第6話:シャドウの記憶
「……それに、シャドウ。お前って、なんだか波乱万丈な人生を送ってきたんだな」
シャドウの記憶が蘇ってきたからか、俺はそんなことを鏡に向かって呟いていた。
人間っぽいなと思っていたけど、記憶の中のシャドウは紛れもなく人間だった。
しかし、黒髪は魔の象徴だと信じている両親のもとに生まれてしまったため、赤子の時に捨てられてしまう。
すると今度は盗賊に拾われるも、目の前でその盗賊が冒険者に斬り殺され、保護という名目で人間の都市に連れていかれたのだが、その先に待っていたのは奴隷商だった。
奴隷として育てられたシャドウは、妙に頭の切れる少年に成長し、高値で大商会に売り飛ばされたのだが、そこでの生活は血反吐を吐いてしまうほど苦しいものだった。
特に商会長の子供たちからのいじめが酷く、シャドウは給金を貯めて、自分の権利を買い取って自由を手に入れたなら、絶対に大商会を出ていこうと決めていたほどだ。
だが、商会長はシャドウを手放すつもりなど毛頭なかった。
切れ者としてかゆいところに手が届く仕事をしていたシャドウを見て、一生飼い殺しにしてやろうと心に決めていたのだ。
結果、シャドウは一二歳になるまで大商会で使い潰され、身も心も壊れる寸前まで来ていた。
「……そこに、魔王軍が侵攻してきたのか」
都市は魔王軍の侵攻により崩壊。ほとんどの人間が殺されていく中、シャドウは運よく生き残っていた。
それはシャドウが逃げ出せないようにと、彼の部屋が大商会の地下にある堅牢な倉庫になっていたからだ。
「……どうしてあの時、アリスディアはシャドウを助けてくれたんだ?」
地下からシャドウを見つけたのは、アリスディアだった。
アリスディアはシャドウを見つけると、彼に手を伸ばしてこう告げる。
『――我のものになれ、人間の少年よ』
銀色の甲冑を身に纏った魔族にそう言われても、恐怖で身を震わし、答えることなどできないのが普通だろう。
しかしシャドウは心ここにあらずの瞳でアリスディアを見つめ、力ない声でこう答える。
『――……どうでもいい。俺は、死んでいるようなものだから』
人間が人間を従え、虐げ、閉じ込めていた。
その事実がシャドウにとって、人間も魔族も同じものだと思わせていたに違いない。
そのような態度を取られたのだから、その場で殺されていてもおかしくはなかっただろう。
だが結果は異なり、アリスディアはシャドウを連れて魔王城へと戻り、彼を側近にして連れ歩くことを決めた。
最初はアリスディアに対して批判が殺到した。特に死四天将からの批判が大きく、彼女の傘下を離れた元死四天将もいるくらいだ。
それでもアリスディアはシャドウを切り捨てることをしなかった。
アリスディアの真意は今もなお知ることはできていないが、そのおかげでシャドウは自身の価値を見出し、多くの魔族や新しい死四天将に認められ、彼女の参謀という立場を確立させた。
シャドウの才能を見抜いていたのか、それともアリスディアに何か思うところがあったのか。
「……今はまだ、聞けないな」
俺がシャドウであれば、本当の信頼を得ていたシャドウなら、聞くことができたかもしれない。
しかし、今のシャドウの中身は隠者黒子という、日本人なのだ。
シャドウの記憶が蘇ったとはいえ、その考え方は俺のものであり、アリスディアが信頼を置くシャドウではない。
俺という人物が改めてアリスディアの信頼を得ることができたなら、彼女の真意を聞いてみたいと思う。
それがシャドウに対して、俺ができる恩返しみたいなものだから。
「……本物のお前は、お前の意志はどこに行ってしまったんだ、シャドウ?」
鏡に映る俺に手を伸ばしながら、思わずそう問い掛けてしまう。
先ほどと同様に答えは返ってこないが、今回の問い掛けには正直、答えが返ってきてほしかった。
「……寝よう。一度寝て、頭をスッキリさせた方が良さそうだ」
あまりにも考えることが多すぎる一日だった。
情報過多過ぎて、頭の中がおかしくなっているかもしれない。
一度寝ることでリセットできたらいいけど、どうだろうか。
そんなことを考えながら、俺はベッドへ横になり瞼を閉じる。
体なのか、それとも頭なのかは分からないが、疲れが溜まっていたのだろう。
俺は横になって数秒後には深い眠りに落ちていたのだった。
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