アクア・オーリオ

小谷幸久

プロローグ

 雨の降る視界は、わずかに青みがかっていて、憎らしい。

 口から出る息は白い。皮膚から熱が漏れ出ていくのを感じる。鼻先に触れた雨は固体になった。

 墓から出てきた亡者のように俯きながら歩く。

 容赦ようしゃなく雨は降り注いでくる。土や草の香りが鼻にまとわりつく。雨が地を叩く音や、大蛇が蠢いているような川の音もまとめて耳に届く。テレビで見た抗議デモみたいだ。僕を責めてる。

 体が重い。重いのは、雨を吸った服だけじゃない。ぬかるみが足を取るように、僕の頭には自己嫌悪、寂しさや徒労とろう感などがあった。

 ……徒労感。そう、僕は徒労感を覚えている。

 野球に打ち込み、怪我で無駄となった徒労。三田茜みたあかねとの交流の徒労。そして、僕の人生そのものという、徒労。

 徒労。徒労。徒労。徒労。徒労。徒労……。

 これ以上、無駄を増やすのは、もはや、僕自身耐えられない。

 周囲に生物はいない。前を走る数台の車だけがいる。

 交差点に差し掛かった。僕は青信号の点滅が終わるのを待った。

 その時、僕の頭は早めの走馬灯に入る。 

 

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