少女と鉄人形
ツヅミグサ
第1話
かつて、この世界には現代よりも栄えた
文明があったという。その文明は滅んで
しまったが、今もなお、各地に旧世界の遺物は残っていた。そんな遺物が多く眠っているために「遺存の森林」と名付けられた森の中を、ある少女は歩いていた。
「...ふぅ...」
少女は仕留めた野鳥を数羽、麻袋に入れて肩に担ぎ、拠点としている、山の麓の洞窟へと
向かう。あまり広くはない入口を通り、
慣れた足取りで奥へと進む。内部は意外にも広々としており、壁の近くには土汚れの
目立つ、古いシャベルが刺さっていた。
麻袋を調理場付近に降ろし、シャベルを手に取り、今日も壁を掘り進める。いつも通り、ざっくりと掘り進めていると、シャベルの
先端がやたら硬い金属質な何かに
ぶつかった。一瞬鉱石かと思ったが、露出
している物の形は鉱石のそれでは
なさそうだ。その何かの周辺を掘り進めて
みると、段々と形が見えてきた。
(...鉄製の円柱?...多分、遺物かな...)
出てきたのは、少女の背丈よりはだいぶ
大きな円柱だった。よくみると、柱の中心には分割線のような模様?があった。軽く
叩いてみると、中に何か入っていそうな音がする。シャベルや石、ツルハシを使い、
力尽くでこじ開けると、柱の中には一冊の
黄ばんだ手記と、恐らく円柱と同じ、
灰色の、鉄製の大きな人形?のような物が
入っていた。手記を手に取って、開いて
みる。書かれていたのは、一緒に入っていた鉄人形の説明と修理方法、起動の手順
だった。説明を見るに、どうやら無闇に人を
襲うような代物ではないようだ。幸いにも、壊れていそうな箇所は少ない上、修理に
必要な材料の多くはこの近辺にある鉱物を
加工すれば、作れそうではある。人手を
増やすのも悪くないだろう。そう考え、
少女は行動を始めた。
しかし、修理はかなり難航した。
壊れていたのはバッテリー部分であり、素材も技術も足りないため、修理はほぼ不可能
だった。故に、スペアバッテリーとの交換を
行おうとするも、肝心のスペアが見つから
なかった。数ヶ月、遺物が出てきた場所の
周辺を掘り進めても見つからず、ため息を吐きながらふと洞窟の天井を見上げると、妙な
形状の何かが埋まっていた。
(...いや...まさかね...?)
そう思いながらも手記と照らし合わせると、それはバッテリーで間違いなさそうだった。
時間を無駄にしてしまったことに憤りを
感じながらも、バッテリーを回収し、鉄人形の背中に嵌め込む。恐らく、修理完了
だろう。今一度手記を読みながら手順を
踏み、起動を試みる。
『登録、認証完了...動力17%。同期開始...』
鉄人形が入っていた円柱から音声が鳴る。
どうやら上手くいっているようだ。まだ
終わった訳ではないが、軽く安堵する。
『完了...識別番号、j_typeρ_4√β、起動を
開始』
j_typeρ_4√β。それがこの鉄人形の...名前?
なのだろうか。関節部などからギギギと
嫌な音を鳴らしながら、ついに鉄人形は
起き上がった。恐らく、起動成功だ。
『...えっと、おはよう?』
「うん...おはよう」
そして、鉄人形は困惑した声で挨拶を
行うのだった。
少女と鉄人形 ツヅミグサ @ex8tanpopo
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