常世の執行人
藤野
プロローグ
人は、いずれ死ぬ。
幸せな人にも、不幸な人にも、どんな人生を送っていても、誰にも等しく訪れるのが死だ。眼下の雑踏をゆく人々にもいずれそのときがくる。
けれど––––
白崎清那は無感情に雑踏のなかの一点を見つめながら、ため息混じりに呟いた。
「あの男の人、まさか元カノに道連れにされるなんて思ってなかったでしょうね」
「道連れにしてもさっさと女から離れていきそうだしな」
清那と同じく雑踏を見下ろしながら感情のこもらない冷淡な声で返す青年––レイに、そういうことじゃない、と心中で突っ込むが、それもあながち間違いではないだろうと否定はしなかった。
清那の見つめる先では二十代半ばの男が電話をしながら歩いている。楽しそうに話す姿から察するに、仲の良い友人か、あるいは今の彼女か。よほど話が盛り上がっているのか、先ほどから何度も人にぶつかりそうになっており、周囲をろくに確認できていない。
「できるか?」
レイの問いに、清那は持っていた拳銃を構えて男を見据える。清那達がいる廃ビルの屋上からは男の動きがよく見える。
「問題ないです。そろそろ撃たないとあの人道連れにされそうですね」
未だ電話に夢中の男は交差点で飛び出してきた自転車にぶつかりかけていた。自転車相手に文句を言い捨て、また電話をしながら歩き出す。そのうち車とぶつかってもおかしくない。
射線を標的にあわせ、深く息を吐いた。
拳銃を握る手に力を込めて引き金を引けば、飛び出した銃弾は寸分違わず男の左肩に張り付く女を撃ち抜いた。
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