワーズの姿勢を見て、同じような姿勢で同じような場所にもたれかかっていた老年で白髪の女性の姿を想起した。年齢に似合わず活発な彼女は、この海辺の憩いの場でも半ば子供のようにはしゃいでいた。あの日は日が暮れても帰らず、浜辺で花火をして余暇を楽しんだことを鮮明に覚えている。彼にとっても忘れたくない記憶の一つだった。

 ドンワーズが『クヴェルア』に転移する以前に既に亡くなっていた彼女が今の状況を知ったらどのような顔をするだろうか。だが少なくとも悲観することはないと、そう確信できる。彼女はそういう人だから。


「………時折、師匠ならどうしただろうかと思う時がある。『クヴェルア』に居た時も、遺物のことを知った時も、私は戸惑ってばかりだった。師匠なら、あのような未曾有の事態に遭遇しても自身の信念を疑わず最善を尽くしただろうと」


「そうご自分を責めないでください。確かにパルフォルさんなら、何故か何とか出来てしまうという想像は難くないですが……ですが、局長は局長です。パルフォルさんになる必要はないと思います。局長なりに事態を収めていけば良いはずです。それに、僕たちもついていますから」


「そうですよ局長! 局長にしか出来ないこともきっとあるはずですし、私たちもいますから!」


「………あぁ、ありがとう。私なりの最善を目指すよ」


 涼しげな潮風がそれぞれの体を押すように吹き付けた。ふと眼下を見ると浜辺に降りたトルスタとアドノが並んで歩いているのが見えた。


「………あの二人は、特に仲が良いようだな」


「そうですね。特にアドノがトルスタ君のことをやけに気に入ってるみたいです」


「そうか………いや、いいことじゃないか」


 アドノの過去を鑑みても、今の状態のようになるのは理解出来た。無論そういったつもりでトルスタを連れてきたわけではないが、偶然だとしても彼女の心の隙間を埋めてくれるならひとまずはそれでいいと思った。

 日が傾く。僅かに人の減ったビーチ全体を夕焼けが染め上げ、まるで世界の終わりを告げているかのようだった。


「さて………そろそろ帰ろう」


 息抜きは終わり、彼らはまた日常に戻る。しかしその日常を守る為に、彼らはこれから行動するのだ。



政統府から帰った日の夜。自室に戻ったドンワーズは件の襲撃犯から拝借したクヴェルア製の端末を一人弄っていた。自室と言っても調査局の地下に存在する物置部屋の一つをドンワーズが私的に利用しているだけである。その室内には人目を盗んで何とか仕舞い込んだ例の甲砲、レーザー銃。そして遺物があった。


 『クヴェルア』から『ダッカニア』に帰ってきた後、元々住んでいた賃貸物件をある理由で追われた彼は、即席で寝泊まり出来る環境をなんとか職場で工面してもらい、今現在の物置と言う名の住居に腰を据えている。

さっさと新居を探せばいいのだが、如何せん調査局に内蔵されているという理由と、存外落ち着くということ。

そして物置の一室を占領していても誰からも文句を言われない等という理由から、なかなかこの小さな楽園を空ける決心がつかないのである。


テーブルランプが放つ暖色に照らされたそれは、青白い機械的な光を放っていた。慣れたように操作していきたいところだったが、ドンワーズが知らない型の端末であるため慎重に画面に触れ動作を確認していくしかない。

 しばらくそのソフトウェアを弄っていると、ドンワーズが以前使っていたものと親和性があることに気づき操作に慣れていった。


そしてあるアプリケーションに〝博士〟の二文字があった。他にも『ダッカニア』や作戦に関係するであろう様々な項目が並んでいたが、ドンワーズからしてみれば、その二文字だけで事足りる。

通話機能も備えているため、今ここから博士たる彼に連絡を取ることも可能だった。


「……————」


 逡巡。しかしドンワーズが自ら画面に触れる前に、博士たる人物は動いた。彼は自分の端末の向こう側にいる人物が何者なのか理解しているようで、そこから発せられる声はドンワーズの鼓膜を不愉快に揺らす。


『やぁ、ドンワーズくん。元気だったかい……?』

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