【第二章完結】妹ゴーレム! ~自称妹の美少女ゴーレムに愛され過ぎて一日8時間しか眠れない異世界考古学者の最終妹戦争~

太黒愛釈

第一章:兄妹とエドナイル

第1話:砂漠、そして妹




「ふぁ~ぁ、よく寝たぁ~……ってうわッ!? ディア!? びっくりした……」



 朝起きて一秒も待たず、俺の眼の前には美少女がいた。パジャマ姿で、俺に添い寝をするようにして、俺のことをじーっと見ている。



「あ、お兄ちゃん! おはよう。朝ご飯用意しておいたから一緒に食べよう?」



 俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ、白髪の美少女。名前はディーアーム、俺は彼女をディアと呼んでいるが……俺の記憶が正しければ、俺に妹はいない。


 だから彼女は俺の妹ではないはずなのだが……彼女は俺を兄と呼び、俺と親しい関係かのように振る舞う……そう妹? 妹ともちょっと違う気もするが、なんとなくそんな感じの、兄妹的な関係性が、彼女の中には構築されているらしい。



「え? また作ってくれたの!? ありがとうディア。いやぁ……最近はディアに助けてもらいっぱなしだな。俺からはディアに何も返せていないのに……」


「気にしなくていーの! わたしはお兄ちゃんと一緒にいられるだけて何より幸せなんだから! お兄ちゃんが幸せに生きる手助けをするのが、わたしの幸せ! それにね、お兄ちゃんの朝ご飯作るの、わたし大好きなんだー!」



 ニコニコ笑顔で指で髪をくるくると回し、ご機嫌なディア。彼女の表情を見るに言葉に嘘はないのだと分かるが……俺としては腑に落ちないというか、困惑する部分もある。だが、俺はそれはそれとして、そんな彼女を受け入れることにした。



「そ、そうなの? ディアは料理好きなのか?」


「料理自体は普通だよ。でもね、お兄ちゃんが美味しいって言って食べてくれるから。また美味しいって言われるのを想像しながら作るのが、幸せなんだ~! ふふっ、おかげでいくらでも頑張れちゃう! このままだと世界一料理が上手い妹になっちゃうね! わたし!」



 この子は良い子だ。俺に対して悪意はないどころか、俺の為に行動してくれている。料理だけじゃない、俺の仕事、考古学者……が本来のやりたい事なのだが……俺は今、ほとんど冒険者として活動している。その冒険者としての活動、冒険の為の旅支度から戦闘、身の回りの雑事……挙げれば切りがない、ディアはきっと俺が止めなければ、俺の行うすべてを手伝おうとするだろう。


 はっきり言って異常だ。普通ではない、重々しい感情が、彼女の行動の裏にはある気がする。ディアは快活に振る舞うが、どこか儚さというか、危うさを感じる。そんな彼女を見ていると俺は……なぜだか放っておけない気持ちになる。俺は彼女の兄ではないはずだが……俺の心は、まるで彼女のお兄ちゃんであるかのように、振る舞おうとする。


 そう普通なら、美少女とはいえ、知らない人物が身に覚えのない理由で、一方的に慕ってくれば恐怖を感じるだろう。実際、違和感はあるし、ちょっと不安はある。でも……そんな感情を、そんなことで片付けてしまうぐらいには、俺は彼女を受け入れてしまっている。



「お兄ちゃん、今日はどうするの? 情報収集?」


「うん、エドナイル王国の図書館は一般人には使えないみたいだから、現地の人に聞き取り調査だね。それより朝ご飯だ朝ご飯! 食べよっか!」


「うん! じゃあ、わたしが食べさせてあげるね!」


「いや流石に自分で食べるよ……」



 残念そうな顔をするディア。ディアの作った朝ご飯は肉を使った煮込み料理、まるで数時間煮込んだかのような濃厚な味わい、濃厚なのに後味はすっきりで、重くない……これを朝ご飯で? 朝ご飯を作る手間でこれを……? まさか、ディアは本当に料理の天才だったりするのか……?


 料理は最高に美味かった。俺は朝からこんなに幸せでいいのだろうか?




◆◆◆




 エドナイル王国、3000程年続くエドナイル王家が統治する国。エドナイルはその殆どが砂漠地帯で、雰囲気はそう、前世の記憶で例えるならエジプトっぽい国だ。俺、ジャンダルーム・アルピウスには前世の記憶がある。


 前世の俺は地球という星の、日本という国で生きていた。その時の俺は考古学者になりたかったんだけど、貧しい家計を支える為に、俺はその夢を諦めた。


 父に言われた。


『金になんのかよ? 金にならねぇならやるな』


 悔しかった……俺は夢と家族を天秤にかけて、結局、家族を支えることを選んだ。高校を卒業して、期間工として働いて、最低限の金を手元に残して、それ以外を家族に仕送りした。


 父のことは、正直に言えば好きではなかった。嫌いとまでは行かないが……けれど母と二人の弟のことは大切に思っていた。だから頑張った、頑張って、頑張り続ければ、いつか道は開ける、そう自分に言い聞かせて日々を過ごした。


 けれど俺は死んでしまった。車に轢かれそうになっていた子供を助けようとして、死んでしまった。前日、仕事場の先輩が作業をサボったから、俺がその尻拭いをする為に無理な残業をして、寝不足だった。体はダルいし、気分も最悪、けれども、気づけば子供を助けようとしていた。


 危ないのは分かってた。死ぬかもしれないと、直感的に分かってた。けどそれは、俺が、死んでも構わないと思っていたからなのかもしれない……辛い現実が終わり、同時に子供が助かるのなら、それも悪くないと。


 子供が助かったかはわからない。俺には車に引かれた後の記憶がないから。助かっていればいいが……


 ま、何にせよ前世の俺にも妹はいなかった。弟は居たが、妹はいない。だからディアは前世の妹とか、そういうのでもない……はずだ。


 考古学者になれず、モヤモヤしたまま死んでしまった俺は、別の新たな世界で生まれた。ここはまるでファンタジー作品のような世界だ。魔術や魔法があって、奇妙な生物がいて、個が戦場で無双する剣の世界だ。


 そしてそんな世界には、そんな世界だからこその古き時代の遺物、遺跡がある。俺はこの世界で考古学者として生きると決めた。この生は絶対に、全力で、己の求めるままに、世界を冒険し、謎を解き明かし、過去の人々の想いを、歴史という形で人々に伝えるのだ。



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