第1章9 更なる会議と昼食、またコイン裏の極秘作戦

〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊司令官 森田呉里 TACネーム: ヤン コールサイン: ウィザード・アクチュアル〕

〈ユーレイン西海岸 ネオ・ブレスト軍港(首都から60km) ― 第3艦隊司令部 司令官執務室〉

[翌日 ― 0900時]

あれから私の艦隊は彼女ら ―― 今では王女の艦隊フロイラインズ・フリートと呼ばれている亡命艦隊 ―― と共にネオ・ブレストに入港し、亡命艦隊の係留手続き、損傷している艦のドッグ入り&修繕手続き、使用した消耗品の補給、実包の弾薬庫返却、艦載機の修理などのペーパーワークを終わらせ、残っていた書類などを副官らに押し付け。執務室で寝た。

翌日 ―― 言うなれば今日、0700時に起床しアメリカン・コーヒーとハンバーガーをつまみながら書類整理をしつつ今に至る。

「はぁ・・・・・。」

丁度 湾内曳航船タグボートの新規調達に関する書類を捌いた所だった。

「中将、お客様です・・・・取次ぎますか?」

ノックと共にドアを開けて入って来た私の秘書がそう告げた。

「ん?誰だ?」

「森田元帥とレッドフィールド元帥です。」

「え”っ!!?」

まさかの2人だった。

「どうしますか?」

「・・・・・分かった、お連れしてくれ。」

すると秘書と入れ替わりに私の兄 ―― 三辻とその友人で陸軍のトップ ―― レッドフィールド元帥が入って来た。

「よう中将、苦労人か?」

「おお・・・・こいつか。」

「苦労人ていうか、見ればわかるでしょ兄貴・・・・。

レッドフィールド元帥閣下、お初にお目にかかります。」

私は兄にそう言い、そしてレッドフィールド元帥には起立敬礼をした。

「ああ、こちらも会えて光栄だ。」

「こちらこそ、

コーヒーでよろしいですか?」

「そんじゃあいつもので頼むわ。」

「それじゃあアメリカンで、角砂糖は2つ。」


「それで、お話が?」

2人にコーヒーと椅子を設け、私はこう切り出した。

「ああ、実は今回の異世界騒ぎに関わった関係者全員を招集して会議を行うとの総帥直々のお達しでな・・・・。」

「で、私もですか?」

「いや、あの亡命艦隊の関係者も一切合切。」

「ああ・・・・彼女らもですか。」

「そしてだ・・・・。」

そして兄は一拍置き、

「森田呉里 中将、貴官を派遣艦隊総司令官に任命する。」

そうわざと畏まってそう言った。

その結果、私は一瞬にして化石と化した。

そんなポストは本来私の様な一介の艦隊司令が”なる事が出来ない”物である、だが・・・・私の兄、現海軍元帥は私に押し付け・・・・ゲホンゲホン、私に任命してきた。

「大丈夫か?」

「は、はい・・・・・、

でも兄貴、なぜ私なんかを?」

「ホントーは、俺が行きたいのだがなぁ・・・・立場が立場だ・・・・。

そしてお前には今回の亡命事件を解決させただけの力もある、俺みたいなボンクラが居なくてもやってけれるだろ。なぁレッドフィールドよ?」

「それも、そうだなぁ。」

レッドフィールド元帥が少しニヤケてそう答えていた、

「しかし・・・・。」

「たまには顔を出すからよ?」

「えぇ・・・・・。」

「な? な?」

そう言ってくる兄貴に対して、私は決断した。

「謹んで上番致します。」

「それでこそだ我が弟よ、

好きなだけ艦隊を持っていくといい、草案は・・・・明々後日までに頼む。」

「はい、・・・・で”彼女ら”も連れて中央司令部セントラルに向かえばいいんですね?」

「ああ、俺とレッドフィールドは暫くここでの見学を楽しむとするよ。」

「了解しました。」


〈ネオ・ブレスト軍港 仮居住区〉

[1015時]

あれから私はここの見学をするという元帥2人と別れ、船架ドッグに近い仮居住ブロックへと向かった。あそこには亡命して来た”彼女ら”が交代で寝泊りをしているエリアが存在する。

