○06表_悪役令嬢は頭痛の原因と出会った!
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学園に入ってはじめのイベントは図書室デート。
アリスが気を利かせてフラネイルを呼んでくれます。
また、ラバンとも出会うことができます。
スチル付かつラブ値も上げるチャンスですので、ぜひ活用したいところ。
でも残念!
今回はフラネイルがラバンと一緒に去っていきました!
これはフラネイルルートが完全に閉ざされた証拠!
でも、まだ大丈夫!
代わりにラティとイザラのルートが開放されています!
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「っ!?」
「お嬢様、どうされました?」
朝。いつものように身支度をしながらブルネットの報告を聞いている途中。
突然ひびいた声に、イザラは額を抑えた。
ずいぶん久しぶりに聞こえてきた、「未来」である。
「いいえ、何でもないわ。
ちょっと頭が痛くなるような報告が多かったものだから」
「心中、お察しします」
ブルネットのものすごく可哀想なものを見るような視線をものともせず、イザラは声の意味を考える。
(フラネイルというのは、確か、商家から身を起こした新興の貴族よね?
すちるにらぶ値、るーとって何かしら?
私やラティにもあるようだけど……意味が分からないわ。
なんで予言って、こうもったいぶったものなのかしら?
伝わらない説明なんて、意味がないのに)
文句を言っても分からないものは仕方がない。とりあえず理解を諦めたイザラは、制服に袖を通しながら、ブルネットに向き直った。
「報告の途中だったわね。流行り病があったとか?」
「はい、お嬢様。
症状は軽いながら、北部中心に広がっているようです。
薬の開発が始まると、また忙しくなるかもしれませんね」
イザラの家系は、もともと医療から身を起こした貴族である。
現在もそれは変わらず、多くの研究者を抱え、優れた薬品を開発することで国を支えている。こうした流行り病があると、薬の開発も行わなければならない。公爵家は研究者達に多額の資産を投じ、研究者達は感染のリスクに怯えながらも試行錯誤を繰り返し、多大な苦労の上で薬を完成させるのだが――
(私なら、今すぐにでも、治すことができる……)
イザラは、この病の解決方法を知っている。
予言などという意味不明なものではなく、未来の公爵家の、確かな功績である。
イザラ自身も特効薬の開発に参加し、調合のレシピはしっかりと頭に入っている。
もっとも、その特効薬の開発に時間を取られたせいでクラウスと疎遠になり、気が付けば聖女アーティアがクラウスの新たな婚約者に納まっているなどという事態を招くことになるのだが、
(今からこの知識を生かせれば……)
国民への救済も、クラウスとの恋愛も、両立できるかもしれない。
「ブルネット、私も特効薬の開発に参加を――」
「なりません」
そう思ったのだが、拒絶されてしまった。
「ええ、たとえお嬢様のお願いであろうと、なりませんとも。
医薬品の開発には多大なリスクが伴います。
大切なお嬢様が流行り病に倒れるなどと、考えるだけで恐ろしい。
このブルネット、セインツ流忍術の名のもとに、全力で止めさせていただきます」
恐るべき宣言をするブルネット。
引きつった笑みを浮かべながらも、イザラは説得にかかる。
「ブルネット。研究といっても、私が直接病に触れるわけではないの。
研究者の方と書面でやり取りをしたり、アイデアを出し合ったりする程度よ?」
事実、学生かつ公爵令嬢というややこしい身分のイザラが現場に出向いたところで、邪魔にしかならない。そもそも、イザラの知る「未来」でも、特効薬の開発はあくまで「公爵家の功績」であって、イザラの功績ではない。
イザラのやったことはといえば、研究者たちのレポートを学園の勉強の一環で融通してもらい、たまたま手元にあった薬草を試作品に混ぜてみただけだ。それが偶然、試薬の効果を高めただけに過ぎない。そこから更に検証・理論化し、安定させ、完成品を作り出したのは、公爵家の研究者たちの仕事だ。
「しかし、お嬢様。書面とはいえ、やり取りを行う研究者の方が病にかかっている可能性もございます。そこからお嬢様が感染すると思うと……」
