オンガクガタリ

あさひ

第1話 オンガク×ハジメマシテ ビフォアー

 ギターサウンドが響き渡ると

セミ達は一斉に合唱で対抗する。

 しかしギターやドラムが聞こえるのに

一向にボーカルが歌いださない。

 暑い陽炎が揺らぐ

そんなひと夏の青春の話だ。


「あつい……」

「ポカリが尽きたら終わりかもねぇ」

 クーラーの故障で

サウナのような部室に二人の少女が項垂れる。

「先生まだ……」

「あと一時間後に会議が終わるからねぇ」

 あと一時間と聞いた少女の一人が

瞳から光を失っていった。

「隣の部室で待たせてもらう?」

「いいのかな……」

 いつも騒音でバチバチと

闘っているのにそんな時だけは確実に無理だろう。

「無理かなぁ」

「そうだね」

 秘密兵器という形で扇風機はあるが

熱風しか来ないのだ。

「カーテン閉めようか……」

「いやダメだよぉ」

 なんでと顔をした少女に

もう一人の少女は湿度計を指さす。

「ほんとのサウナになるねぇ」

「そうだね……」

 そんな時だ

ガラガラとドアが横にスライドした。

「待たせたな!」

 勝気な雰囲気を持つ女性教師が

ニカニカと仁王立ちしている。

 そして後ろからひょっこりと

事務員の女性がリモコンと用具箱を

見せて大丈夫だよとジェスチャーした。

「希望がやってきた……」

 それが少女の最後に放たれた名言だった

クーラーがない部室の最後に残される

名のある言葉である。

「マリちゃん?」

「熱中症だな……」

「ここは私に任せてもらっていいので」

【ありがとうございます!】

 教師と少女が声を同調させて

倒れた少女を保健室に搬送していった。

 事務員の女性はドアから覗いた少女に

一礼した後にクーラーを手早く修理する。


 一時間ほど過ぎた

少女は元気にスポーツドリンクを

飲み干していた。

「マリちゃんって我慢癖あるよねぇ」

「シズクよりかはマシだよ」

 保健室の先生は

呆れた表情で倒れた少女と

フラフラとついてきた少女を休ませている。

 そう教師は報告を済ませ

教頭から大目玉を食らっていた。

 マリと呼ばれる倒れた生徒と

シズクという生徒は我慢強さの差だったのである。

 今は夏休みの使用についての審議がなされており

もし不可なら教師のポケットマネーでスタジオを

借りなければならない。

「でもよかったぁ」

「でも仲良しだね」

「まったくだな」

 刺すような冷たい視線が

言葉に染み込んでいる。

 しかし本人は別に怒ってない

そしてそういう風に聞こえるだけなのだ。

「もし倒れていたら部室は立ち入り禁止だった」

「そんなぁ」

「ほら大丈夫ですよ?」

「そういう話ではない」

 ほらと保険室の先生は

チョコバーとアイスを布団に投げ入れる。

「これ美味しいんですよね!」

「なんで知ってるんですかぁ」

「常連に言われても困る」

 保健室の常連こと

マリとシズクは学園では有名な逸話であった。

「あとこれは秘密だからな」

「先生ってかわいいですよね」

「なっ! かっかわいい……」

 一瞬で雰囲気が変化する

マリという少女は何気なく言っただけだが

顔が真っ赤になっていく。

「言われたことないんですか?」

「あっあるわけないだろ!」

「美人でプロポーションもいいのに?」

 シズクは若干だが置いていかれている

そして目の光が薄くなっていった。

「ナカガヨロシインデスネ」

「シズクも美人で可愛いよ?」

 このジゴロがと

保健室の先生とシズクは心で毒を吐く。

「マリは私を見るべきだよ?」

「大丈夫だよ! 女子は可愛いのが基本だから!」

「ソウナンダネ」

 保健室の温度が下がっていく

精神的なのだろうか物理だろうか

クーラーは生徒を重んじ弱設定だった。

「まっまあ…… こんな時間だからな!」

 キャラ崩壊が凄まじい先生は

もうすぐで五時を指す時計を確認する。

「とりあえず寮に帰れ」

「ソウデスネ」

「へーい……」

 手をギュッと優しく握り占めるシズクは

後ろを見開いた目で見つめながら出て行った。

「安定したホラーだな…… シズク……」

 保健室は静けさという平穏を取り戻した

しかし外には何が待っているのやら

想像するだけで朝まで出れない。


 寮への帰り道には

職員室を通る必要がある。

「そういえばボーカルがいなかったねぇ」

「そうだね」

 二人の少女は悩みがあった

ギターのマリとドラムのシズクでは

単純にサウンドのみだ。

「先生に話を聞くついでに言ってみよう」

「ソウダネ」

 殺気が湧きたっている気配が

周りの生徒たちに夏の涼しさを覚えさせる。

 先生も例外ではない

遠くから顔を覗く先生は冷や汗が滲んでいた。

「おーい…… こっちだ……」

 小さい叫び声で二人を手招きする

どうやら結果が出たらしい。

「残念な知らせといい知らせがある」

「嫌なほうからどうぞ……」

「フフ……」

「いっ…… いやな方はだなぁ」

 軽音部が二人だけだと

教頭にバレたことが嫌な知らせだった。

「良い方は部室は夏休みでも大丈夫だ」

 ただし条件があった

部員を五名にすることである。

「まあ…… がんばれ!」

「顧問の先生が職務……」

 焦って口を封じながら

耳元で手伝うからやめてくれと

囁いた。

「それよりボーカルがいません」

「そうだった! いなくてさぁ」

 手伝ってくれるんだよねと

聞いてみると少し悩んだ後に怪談を

唐突に始める。

「夜の音楽室には歌が上手い美少女霊がいるんだがな……」

 深夜を回る時間に

音楽室から歌声が聞こえる

警備員はそこまで駆けつけるが

その頃にはもういない。

 音楽室を探し回る警備員は

マイクを見つけるのだが

手を伸ばすと電子ピアノがベートベンを

奏でる。

 慌てた警備員が逃げ帰ると

後ろから長い黒髪の少女がこちらを見ている

そんな話だった。

「それが何?」

「意味不明ですねぇ」

「音楽室の謎を解明するのも夏休みっぽいだろ?」

 話が無理やりだが

どうやら音楽室に何かあるらしい。

「まあ今日はお昼寝したからね」

「仕方ありませんね」

「よし! 任せたぞ! 武器は持ってくなよ?」

【ん?】

 タイミングが合う疑問に

ふふっと笑った。

「あと二人か……」

 小声で先生が呟くが

生徒たちはポカンとフリーズする。

 そんなこんなで夏の肝試しが

開催されることになった。



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オンガクガタリ あさひ @osakabehime

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