「爺ちゃんが現役だった頃は、こんな感じだったのかもな・・・・。」

それぞれ船架ドッグに入架している”彼女ら”のフリゲート艦と我々第3艦隊所属のR級偵察艦が仲良く揃って修復を受けている姿を見て、私は思わずそう呟いた。

「ヤンさーん。」

すると私の後ろからそんな声がした、

振り向くとそこには船架ドッグ主任の金本少佐が居た。

「ああ、金本さん。どうです・・・・調子は?」

「やりがいがあるってもんですよ、

あちらさんの規格とかが些か古風で難しいですが、向こうの技術屋さんとこっちに残ってる大戦中の設計図のお陰で何とか頑張ってます!!!」

金本少佐についてはよく分からない、男の様にも女の様にも捉えれるがよく分からん。だから少佐に対してはあまり入れ込んでいない。

「どうかしましたか?」

「いや・・・・そうか。」

「ヤンさんも仮居住ブロックに用事ですか?」

中央司令部セントラルからの命令でな。」


しばらくすると王女の艦隊フロイラインズ・フリートの衛兵2人が警備する仮居住ブロック建物正面にたどり着いた。

「これはヘール・ウェンリ中将、一昨日は有難うございました。」

「あれぐらい構わんさ、大尉。」

小銃を携行した衛兵 ―― ケルゲレン大尉は昨日、私がここの案内をした警備担当の一人である。

「そう言えば副元帥閣下はおられるかな?」

「はっ、お通しいたします。」

ケルゲレン大尉に案内され、建物の中へと入った。


中に入り、ダイニング・ルームのドアを開けると副元帥以下全員の将官が何か議論していた。

「おお!! ウェンリ中将」

すると副元帥は略式敬礼をし、私に近付いてきた。

「おはようございます副元帥閣下。」

「それよりも・・・・。」

「はい?」

「貴国の艦艇設計技術はすごい物だな!!」

「は、はぁ・・・・。」

「その通りだ!!」

するとビッテンフェルト中将が第2次世界大戦中に我々海軍が運用していたK型戦時標準フリゲートの青写真のコピーを持ちそう叫んだ。

そう ―― 彼らの暇潰しとして連邦海軍データセンターに保管されている大戦期の青写真をいくつかコピーし、昨晩の内に幾つかを渡していた。

「・・・・・。」

「そう言えばヘール・中将、何か用だったかな。」

「あ、はっ

私の上司・・・・と言うよりもこの国の国家元首が貴方方を招いて会議を行いたい、という事なので・・・・。」

「了解した・・・・、皇女殿下フロイラインは?」

「一緒にという事でした。」

「ああ、そちらも了解した。」

「妾がどうかしたかの?」

するとその彼女がそう言いながら私の後ろから抱き着いて来た、そして昨日とはまた少し違う柔らかい匂い、香水、温かさ。またその豊満な2つの物体を押し付けて・・・・。

「あ、あの殿下・・・・何を・・・・?」

「ん?」

「ん、じゃなくて・・・・・。」

「妾達の恩人じゃからの、触れ合っておるのじゃ・・・・この妾を粗相と思うか、ヘール?」

「触れ合いって・・・・副元帥閣下、これをどうすれば・・・・・。」

「うわっはっはっは、若いというのは良いですなぁ。

皇女殿下フロイラインも良い伴侶候補をお見つけに・・・・・・。」


〔ユーレイン連邦海軍 STAG 第1中隊 第1小隊副長 伊藤・三間 少尉 TACネーム: オクトパスボール コールサイン: アルファ1-2〕

〈ユーレイン連邦 西部 フォード島基地 居住エリア 食堂ブロックにて〉

俺はいつも通りの0630時に起床し、日課のランニングと射撃場レンジでの自主訓練を終えて少々遅い朝食を摂っていた。

「・・・・これからどうなんやろなぁ。」

思わず俺はそう言った、

そう・・・・この国のお国柄、ただ海賊船団の制圧だけで終わるはずが無いからだ。

「おはようございます少尉殿。」

すると第3の隊員が入って来た、確か階級は・・・・曹長だったか。

「お、曹長か。

別に敬語はいらんで、ワシも敬語は苦手やからのぉ。」

「では・・・・お言葉に甘えて。」

そしてその曹長はカップラーメンと箸を持って俺の正面に座り、食べ始めた。

「そう言えば、曹長。」

「小官の事は元夫差かケフェウスで・・・・。」

「そんじゃあワシの事は伊東、でええで。

んで元夫差、お前年ナンボや?」

「今年で29です。」

「お、若いのぉ。

ワシは32や、んで元々は伊丹に住んどったわ。」

「・・・・伊東さんは”あの戦争”の激戦地に居たんですか・・・・。」

”あの戦争” ―― それは今から14年前、旧日本国島根県竹島での海上自衛隊と韓国海軍との小競り合いを端に発した”日亜戦争”の事である。

当時18だった俺は地元の伊丹に住んでおり、韓国に乗っかって宣戦同時攻撃をして来た中朝合同軍の空爆で殆どの血縁者を失った。

・・・・それから俺は地元の有志で結成された”伊丹警備隊”に入隊しコスプレ ―― 隠れ共産党員 ―― や侵攻してきた中朝韓連合軍部隊を潰して回り、更に警備隊が壊滅・解散した後は陸自に入りなんやかんや空自、海自そして水陸機動団を転々とし最終的に地元伊丹の解放戦に参加して終戦を迎えた。

終戦後は”日本国移転”の作戦にも参加し、ユーレイン海兵隊に自動的に編入されかつての上官だった隊長に拾われ今に至る。

「せや。」

「自分は愛知の知多です、”あの戦争”が起きた時は中坊でしたけど・・・・あれは・・・・。」

「ああ、あまり言わんでええぞ曹長。あれは思い出してええもんじゃない・・・・。」

「ええ・・・・・・。」

すると隊長が入って来た。

「あ、大尉。おはようございます。」

「少尉に曹長か、昨日はご苦労だったな。

さっき中央司令部セントラルから連絡を受けてだ、向こうで会議が行われる手筈となった。

それでだ・・・・。」

隊長は一拍置き、

「曹長はあの2人を、俺と少尉はあの美少女達を連れて行くぞ。」

「はい。」

「ラジャー。」


〔ユーレイン連邦 総帥 七瀬・青海 TACネーム: ブルーコバルト〕

〈ユーレイン連邦 西海岸中部 首都サガント サガント統合基地 司令部ブロック 中央司令部セントラル 正面玄関にて〉

[1130時]

私は既に集まった陸軍、空軍、海軍そして海兵隊の代表。更に情報課、海軍特殊作戦諜報部NSOIA、海軍諜報部、内閣情報部、対外保安諜報部FPI警察庁FPB武装警察TFAPB反国家暴動監視取締局ATSB国内特務諜報局FSPSP、国家保安部、SIA、FBI、CIAなどの部局からの代表者と共に”関係者”らの到着を待っていた。

「でも・・・すごい出鱈目なぐらい沢山居ますね。」

すると私の横に居た私の副官 ―― ワスプこと立石唯 中佐がそう呟いた。

「私もレポート読んだけど・・・・。」

そう、今回参加する関係者の数だ


ジャーメルライヒ帝政共和国代表:

- 皇女 フロイライン・V・エリン・ジャーメルライヒ

- 海軍副元帥 リヒャルト・V・カイテルパウアー

- 同所属 カーテライト・クライツェル少佐

- 同所属 マクペル・ブレーザー少将

- 同所属 オーギュスト・Z・ワーレン大将

- 同所属 A・バイエルライン少将

- 同所属 T・V・グレービー少将

- 同所属 Z・アイゼナッハ参謀

- 同所属 ショルツ・ビッテンフェルト中将

:他4名


ブリックス公国代表:

- 公子 ミハイル・S・ブリックス

- ギルド アラント・エケテリーナ

- 同所属 ブルコ・スチン

- 同所属 ニルバーナ・ヴィントルガー

- 同所属 クセン・ポントルモ

- 同所属 クセン・ドクンレツ

- 同所属 ブラスコ・ヴィンス


旧アイギナ公国代表:

- ハミルンコ・ハンニバル准佐


その他:

- ナイトハルト・V・ミュラー准将

- メラニア・バスキス

- エレーナ・バスキス

- カナン人 オリーエ・パザン

- オリビエ・メイソン

- キレリア・ワイエス

- リオラ・サンチェルゼン

- ナードリカ・パルサー

- ラミリア・メディー

- カミラ・ヘンデルワース


・・・・といった具合に、合計31人もいる。更にこの他にもSTAGから3名、空軍から2名と第3艦隊から2名が付いてくる。


そう思い出した某に関して考えていると、陸軍のM1151ハンヴィー 7台がゆっくりと進入し私達の目の前で停止しドアが開いた。

開いたドアからはゾロゾロと”関係者”らが出て来た。

「お、デーム・ナナセ。」

するとミュラーさんが美少女と金髪中年のおっさんを連れて近寄ってきた。

「これはミュラーさん、昨晩は良く眠れましたか?」

「お陰様で、

こちらがこのユーレイン連邦の国家元首で御座います。フロイライン。」

「そうか、妾がジャーメルライヒ帝政共和国 皇女のフロイライン・ヴォン・エリン・ジャーメルライヒじゃ。」

「そして私が帝政共和国海軍 副元帥、リヒャルト・ヴォン・カイテルパイアーだ。」

「これはこれは、遠路長旅ご苦労様で御座います・・・殿下、閣下。

我々ユーレイン連邦は貴方方ジャーメルライヒ帝政共和国の亡命を歓迎いたします。」

私は一人づつ労いし始めた。


[10分後]

労いし終わった私は、我が国の代表陣と異世界からの代表陣を連れて中央司令部セントラル内のR1大会議室へと向かった。

今日のみこの場所の警備はかなり厳重にしてあり、3m間隔でSIG 553Rを携行したSPが配置されており外にはスナイパー、更には空軍のAH-6 リトルバードが展開している。

そして傍らではジャーメルライヒの将官達が話し合いをしながら歩いている。

「さて、到着しました。」

すると我々は無機質な観音開き式ドアの前にたどり着き、私はその重厚なドアを開けた。

ドアの向こうにはテニスコート2枚分の空間が広がっており、そこにはまた巨大な会議用テーブルと椅子。更に電子ネームプレートと水、そして菓子が置かれていた。

「皆さん、自分の名前の場所へと着席して下さい。」

そう言うと各々自分らの席へと座り、談笑し始めた。

「彼らを本当に中へと入れて良かったのでしょうか?」

するとワスプがそう言った。

「心配性ね、ワスプ

心配しなくても彼等は大切な情報提供者なんだし、私達も彼等が知りたい事を提示する必要が有るわ。

ま、いざって時は”あの装置”があるわよ。」

「でも”あれ”はまだプロトタイプ ―― 」

「さて、気を切り替えて。」

「・・・・了解。」

そして私は振り向き、

「さ、皆さん。

皆さんらにここへ来て貰ったのは他でもなく・・・・、

情報交換をする為です。」

私はそう告げ、

「でも、その前に親睦を深めたいのでそれぞれ自己紹介をしませんか?」


[数分後]