「ブルネット、そんな感染力を持った病なんて聞いたことがないわ。それに、そんなことを言っていては、慰問に向かうクラウス様のお供もできませんよ?」
「当然、慰問などがあればお断りさせていただきます」
「いえ、流石にお断りできるようなものではないと思うわよ?」
拒絶の理由が追い付かなくなってるブルネットに、苦笑しながら答えるイザラ。
そもそも、流行り病の症状は軽く、きちんと薬を飲んで休めば治る程度のもの。ただ、地方の平民には、薬を手にする余裕も、休む時間もないせいで被害が拡大しているに過ぎない。薬が出来さえすれば、後は王と公爵家が適切な支援をすれば乗り切ることができるだろう。
そして、王族としては大々的に支援して、病に苦しむ北部の貴族やその領民に恩を売っておきたいところだ。
特に、第一王子のクラウスにとっては、学園最終年は正式に社交界へ出る直前の年。卒業前に功績を築くため、王子自ら慰問へ出向く程度のことはさせられるだろう。そしてそれは、婚約者であるイザラにも同じことが言えた。
「ブルネット、私も公爵家として生まれた以上、果たさねばならない義務があるの。
将来のために薬の勉強も進めたいし、せめて研究者の方と書簡でもお願いできないかしら?」
「それは――いえ、ご立派です。
……仕方ありませんね。
私としては非常に非常に不安ですが、確かに貴族の義務を投げ捨てるのはお嬢様のためになりません。
分かりました。
研究者の方と旦那様にお伝えしておきます」
「ありがとう、ブルネット」
大きな葛藤の後、うなずいたブルネットに礼を述べえる。
よかった。
これで現場にアドバイスを送ることができる。
怪しまれないよう、学生としての知識を超える部分は偶然を装う必要はあるが、不自然でない程度に連絡すれば、我が公爵領の優秀な研究者なら早期に特効薬を完成させてくれるだろう。
完成した薬はどこかの商家――未来の声が言っていたフラネイル家は危険なので避けよう――から流せばいい。
それに、慰問へ同行すれば、クラウスとゆっくり話す機会もあるだろう。
今度こそ、婚約者らしくクラウスと過ごそう。
この間、図書室で一緒に勉強したときは、(主に周囲が)ドタバタしていてあまり話せなかったことだし。
目の前の問題を一つ解決したイザラ。
ようやく、「未来」の知識が役に立った気がする。
「では、次のご報告です。
監視対象に動きがありました」
が、小さな達成感はすぐに緊張感へと変わった。
まったく、心が休まる暇がない。
「恐れ多くもお嬢様の前で冤罪を働こうとしたあの錬金術師ですが、この春から学園に留学する模様です。
元の師であるノグラを頼って、学会に参加しようとしたようですね。
当然、ノグラは拒否しました。代わりに、ナイアは薬学の研究クラブに入ったようですが、こちらはラバン様が取り仕切っていますので、問題ないでしょう」
調教の成果はあったようですね。
何やら怪しげなつぶやきが聞こえてきたが、イザラはそれを無視して問いかける。
「何か、別の問題があったの?」
「はい。訪ねてきたナイアに、『聖女の血』を奪われたそうです。
所持を認められた他の禁薬と一緒にして、ぬいぐるみの中に隠していたとのことですが、まったく、どうしてそんなもので管理できると思ったのでしょうか。せっかくご褒美をあげたというのに……」
まだまだ調教が必要のようですね。
何やら危険な声が聞こえて来た気がしたが、イザラはそれどころではない。
「証拠は? 盗んだのなら、捕まえることはできないの?」
「いえ、残念ながら。
明確に盗まれたという証拠はなく、薬品がなくなったタイミングから『おそらくそうだろう』という程度です。私も、ナイアの部屋に忍び込んで探してみましたが、それというものは見つけることができませんでした。
誠に申し訳ありません」
「い、いえ、見つからなかったのなら仕方がないわね……」
今度は不法侵入をはっきりと告げられた気もしたが、やはりイザラはそれどころではない。髪を梳きながら考える。
(せっかく動きがあったのに、見逃すなんて……。
いえ、流行病とタイミングが重なっては、ブルネットも把握できなかったのも仕方ないかもしれません。もしかして、ナイアはこのタイミングを狙っていたのかしら?
