時を超えたKnight Wizards
陽菜花
Prologue
蝉の鳴き声、生ぬるい風が夏の森を騒ぎ立てる。
真夏にも関わらず黒いマントを全身に纏い、汗一粒すらかかず、じりじりと太陽に照らされる森を歩く老人が1人。
森の奥に進むと、廃れた街が広がっていた。
街、といっても地には雑草が繁茂し、街は深い森に飲み込まれている。
支柱であっただろう柱は切り倒され、あちこちに転がり、蔦がへばりついていて、家の壁だっただろうレンガは雪崩のように崩れている。
一体、何があったのだろうかと疑うくらい、ひどく廃れている。
さらに進むと、丘があり、その上に破壊された神殿……いや、古城がひっそりと佇んでいる。
老人は崩れかけている石階段を登り、途中まで登ると振り返り、廃街を見下ろした。
森は相変わらず騒がしいはずだが、なぜかやけに静かだ。
老人はマントの深いフードから赤い瞳をちらっと覗かせ、怒りに満ち、悲しげな瞳でぼんやりと見渡していた。
「もうすぐ、だからな。待っててくれ……」
そう呟くと、また石階段を登り、丘の頂上についた。
白を基調とした古城は街よりひどく、原型すらわからないほど腐敗が進んでいる。
屋根はなく、壁の白いレンガもほとんど積まれておらず、街のレンガと同じように雪崩が起きている。
城の一部の塔も無い、と言っても過言では無い。
唯一残っているのは床のタイルのみ。
老人は古城に足を踏み入れ、城の真ん中に立った。
いつの間にか持っていた小さな箱を大事そうに抱え、片手を床にかざした。
すると、手から紫の光が溢れ、床に魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣が広がると同時に光はどんどん強くなり、古城は黒い城に変わってしまった。
ぶわっと強風が吹き、森から鳥がばたばたと一斉に飛んでいく。
蝉の鳴き声も聞こえなくなった。
風がおさまると、老人は小さな箱から何かを取り出した。
クローバーのような形をした飾りのようなものだ。
四葉のうち一つは宝石が埋め込まれていたようだが艶のない黒い鉱石で、残りの三葉は石のように冷たい灰色だ。
それを魔法陣の真ん中に置き、魔法陣から離れて両手を大きく広げた。
「—―
老人の口から出た謎の呪文。
禍々しい光はさらに強まり、街全体を包み込んだ。
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