「さて、本題に入りましょうか。」

そう言い、

「まずミハイルさん。」

私は欠損した右腕に軍用義手を装着し病院着を着ているミハイルさんにそう告げた。

「はい。」

「ブリックス公国とその周辺について教えてください。」

「はい・・・・、まず私の祖国 ―― ブリックス公国はスイース大陸南西部に位置していて、周りにはウスリタン王国やドラクナ王国などが存在します。」

ほう。

「ブリックス公国の人口は確認できるだけで20万人、私の父上 ―― オムスク陛下を中心にき、いや腐った豚共が各都市を治めています。

税は購買品の十分の一で、労働を目的とした奴隷は犯罪者を除き違法となっています。

しかし・・・・。」

「しかし?」

「私の家であるブリックス家と貴族由来の軍人や貴族 ―― いや豚共の間で対立があり、そいつらは違法カジノや非合法の奴隷を多く所有し我々だけではそれらの摘発が追いつきません。」

あらま・・・・大変だ、何とかしないとね。

「・・・・・その件に関しては了解しました、ウスリタン王国とドラクナ王国についてを。」

「はい、ウスリタン王国は公国北東の国境に面していますが・・・・・かれこれ10年前から国交が断絶しています。」

断絶?

「確か・・・・ジャーメルライヒの方は国交があったはずです。」

「ああ、確かにウスリタン王国とはそれなりに国交があったな。」

するとカイテルさんがそう言いつつ頷いた。

「カイテル閣下、ウスリタン王国とはどんな国なのでしょうか?」

「ああ、良いだろう。

元々ウスリタン王国は我々と同じく帝政共和国だったが・・・・国内の騒乱や抗争が相まって王国となった。

我々ジャーメルライヒとウスリタン、仲が悪いわけでも無く友好関係にあった。逆に我々が苦しんでいる際は助けて貰ったこともあった・・・・・。

・・・・・我々がコルリス帝国に呑まれる前にしても外交で不利だった我々を救おうとしてくれていた・・・・、

ウスリタン王国はとても良い国だ。

あとだ、ドラクナ王国は亜人の一種 ―― 竜人ドラクナーが人口の殆どを占めている。」

「ドラクナー?」

「彼等は長寿で武芸を極めることを人生のよろこびとして生きている、姿・形は我々人間に近いが龍にも変幻へんげすることが出来る。

ドラクナ王国の国土は殆どが山脈で天然の要塞となっている、彼ら竜人ドラクナーはその山脈の地下深くにあるという古代遺跡を繋ぎ合わせた地下都市に住んでいる。」

へぇ~、面白そうね。

「まあ彼らの住む山脈には高品質のミスリル ―― 特殊な金属鉱が眠っている。それ故、それらを入手しようとして20年前・・・・あのコルリス帝国陸軍の精鋭が王国に侵攻したが結局兵力の9割を損耗して撤退してしまった程彼ら竜人ドラクナーは強い。

彼等は武に関してはこの大陸一だ、断言できる。」

「へ、へぇ~ すごいですね・・・・・

ありがとうございます閣下、

えーっと次は ―― 。」

「少しよろしいですか?」

すると対外保安諜報部FPIの幹部 ―― 柳原ヤナギハラ三佐が神妙な顔で聞いてきた。

「ええ、どうぞ。」

「コルリス帝国についてもっと詳細を教えて貰いたいのです、そのコルリス帝国の動向次第では我々FPIの調査対象を変更しなければならないので。

カイテル閣下、そこの所を宜しくお願いします。」

「うむ、ヘール・ヤナギハラ・・・・・了解した。

コルリス帝国は”あの戦争”の後、直ぐに独立し近隣に存在した国々を飲み込み潰していった・・・・いわば”ベルカ帝国”の凶暴性と本来存在したコルリス人の蛮勇さを煮詰めて掻き混ぜたような国だな。

我々はともかく、あの”小国潰し”を間近で体験した彼は尚更でしょうが。」

するとカイテルさんは苦虫を噛んだような顔でハンニバルさんを顎で指した、

そのハンニバルさんはひたすら沈黙を保っていた。

「すまない、話が逸れてしまったな。

ごほん、帝国はこのスイース大陸最強の帝国だ。

政治の実権は帝王 フレデリック・ブリックスとその大臣達が掌握している、フレデリックは数年前に父親である”狂帝”ジキスムントから継承権を譲られている。

人口は確か・・・・」

「20億です、閣下。」

「ありがとう、少将

で、軍事力は・・・・・陸軍の総兵力が10億で翼竜ワイバーンが1万匹程、海軍の戦闘艦艇数はざっと150隻は超えている。

だが最近”黒の十字架団”という政党がコルリス帝国の中枢に食い込んでいるみたいだからな・・・・・もしかしたら増強されているかもしれないな。」

・・・・・・は、陸軍の兵力が中共の総人口並とは・・・とんだキチガイ地味た国だな。

「・・・・工業力はどのぐらい発達しているのですか、その帝国は?」

「かつてのベルカ帝国の重工業地帯を殆ど飲み込んだからな・・・・かなり発達している。」

「そうですか・・・分かりました。」

これはまた大変な事になりそうね、でも今は・・・・・。

「さぁーて、次は・・・・ハンニバルさん

貴方の祖国、アイギナ王国について教えてもらいますか?」

「相分かった、

私の来たアイギナ王国は小王国群の一国、近くにはグルカ公国やスハルト民国など ―― いわば精強な国々が存在していた。

首都だった王都ワルキスは山と川に囲まれ自然が豊富な良い都だった・・・・。

国王はアイギナ・アイアンギウス陛下で剣術に優れ、ジャーメルライヒのフリッツ・ヴォン・ジャーメルライヒ陛下とも仲が良かった。

・・・・・だが、ベルカが崩壊し我々も新たな国として独立して間もなく・・・・コルリス帝国があの”小国潰し”を始めた、

・・・・・私も部隊を率いてアイアンギウス陛下をお守りせんとしたが、”あの男”と刃交えて逝ってしまわれた。

私は部隊の生き残り、ランスロット第2王子とジュリア第3王女を連れ脱出した。

アイギナから5600人、グルカ公国から1700人、スハルトから300人、ファーバンティ王国からは1000人ほど脱出したと聞いている。」

・・・・・・まるでアニメのストーリーみたいね。

「・・・・分かりました、

そう言えばハンニバルさん。」

「はい?」

「”あの男”とは何者なんです。」

するとハンニバルさんは少々驚いた顔をし、

「確か名は・・・・キルゴア、ランスターン・キルゴアと言っていたな。

珍妙な剣を使い戦っていた。」

すると私含め連邦軍の関係者はざわついてしまった、

「なっ・・・・・、あの”狂気の代弁者”がか・・・・。」

「あんな死神・・・・・死んだんじゃなかったのか・・・・・・、

もしあれと戦うんだったら人員がいくらあっても足りんぞ!」

「小官は士官学校の教本フィールドマニュアルでしか名前は・・・・・。」

ランスターン・キルゴア ―― かつて米国海兵隊の士官だった男で、その類い稀な戦闘力から”狂気の代弁者”、”死神”、”民主主義の復讐者パニッシャー”などの名前で呼ばれていた戦闘狂である。