それにしても、どうして禁薬を盗んだのでしょう?「未来」の私は禁薬をナイアから押し付けられたせいで捕まるのだけど、今の段階で私を狙う理由はないはず……)
「イザラお嬢様? どうかなさいましたか?」
「いえ、ブルネット。もし私がその薬を押し付けられたり、悪用されたりされそうになったら、防ぐことはできるかしら?」
「もちろん、このブルネット、命に代えてもお嬢様をお守りいたします。
また、そのようなことがあれば、地の果てまでも犯人を追い詰めて、必ずやいきるていることをこうかいさせてごらんにいれますのでごアンシンください」
「そ、そう。あ、ありがとう」
分厚い報告書を引き裂きながら返事をするブルネットに、引きつった声で返事をするイザラ。
(余計な被害が出る前に、しっかりと対策しておかないと。
ノグラ先生にでも聞いてキメラ生物避けでも作っておこうかしら?
禁薬の方は……とりあえず、自分の部屋はしっかりと鍵をかけ、ブルネットにも警戒を頼んでおきましょう)
決意を新たに、イザラは身支度を終えた。
ブルネットから差し出された鞄を受け取る。
「しばらく、侵入に気を付けてもらえるかしら?」
「承知しました。流行り病で我が領を頼る方も多くなりますから、警戒を強くするのは難しくないでしょう」
「お願いね?」
「はい、それでは、行ってらっしゃいませ」
見送りを受けながら、寮の自室を出る。
廊下を少し歩けば、
「おはようございます! イザラお姉さま!」
待ち構えていたようにラティがやってきた。
他の上級貴族たちも一緒だ。
クラウスからは取り巻きと揶揄されたが、こうして同じ派閥の貴族の子女で固まるのは、自衛の一環でもある。一人で歩いていると、有象無象の貴族や他の派閥からいらぬちょっかいを受けてしまう。イザラくらいの大貴族になると
もっとも、イザラ自身は、こうした派閥をさほど苦としていなかった。
「おはよう、ラティ。
あら? 今日は伯爵令嬢の姿が見えないようですけど……?」
「それが、流行り病だとかで、本日はお休みですの」
「そう。後でお見舞いに行かないといけないわね」
慣れの問題もあるが、単純に後輩や同年代の貴族と他愛ない会話を交わすのは、決して嫌いな時間ではない。
そしておそらく、イザラの周りの生徒たちも、同じように思っているはずだ。
利用し合う関係ではあるが、それだけで集まっているわけでもないのだ。
(そういえば、クラウス様は王族だから、私以上に護衛が固めていたのでしたね)
朝から護衛がどうこうという話をしたせいか、クラウスの周囲を思い出す。
クラウスは普段からイザラ以上の護衛に囲まれ、自衛のための派閥など不要だ。
そして、王族として、幼いころから貴族同士の関係を叩き込まれた結果、派閥の負の側面ばかりが目につき、不信感を抱いたのだろう。あるいは、その不信感が育った結果、派閥を偽りの関係と断じ、決して見捨てない本当の親友や恋人を求めたのかもしれない。
クラウスにとって、イザラは、まだそうした信じられる恋人ではないのだろう。
少なくとも、派閥を取り巻きと揶揄される程度には。
事実、イザラは公爵家と王家の都合で決まった婚約者なのだから。
「お姉さま? どうなさいました?」
顔に出ていたのか、ラティが心配そうに問いかけてくる。
「いえ、何でもないわ。
流行り病といい、ちょっと頭の痛い問題が多かったから」
「そういえば、公爵家は医療で有名でしたね。お姉さまもご活躍されるのですか?」
慌てて誤魔化すイザラ。
(なかなか、学園長のように動じず、とはいきませんね。こうして皆で固まっていると、やっかいな相手が寄ってこないから、気が抜けたのかしら?)
そう思った瞬間だった。
「おウ! すみませン!
私ハ、遅ればせながラ、先日留学してきたものでスまス!
授業が始まる前ニ、先生方へ挨拶をしなければならナイのですガ!
職員室ハ、どこでしょうカ!?」
イザラの頭痛の原因――ナイアが、突然飛び出してきた!
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