第41話:まさかの共感と秘密の共有

「……まさか、シャドウがそんなことを考えているだなんて」


 これは、失望されてしまったかもしれない。


「いや、でも俺は本当に魔王軍を第一に考えて――」

「私と同じ考えの人が、他にもいただなんて!」

「……え?」


 それはいったい、どういうことだ? まさかアリスディアも、魔族と人間の共生を望んでいるのか?


「……それ、本当なのか?」

「本当よ! 私がシャドウに嘘をついたことなんてあった?」

「……たぶんある」

「なんでよ!」

「冗談だよ! 本気で叩くなって!」


 はは。まさか、本当にアリスディアも俺と同じ考えだなんて、思いもしなかった。

 しかし、そう考えると勇ボコのストーリーで、魔王がどうして勇者や英雄に対して最後まで本気を見せなかったのか、分かる気がする。

 魔王は最後の最後まで、魔族と人間の共生を望んでいたんじゃないだろうか。

 そして、その思いを勇者たちは気づかず、感情の赴くままに殺してしまった。

 ……勇ボコって、こんなにも悲しいストーリーが隠されていたゲームだったのか?


「アリスディアが俺と同じ考えだってこと、誰かに話したことは?」


 魔族と人間の共生という望みは、言葉にするのは簡単だが、それを成そうとするのであれば言葉にできないほどの苦労が待っているだろう。

 そんな茨の道を、アリスディアは魔王という立場でありながら歩もうとしている。

 ならば、ともに歩いてくれる仲間が必要だと俺は考えた。


「……誰にも話したことはないわ」

「そ、そうなのか?」

「うん。だって、シャドウにすら言ったことがなかったんだし、シャドウだって隠していたことでしょ?」


 辛そうな表情でそう言われてしまうと、何も言い返せなくなってしまう。

 俺もアリスディアと同じで、レイディスと出会う前までは誰にもこの思いを伝えたことはなかった。

 アリスディアにすら伝えていなかったのだから、彼女が俺を含めた誰かにこの思いを伝えることは、相当の覚悟がいることだろう。


「でも、今は違う」


 しかし、アリスディアは次の瞬間から笑顔に変わり、俺を見つめながら口を開いた。


「だって、シャドウが共犯になってくれたんだもの」

「共犯って……まあ、間違ってないか」


 言い方に問題がある気もしたが、それでもアリスディアと秘密を共有できたのは、なんだか嬉しい気持ちになってしまう。


「もしかして、そのために動いていたからレイドを火山に逃がしたの?」

「あぁ。前にも言ったけど、王国軍も一枚岩じゃないって分かって王国へ行っただろう? そこで俺たちの考え方に近い人間を見つけたんだ」


 そこで俺は、隠す必要もないだろうと思い、レイディスとのやり取りについてをアリスディアに話した。

 すると、話を聞き終わったアリスディアは何故か頬を膨らませており、何か気分を害してしまったかと首を傾げる。


「……私だけ……秘密……」

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもありませんよーだ!」


 ……え、えぇ~? 絶対に怒ってるじゃんよ。

 しかし、こうなったアリスディアは何を言っても答えてくれないことは分かっている。頑固なのだ。


「……まあ、そういうわけで、レイディスが王国側で罰を受けないよう、受けたとしても軽いもので済むように、それでいてレイドを助けられるように動いていたんだ」

「……冷静になって今の話を聞くと、シャドウって色々と考え過ぎじゃない? 本当に大丈夫? 疲れていない?」


 ふむ、口に出してみると確かに、色々と考えすぎかもしれないな。

 とはいえ、これくらい考えながら動いていないと成せるものも成せなくなってしまうので、仕方がないんだけど。


「大丈夫! こう見えても俺って頑丈なんだぜ?」


 少しおどけた感じでそう口にすると、俺は力こぶを作り笑って見せる。


「うふふ。何よ、それ。全然強そうに見えないんだけど」

「そうか? まあ、イボエルに比べたらまだまだかぁ」

「比べる相手を間違えていないかしら?」

「あー……それはそうかも」

「「……あはは!」」


 軽口を言いながらお互いに見つめあうと、最後には同時に笑い声を上げた。

 アリスディアからの疑いは晴れたが、晴れたからといってこれからのことが上手く進むわけではない。

 もっと上手く暗躍して、レイディスとも連携を取りながら、魔族と人間の共生を成し遂げなければ。

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