「わーお・・・・・・。」

「そう言えば、ちょっと質問いいですか?」

するとSTAGの梶田曹長が手を挙げた。

「ええ、どうぞ。」

「亜人? でしたっけ、それにはどの位種別があるのでしょうか?」

「クックック・・・・・その質問、俺が答えるぜぃ。」

その質問に陰湿と陰険を合わせたような顔でニルバーナさんがそう呟いた。

「クックック・・・亜人というのは、遥かな昔・・・悪魔族デーモン魔人ザンジバルが獣人と交わったりして誕生した種族だがなぁ。

クク、実際には魔人が製造した”生体兵器”だ。」

そして彼は一拍置き、

「まずはそこのエルフだ、

エルフは主に森に住んでいて、独自の宗教や文化を持っている

クククッ、まあ色々自由な変り者もいるがな。

この通り生まれつき不老の力を持ち軽く100年200年生きる。

クックッ、主に エルフ、ダークエルフやエンシェントエルフなどが居るな。」

「誰が変人よ!! バカッ!!」

「クック、次は・・・・そこに居るやんちゃくそだ。」

「俺なんだぜ?」

犬人種ドックハウンドは主に尻尾と耳以外は人間と一緒だ、犬獣人ウォルフが大元だから力も強い。

近縁に狼人種ウルフハウンドも居るが・・・・ククッ、そこの碧眼のお嬢さんの様にな。」

「え? ええ・・・・。私の父は狼人種よ。」

そんなニルバーナさんの解説に、オリーエちゃんが肩を竦めてそう言った。

「まあ他にも猫人種キャットピープル兎人種バニー虫人種バグ蛇人種スネークマンとかがいる。」

「ありがとうございます。」

「構わんぜぃ、クックック。」

「さーて皆さん!

そろそろ昼食の用意が整っていますので、移動しましょう。」

私がそう言うと、全員は賛同するように頷いた。


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〔ユーレイン連邦 総帥 七瀬・青海 TACネーム: ブルーコバルト〕

〈ユーレイン連邦 西海岸中部 首都サガント サガント統合基地 迎賓館にて〉

私達は会議を終え、旧司令部庁舎 ―― 今は来賓用の施設となっている煉瓦造りの建物へと向かった。

すでにビュッフェ形式の昼食会の準備が出来ており、メイド姿の女性兵士が出迎えてくれた。

「既にお食事の準備が出来ておりますのでいつでも、

あ・・・・1230時にネオ・ブレストで修復を受けている艦の乗員もこちらに来る予定です。」

「ふぅーん、で・・・何人ぐらい?」

「確か、千人ぐらいです。」

「へ、へぇ~ 了解したわ。

それじゃあ皆さん、先に食べましょうか。」

私がそう言うと他の会議参加者は答える様に声を出し、各自皿を取りに行った。


[1240時]

〔ユーレイン連邦海軍 STAG 第1中隊 第3小隊所属 梶田・元夫差 曹長 TACネーム: ケフェウス コールサイン: チャーリー3〕

俺は大皿に自分の大好物のボーンレスフライドチキンやフライドポテト、コーンスローやハンバーガーなどのアメリカンフードを取り縁側のベンチで黙々と食べていた。

10分前から続々と軽装甲機動車ライトアーマーとM998 HMMWVハンヴィー、そして高機動車ハヤブサなどがジャーメルライヒの水兵達を降ろしては戻りを繰り返し今では水兵達でごった返している。更にそれを聞きつけたらしいユーレイン連邦軍籍の者共も寄り付き、ドンチャン騒ぎになっていた。

「こうして見ていると、異世界に飛ばされても変わらんものだなぁ。」

そう、例え異世界に飛ばされようが変わらない物は変わらない・・・・・。

「ヘール・カジタ。」

するとブラックコーヒーを片手にした准将がそう言いながら俺の肩を叩いた、彼の横には年若な・・・・少女が居た。

「これはミュラー准将、どうです? 昼食は?」

「ははは、ヘールの様に大食いではないがちゃんと頂いたよ。

それに我々の乗員まで参加させてもらって・・・・本当に頭が上がらない。」

「いや、謝辞なら総帥彼女に・・・・。」

俺は顎で他のジャーメルライヒ将官と談笑している彼女ブルーコバルトを示し、そう言った。

「ははは、それもそうだな。

そう言えば紹介したい者が居る、私の士官学校時代の旧友の娘でヴェスク・マリンドルフという。彼女は陸戦隊に居てな、仲良くししてやってくれないか?」

「は、はぁ・・・・。」

准将・・・・押し付けないでください、とは口が裂けても言えない。

「第2艦隊 軽巡洋艦”セイレーン”陸戦隊所属のヴェクス・マリンドルフ上等兵です! わ、私の事はマリーとでも よ、呼んでくださいね?」

緋色金髪ロングの少女 ―― マリーはそう言うと、手を差し出してきた。

「あ、ああ。その・・・・よろしくマリーさん。」

しかも緊張して固まってるし・・・・どうしたら。

しかしながら差し出さない訳にも行かないのでその手を握ると、彼女の手は暖かかった。

「それではヘール、デーム・ナナセに呼ばれているのでな・・・・失礼する。」

するとにこやかな顔で俺とマリーの様子を見ていた准将は、少々表情を固くしてそう告げると歩き去っていった。

「行ってしまったな・・・・。」

「はい・・・・。」

うーん、女の人と喋ったことはあるとは言え・・・・どうしたものか。

「あの、マリーさん ― 。」「あの。」

見事にハモってしまった。

「お先に良いですよ、ヘール?」

「いやいや、マリーさんが先に・・・・。」

「は、はい・・・・

・・・・ちょっと甘い物を食べたいのです、ヘール。」

「甘い物ですか・・・・ケーキでも?」

「はい!」

拝啓准将閣下、彼女の笑顔でメンタルブレイクしそうです。

「おお! 梶田じゃないか!」

すると近くからそう声を掛けられた、

振り返って見てみると海兵隊時代の同期 ―― 笠置かさおき 貫太かんた 二曹が他の海兵隊員と共に居た。

「笠置か、久し振り。」

「相変わらずつめてえな梶田、同期が遊びに来たっていうのによ。

今回もご活躍だった様だな、でも女が出来てよかったじゃないかよ。ええ?」

「いいや、彼女は俺の友人の頼みでな ―― 。」

「女は女だろ、この ―― 」

「ヴェクス・マリンドルフ 上等兵、軽巡洋艦”セイレーン”陸戦隊所属。」

俺と悪友 ―― もとい笠置の会話を聞いていたマリーさんは、さっきのニコニコ顔が一変 キリっとした事務モードになり更に笠置にそう言い、敬礼した。

「おっと、マリンドルフさんだったか。

俺はユーレイン連邦海兵隊 海兵旅団遊撃偵察中隊、第3班 班長の笠置 貫太 二曹だ。

後ろに居るのは俺の班員達だ、よろしく。」

その敬礼に笠置も敬礼しそう返した。

「ちょっと~ 梶田さーん~。」

すると H&K MP5SD3 SMG を持つ笠置を押しのけ、H&K HK416A2 自動小銃アサルトライフルを持った 川上位カワジョウイ 仁美ヒトミ 三曹と

「私を置いて女とは・・・・どういう事ですか? 梶田」

スプリングフィールド M25 EDMR 狙撃銃スナイパーライフルを持つ長篠ナガシノ ヒカリ二尉がそうジト目をしつつ言ってきた。

「お前らなんか知るか、俺は一人暮らしの方が身に合ってる。」

「でも ―― 」「でもね ―― 」

「よせ三曹、二尉。」

その二人の肩を軽く掴んで対人狙撃銃Ⅱ型 ―― もとい ナイツ M110A2 SASS を背中に掛けた府政フセイ 長治チョウジ 三尉がそう咎める様に言った。

「お久し振りです、府政さん。」

「三曹 ―― 今は曹長だったか、元気そうで何よりだ。」

「”先生”こそ。」

「全く・・・・先生はよせ、曹長。」

三尉は昔 ―― 俺がまだ陸上自衛隊に在籍していた頃の恩人の一人で、共に”あの時代”の死線をくぐり抜けた一人でもある。三尉自身はかつては水陸機動団 ―― 今では海兵旅団と改組された部隊 ―― の前哨狙撃手マークスマンであった。

しかし戦後に部隊が連邦海兵隊に移籍した時、当時三佐だった階級が何故か三尉になり以来そのままである。

「いいや、”先生”は”先生”ですよ・・・・三佐。」

「まったく・・・・お前という奴は・・・・。」

喧騒の中での昔話は、まだ続く・・・。


〔ユーレイン連邦 総帥 七瀬青海 TACネーム: ブルーコバルト〕

「デーム・ナナセ、コーヒーを入れるのに時間が掛かってしまい申し訳ない。」

コーヒーカップを持ちながら歩いて来たミュラー准将が開口早々にそう謝辞した。

「いえいえ、構いませんよ。」

「准将も着いたみたいだな・・・・。」

その様子に、落ち着いた顔のビッテンフェルト中将がそう告げた。

そう、私はそれぞれ カイテルパウアー副元帥、ワーレン大将、ビッテンフェルト中将、グレービー少将、クライツェル少佐とミュラー准将にそれぞれ来てもらう様に言っておいたのであった。

「さて、デーム・ナナセ。

話とは?」

「・・・・先程 捕縛した複数の海賊を尋問している者から連絡がありまして、船長格の男が拠点の場所を吐いたとの報告を受けたので我々は可能な限り迅速にその地点を強襲する予定です。

なのでそちら側がどうしたいのかをお聞かせ願いたいのです。」

「勿論、我々共和国側も総力を上げてその強襲作戦・・・・参加させてもらいたい。デーム。」

副元帥がふむ、と頷きつつそうはっきり告げた。

「まあメッツァー中将は大丈夫ですが・・・民間人が心配ですね・・・。」

「えっ、民間人・・・・民間人もいるのですか!?」

えぇ・・・・民間人もか・・・・。

「え、ええ・・・・私達将官の同伴者が300名ほど・・・。」

「・・・・・了解しました、それでは3日後に強襲を決行します。」

「あい分かった、デーム

少佐、陸戦隊と陸軍残存部隊の再編を。

中将は指揮を頼む。」

「はい。」

「了解しました、副元帥。

ジャーメルライヒの強さを賊共に教えてやるぞ!!」

ビッテンフェルト中将はそう叫び、クライツェル少佐は敬礼しそう言った。

「あ、これから3日後に投入される部隊が演習を行いますのでこれからお連れ致します。」

「おお・・・・楽しそうだな。」

「ふむ、私も気になっていたので期待するか。」

「へぇ~ 面白、ですな。」

「ですな。」

「では、行きましょうか。」

私はビッテンフェルト中将とクライツェル少佐を除いたジャーメルライヒ将官団を引き連れ迎賓館を出た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


〔ユーレイン連邦 総帥 七瀬青海 TACネーム: ブルーコバルト〕

「ちょっと寄り道をしますね。」

あれから私達は同じく迎賓館に居たハンニバルさんに事情を説明し、外に停めてあった M1151 HMMWYハンヴィーを借りるとハンニバルさんを含め一路戦略技術研究所へと向かった。

戦略技術研究所、そこは第5次中東紛争、アゼル・アルメニア戦争や日亜戦争などで米軍、ソシア連邦軍や人民解放軍が実戦運用を行った戦術高エネルギーレーザーTHEL指向性エネルギー兵器DEWなどの光学兵器を危惧した当時の軍上層部が設立した国防省直轄の研究施設である。

「デーム、ここは要塞か何かなのか?」

「いいえ、ただの研究施設ですよ。」

「研究施設・・・・ですか、普通の研究を行う所にしては物騒ですね。」

ワーレン大将とハンニバルさんがそう言うように、確かに物騒な場所でもある。

国防省直轄の最重要機密施設の一つであるが為に、ここを警備する部隊は各地から引き抜かれた選りすぐりの精鋭達が配置されている。

ここ ―― 中央司令部セントラルは主に軍事ブロック、商業ブロックや研究生産ブロックなどで分類されているが、この施設だけはどの地図にも記載されていない。中央司令部セントラルの東端に位置するこの施設は司令部ブロックと同じく警備の質が良い。

ここからでもM2重機関銃が備え付けられた監視塔、対人地雷・対戦車地雷・対ヘリコプター地雷のトリプルコンボが大量に敷き詰められた空白地帯と吸着地雷が埋設された対戦車壕や対車両用障害物、更に周囲を巡回する兵士達やAMX-13-105 軽戦車、そしてそれぞれの詰所にて待機するM1126 ストライカーICVとBMP-Tが見て取れた。

「さてさて。」

空白地帯の間に設けられた連絡用道路が終わり、ゲートに近づくとM16A4やH&K G36C 自動小銃アサルトライフルを持った憲兵数名が出て来た。

「元気そうね、末木ウラキ少尉。」

私は運転しているハンヴィーの窓を開け、M16A4を持つ兵士 ―― 末木憲兵少尉にそう告げた。

「総帥も何よりで・・・・先週は有難うございました。」

「構わないわ、少尉。」

先週、定期的に報告書を届けてくる警備部隊司令の代役として私の執務室を訪れてきたので。コーヒーを奢ったのである。

「そう言えば、ここの所長は元気?」

「あの人ですか・・・・所長は変わらずですよ、また変な試作品とかを作ってばっかりです。」

私が軍人証を出してそう尋ねると、少尉は呆れたようにそう返答した。

「そう・・・・、相変わらずなのね。

少尉、またコーヒでも奢るわ。」

「はっ。」

また少尉がそう言うと彼は手で部下に合図をし、目の前に立ちはだかるゲートが重々しく開いた。私も私で窓を閉め、ハンヴィーを発進させゲートを潜った。

ゲートの先には随分と古式な掩体壕バンカーや煉瓦造りの倉庫、更に倉庫や掩体壕の上部に増設されたと思われる簡易トーチカの銃眼から生える大口径機関砲、余剰となったT-34/85 中戦車を改造した車両 ―― その大半が前の中東戦争で対ゲリラ戦に投入された ―― AV-34/85 ドックハウス戦闘歩兵車が搭載している76mm滑空砲とキューポラに備え付けられたDshK38/46 重機関銃とMk.19 グレネードランチャーを誇示するかのように走行する姿が見えた。

「さーて、着いたわね。」

暫くするとこんな古風な風景にとても似ても似つかない現代風の建物 ―― 戦略技術研究所の本館に到着した。

「ここですか。」

「ここですね。」

副元帥がそう尋ねてくるに、私はハンヴィーのドアを開けつつそう答えた。

「さて・・・・皆さん、

ここから見るものは皆さんに特別にお見せするものなので他言無用に願います。」

私はハンヴィーから降りたジャーメルライヒ将官団とハンニバルさんに向けそう言った。

「勿論だとも、デーム・ナナセ。」

「ああ。」「うむ。」

「勿論、デーム。」

「勿論ですとも。」

「では、行きましょうか。皆さん。」

将官団の面々が頷くのを確認した私は、そのまま指紋認証式の電子ロックが掛けられている正面ドアへと向かいそしてドアを開けた。

するとドアを開けた先には私の旧友 ―― 戦略技術研究所開発部長の雰概キリガイ健一ケンイチが涼しい顔で立っていた。

「久しぶりね、雰概。

相変わらず冷房が効きすぎてるね。」

「それもそうだなぁ青海、いや・・・・ブルーコバルト。

冷房を直すのが面倒でね、すまない。

そちらの人達は・・・・。」

「ああ、こちらの方々は私の来賓ゲストよ。」

「そうか・・・・・、

自分はユーレイン連邦軍戦略技術研究所開発部長の雰概・健一。ここで兵器の開発やら何やらをしている、よろしく。」

「よろしく博士ドクトール

雰概がそう自己紹介をすると、副元帥が略式敬礼をしつつそう言った。

「 ――― さて、案内しましょう。」

彼 ―― 雰概はそう言い、我々をエレベーターで地下にある兵器庫ガレージに案内した。現代びた建物に似合わない旧式の搬入エレベーターに乗り、ドアが閉まった。


[数分後]

暫くゆっくりと下降する搬入エレベーターに乗っていると、エレベーターがようやく下の階に降り終えた。

エレベーターのドアが開くと、目の前には既にオリーブドラブOD砂漠戦塗装カーキに塗装された車両、更に人型の”何か”が薄暗い中 裸電球に照らされてそのシルエットを浮き彫りにしていた。

「さあ、少々埃を被ってるが見て行ってくれ。」

「ええ、でも・・・・

やっぱりここの古さは相変わらず変わらないわね。」

「ああ、最近は電子兵器関連が忙しかったからな・・・・手がつけられないんだよ。」

そんな会話をしていると副元帥が立ち止まり、一台の車両を指差しこう言った。

「この車両は何でしょうか? 博士ドクトール

副元帥が指さした車両 ―― それは海兵隊がまだ日本国自衛隊と呼ばれてた頃に採用し未だ現役の89式歩兵戦闘車MICVに似ていた。

「89式か・・・・?」

「うーん、今の回答は80点。

正確に言うと先進歩兵戦闘車A-MICVだ。」

先進歩兵戦闘車A-MICV?」

「ああ・・・・そちらセントラルには秘匿した状態だからね。

これは25式先進歩兵戦闘車A-MICV ”白虎”、こちらではA-MICVやMCIV-Xと呼称している。

元は海兵隊の89式を代替する為に試験製造した物だが89式を使ってる元自さんらにボロっカスに批評されて・・・・この通り埃を被ってる。」

「えぇ・・・・、武装は?」

「主兵装はユーレイン重工 30mm 17式車載機関砲 1門、主砲同軸に7.62mm M249B 1丁と12.7mm M2HBが1丁、車長ハッチに7.62mm MG3 1丁。更にガンポートが4箇所にI-TOW発射機が砲塔側面に2基ずつにオプションで車長ハッチの機銃をMk.19 グレネードランチャーに交換することが出来る。

だがこの通りだ、25台が既に製造されているが全て倉庫送りになってる。」

「中々にかわいそうね・・・・。」

私はそんな哀れなA-MICVを見ながら告げた。

「しかし、強そうですね。この・・・・・”ヒトナナシキ”。まるで”あ奴等”の武装トラクターの様だ。」

「ああ、確かにそうだなヘール・ハンニバル。」

ハンニバルがA-MICVを見つつそう言うに、副元帥はそう返していた。

「「武装トラクター?」」

私と健一はハモりつつそう2人に尋ねた。

「”あの”頃、コルリス帝国陸軍が大量に運用していた装甲車両で我が祖国に侵攻した際も運用していた。」

「ヘール・ハンニバルの言う通りだ、ジャーメルライヒ帝政共和国陸軍の生き残りから聞くに、彼らが運用していた小口径砲では何も出来なかったそうだ。ただ・・・・榴弾砲の水平射で幾つか倒したとも言っていたな。」

「そ、そうだったのですか・・・・・。」

「あれも同様ですか?」

ハンニバルさんはA-MICVの横に置いてある車両を指してそう言った。

「ああ、それは20式軽装甲戦闘車 ”ナイトライダー”。車体はストライカーをベースに一部改良を施してある、砲塔は無人操作式で武装にYMG151V-18 20mm車載機関砲と同軸に12.7mm M2HBを、車体正面に7.62mm MG3を装備してる。

これは試作で作っただけのワンオフ品だ。」

「ヘール・ドクトール、あれは何です?」

「それは26式警戒偵察車”ヴォトール”、海兵隊の87式偵察警戒車を代替する為に実験試作した車両だ。

車体はブラッドレー(MICV)をベース、武装はYMG151V-18をベースに製造されたチェーンガン、19-2式 20mm車載機関砲に赤外線前方監視装置FLIRなどの偵察機器に対地対空更に低温の目標も捕捉できる新型FCSを載せてある。ただエンジンがブラッドレーと同じだから載せ換えが必要だがな。」

「そして・・・・これもですか。」

「ああ、それは陸軍さんに以前依頼されて試作した 13式多用途自走砲システム ”アンドロメダⅢ”。 大元はM109A6だが砲塔交換で容易に口径を変更出来る事ができるすぐれ物だ、更にファントムアイ・システムを使用した統制砲撃を可能にしている事だ。」

「ファントムアイ・システム?」

「ファントムアイ・システムは、アンドロメダⅢに搭載されているデータリンク結合式射撃管制システムで半径70kmの目標ターゲットを任意識別・自己判断を行い攻撃出来る様にしたシステムだ。」

「さっすが、開発部長様は作るものが違うわ。」

「茶化さないでくださいよブルーコバルト、

まあこんな感じに埒の飽かない試作機ばかりだ。そろそろ上に戻りましょうか。」

「ええ、そうね。」

「「「「「ああ。」」」」」

再び我々はエレベーターに添乗し、上の階へ戻った。


上の階へには直ぐに着き、また白いフローリングの研究所に戻った。

「ああ、忘れていた。」

「え? 何を」

「ブルーコバルトに”彼女”を紹介したい。

アリア、何処だ?」

(何でしょうか雰概開発部長?)

すると、高解像度のホログラムでメガネを掛けた少女が何処からともなく現れた。

「人が!!」「妖精かぁ!?」

横ではハンニバル、そしてワーレン大将らが驚いており動揺を隠せない様であった。

「ハンニバルさん、ワーレン大将・・・・皆さん。これも我々の技術です。

ご心配には及びません。」

「あ、ああ・・・・」「そ、そうなのか・・・デーム。」

(ふふっ、普通の人いや異次元の世界の人はそう思われるのは仕方ないと思います。だって人間ではありませんから。)

「あなたは・・・AI?」

私はその少女にそう尋ねた。

(あ、自己紹介がまだでしたわね。私は戦闘支援用人工知能AI試作型プロトタイプモデルISAI-001 ”アリア・ザ・アニヒリエイター”、よろしくブルーコバルト。)

彼女、アリアはそう言うとぺこりとお辞儀をした。頭頂部に質素なカチューシャを嵌めメガネを掛けた編み込みポニーテールの姿は印象的で髪は少々ブロンドがかっていた。

「こっちこそよろしくアリア。」

私は握手をする為に右手を差し伸べた、アリアと握手はしたものの結局の所彼女の手からは生き物から発せられる熱というものを感じることはできなかった。

(よろしくね。)

そんな握手の後、アリアはそう言い更に

(ええっと、どう呼べばいいのか・・・・・分からない。)

「アリアちゃん、私も貴方も同い年なんだしタメ口でいいわよ。」

(・・・・・・はいっ、ブルーコバルト。)

「あのぉ・・・お二方・・・。」

すると雰概がハンニバルさんらがこちらを向いていた。

(はい?)「何?」

「自分まだ昼食食ってないから食ってくる、あとはアリア。皆さんの事をよろしく頼む。」

(了解しました、開発部長。)

アリアがそう頷き言うと雰概は早足で外へと去っていった。

「そう言えばハンニバルさんやワーレン大将達のことを紹介してなかったわね。」

(ブルーコバルトの周りにいる人達の事ですね)

「ええ、本人達から言って貰った方が助かるわね。」

「そうみたいだな、私はハミルンコ・ハンニバル。旧アイギナ王国軍親衛隊 臨編300人隊隊長の指揮官をしていた、因みに最終階級は准佐だ。よろしくお嬢さん。」

(こちらこそ宜しくお願いします)

「ジャーメルライヒ帝政共和国海軍 副元帥のカイテルパウアーと後ろに控えてるのが小官の信頼する将官達だ、宜しく透けているフロイライン。」

(いえいえ、こちらこそ。)


〔30分後〕

その後というものの、私達は研究所の2階フロアで新型のハンヴィーの試作車や個人防衛武器PDWの試作品などを見せて貰い。我々は海兵隊の演習へ向かうことにした。

「今日は色々とありがとう、アリアちゃん。」

(いえいえこちらこそ、私も初めて新しい人に出会えたから楽しかった。)

「それじゃあ皆さん、演習に向かいましょうか。」

(ブルーコバルト~。)

「ん?」

(ちょっとタブレット見せて~)

アリアにそう言われ、私は普段使ってる軍用タブレットをポケットから取り出した。するとアリアちゃんのホログラムが消失し、タブレットから声がした。

(ブルーコバルト~!)

「アリアちゃん!?」

(私AIだからブルーコバルトのタブレットの中にも入れるの、データも何もいじってないしオペレーションシステムも消えてないから安心して~。ただ、私がこのタブレットの中に入ってるだけよ)

「つまり・・・。」

(OSの代わりに私がブルーコバルトのサポートが出来るわ、私の勉強にもなるしね。)

「いいじゃない、

私のタブレットの中へようこそ。アリアちゃん。」

(ええ~、何かあったら呼んでね。)

「ええ。

さて、向いましょうか皆さん。」

私はタブレットを仕舞いそう言うと小走りで研究所正面の歩哨にハンヴィーの事を任せる旨を伝え、1本の電話をかけた。

「こちらブルーコバルト、ストーキングハンター聞こえる?」

〈ストーキングハンター、感度良好。〉

「後どのぐらいで準備終わりそう?」

〈30分程度で終わりますが。〉

「了解、来賓達を連れて直ぐ其方に向かうわ。オーバー」

私はストーキングハンターとの電話を切り、今度はワスプに掛けた。

「もしもしワスプ?」

〈ブルーコバルト、そっちはどうです?〉

「まあまあって言った所ね、そっちは?」

〈そうですか、こっちは〈(どうしましたかデーム?)(いや、ちょっと総帥から電話が。)(ああ~ そうであったか、申し訳ない。)(いえいえ。)〉この通りジャーメルライヒ陸軍トップの、確か・・・・名前は・・・〈(ベルゲンスターリャ、難しいので周りはバッグスと呼んでますが)(すみません・・・。)〉バッグスさんとお話を。〉

「・・・・そう、面白そうじゃない。

そう言えば私らは副元帥閣下らに海兵隊の演習を見せに行ってくるから戻るまでの間はそっちの事よろしくね。」

〈はいはい、いつもの事でしょ。それじゃ~オーバー。 プツッ〉

連絡を終えタブレットを仕舞い、待たせてる場所へと戻った。

「皆さん待たせてすみません、さあ行きましょうか。」

そう言い我々は研究所隣接のヘリポートへと向かった。


〔数分後〕

しばらく歩くと目的のヘリポートに到着した、そのヘリポートには丁度哨戒から戻ったらしいOH-6Dの小隊、整備途上のUH-72 ラコタとMH-6 リトルバード、燃料補給中のASS-72X小隊が並んでいた。そしてM249 SAWとM3カービンを携行した警備が周りを見つつ談笑していた。

私達がゲートを越え中に入るとラコタを整備していたメカニックの一人が私に気づいたようで敬礼をし、周りも釣られた様に敬礼をしてきた。

私は少々驚きはしたが彼等に答礼をした。

そして私はこう尋ねた。

「どの機体が使えるかしら?」

「はっ、現在第25特殊飛行戦隊25USQの72Xが全機給油中ですがあと3分で終わります。」

「そう、それじゃあそれらの1機が終わったらすぐ出せるように用意させて。」

「はっ!」

すると、72Xの近くで葉巻を吸っていた男が火を揉み消し敬礼しこう言った。

「ユーレイン連邦空軍 第25特殊飛行戦隊隊長 アフオード・マジロ中尉であります。ブルーコバルト、どちらまで向われるので?」

「海兵隊の定期演習、Operation Golden Owlよ。沐奈あらな西部射爆場である、聞いてない?」

「ああ、沐奈の・・・・はっ、話には。」

「大尉! 4番機何時でも飛べます。」

「OK!」

「行きましょうか、皆さん。」

副元帥閣下らは頷くと私はロービシで4と記された72Xに乗り込んだ、大尉は素早くコパイを呼んだようで直ぐにチェックを終わらせ72XのKhVS-2630A2ガスターボファンエンジンを唸らせ空へと上がった。

「こちらアルマジロ、タワー聞こえるか?」

〈こちらタワー、何だ?〉

「沐奈へ行く。」

〈ラジャ、すぐ戻って来い。〉

「了」

そんな会話がICS越しに交わされているのを聞きつつ我々は射爆場へと向かった。


〔ユーレイン連邦海兵隊最高司令官 カーン・シュワルツコフ陸将 コールサイン: ストーキングハンター〕

〈沐奈演習場群 - 沐奈西部射爆場内司令部〉

自分はガムシロップの入ったブラックコーヒーを飲みながら目の前の窓に広がる光景を眺めていた、

プレハブ造りの司令部の外ではテントが幾つか建てられており更に仮説ヘリポートが設営され。そこにはUH-1Yイロコイ・ヴェノムやUH-60ブラックホークが駐機してありさっきからOH-1 ニンジャが射爆場を周回していた。地上では我々海兵隊の新主力戦車MBTの27式戦車や10式、90式や準主力の74式や64式改などが数十両弾薬の補給や演習前整備を受けていた。

コーヒーを飲み終え、私は司令部の外へと出た。かつて名勝地だったここの空気はとても旨くいつ来てもいい場所だ、が国民から力ずくで奪い取った場所には変わりは無い。

30年前、当時中学生だった私には分かるはずも無くその時軍に居た叔父からの話を頼りに未熟な頭で想像するしか無かった。かつて森深く国立公園に指定されていた沐奈演習場群、だが同じ頃政府内で制定された特別土地接収法により軍管轄の演習場として開発されることが決定され民間団体による猛烈な反対運動と座り込みが行われていた。

それら反対運動に対して当時の連邦軍上層部が出した決断が、制圧だった。

暴動解散や鎮圧でも逮捕でもない、存在を無かった事にするという。現在では許容できない決断だった。

制圧部隊として陸軍から1個連隊からが投入され、空軍も航空戦力や海軍からも対地攻撃用の艦船が数隻投入された。その中に叔父は制圧前衛の部隊に一兵卒として所属していた。

手始めに国立公園正面入口で座り込みを行っていた数十名を対人用に運用を変えたM26 パーシングが榴弾の一斉射で消した、その奥で消える惨劇を見ていた残りの抗議者は自前の角材などで抵抗したが同軸の7.62mm機銃や砲塔部のM2重機関銃で諸共ミンチとなった。更にバリケードや自前で用意した放水銃を搭載した違法改造車で抵抗する者も居たが結局歩兵が携行するM1バズーカやM1A2スーパーバズーカなどで構造物ごと爆ぜた。

更に航空戦力の一つとして投入された近接航空戦力で虎の子、AH-1Sコブラが空中からM197バルカンの掃討そしてTOWで抗議者の野営地を燃やし尽くしていった。その後は歩兵を先頭にT-34/76、T-34-85やM5スチュワートなどの機甲戦力が女子供関係なく薙ぎ倒していった。そこから散り散りとなった抗議者達は国立公園全体に隠れ潜んだ、が空軍のF-4Yユーレインファントムによる山焼きや引退直前だったB-50B スーパーフォートレースによる絨毯爆撃、更に海軍が派遣した軽巡洋艦による対地艦砲射撃によりほぼ全滅。総攻撃後に行われた山狩りで残りの抗議者も全員処理された。

この日の地形を変える程の殺戮を見られたと察してか政府・軍上層部は何をトチ狂ったか付近に点在した集落や山荘を即時殲滅することを決断、まだ新鋭機だったB-52による夜間精密爆撃やF-4Yユーレインファントムの精密爆撃で国立公園の周辺住民の約98%は死滅。前後して7日間に渡ったこの殺戮は”沐奈殲滅戦”として”ユーレイン連邦軍の黒歴史”とされ報道規制やこれに関した記述すべてが検閲された。

その後、密かに存在が確認された抗議者921名の内。僅か12人は生存し、存在が抹消され連邦軍の管轄下となり生物兵器の実験材料にされたりされた、と聞いた。勿論それは眉唾物の噂程度の話だが。

そして殺戮現場となった沐奈国立公園は国営後に連邦軍管轄となり、現在沐奈演習場群として運用されているに至る。

「これはただの殺戮だ、血も涙もない殺戮だ。」

叔父は口癖のようにそう言っていた、しかしその叔父もその十数年後に南ローデシア(現ジンバブエ)で無残にも戦死してしまったのである。

更に現在ではその殲滅戦自体の存在を知っている人の数は数える程しか居なく、今は山に刻まれた爆撃痕クレーターと元あった建物の残骸が当時の面影を残しているだけである。

そんな回想に耽っていると、ヘリポートに1機のASS-72X ブラックスカルが着陸した。しかし、その特異な消炭色の塗装は直ぐに我々海兵隊の所属機ではないと分かった。

「司令官、何時でも状況開始できます。」

すると横から作戦参謀の山北・垃咽らえつ 陸将補がそう言い。

「あとブルーコバルトが参られています。」

そして続けてそう言った。

「了解した、このカップを頼む。」

私は保持していたコーヒーカップを彼に預け、ヘリポートへと向かった。

足早にヘリポートへと向かうと、すでにブルーコバルトと彼女の来賓らが外に出ていた。私は敬礼しつつこう言った。

「ようこそお越し下さいました。」

「楽にしていいわ、ストーキングハンター。 ――― いつでも開始できる?」

「はい、こちらへどうぞ。」

〔数分後 ― 旧沐奈気象観測所跡(現沐奈西部射爆場観測所)〕

暫くして私は司令部近くに停めてあったM151ジープを回し、司令部付近にある司令部付き観測壕 ―― 沐奈西部射爆場観測所に彼らを案内した。

数分もしない内に観測所に到着し、警備を担当しているそれぞれ銃剣付きの64式小銃と89式小銃を携行した海兵隊員らに略式敬礼をすると半地下式の内部へと入っていった。かつて同地に存在し殲滅戦後に解体された気象観測所、その地下構造物を転用し造設された観測所の内部は少々薄暗かったが造設された部分 ―― 大型双眼鏡や観測機器が設置された観測用防護テラスに出るとさしたる問題は消え失せた。

「さて、開始して下さい。」

ブルーコバルトにそう告げられ、私はすでに持っていた演習通信周波に設定された小型無線機を持ち、こう言った。

「こちらストーキングハンター、山北聞こえるか?」

〈こちらヤマ、ストーキングハンター。感度よろし〉

「これから Operation Golden Owl を開始する、ヤマは演習プロトコルに従い各隊の後方指揮を行え。送れ。」

〈了解、終わり。〉

するとすぐ傍に陣取っていた観測班が設置している大型無線機からヤマの声が聞こえてきた。

〈こちら司令部から演習中に参加中の全部隊へ、演習プロトコルに従い対陣地攻撃モックオペレーションを開始する。

特科のアーチャは砲撃を開始、ブラボーとチャーリーは支援砲撃を開始せよ。〉

〈ラジャー、ケベック。〉〈〈了解。〉〉

すると野戦特科のM110A2 203mm自走りゅう弾砲6両とM109A7 PIMパラディン 155mm自走りゅう弾砲6両がそれぞれ砲火を噴きながら砲撃を開始した。


ドドドドドドッドーーン ドッドッドーーン、ドッドッドッドッドーーーン


何十発の榴弾は目標の白い標的を模した造成地に着弾し爆煙を出しながら花を描いた、そして的は消えクレーターだけが残った。

次に74式改105mm自走りゅう弾砲5両と75式155mm自走りゅう弾砲5両が砲撃を始めた。


ドッドーーッダーンドッダーーン、ドドーーン ダダーーン、ドッドッドーーン


〈対陣地モックオペレーション終了、次に対装甲攻撃モックオペレーションへと移行。

アイアンビートル、ウィーゼル各隊は殺戮空間キルゾーンを血に染めろ。〉

〈司令部了〉〈アイアイ、サー〉

そうすると74式改、75式の砲撃が止み。代わりに連邦海兵隊第1戦車教導団所属の74式中戦車教導団仕様3両と第4機械化騎兵戦闘団の89式機械化歩兵戦闘車MIFV 2両、73式装甲兵員輸送車APC 3両が前に出て来、クレーターだらけとなった造成地前方500mにあるコンクリート造りの標的用構造物群の手前1500mで停止した。

すると刹那74式は粘着榴弾HESH、89式は装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSを撃ち出し始めた。


ドッドッドーーン ドッドッド、ドッドッドッ、ドッド


鋼鉄製のトーチカはチーズの様に蜂の巣、装甲標的用の4WDトラックは粉微塵に。

更に73式と74式搭載のM2重機関銃や74式 7.62mm車載機関銃。89式搭載の重MAT ―― 79式対舟艇対戦車誘導弾 ―― や両車両のガンポート備え付けの小火器から追討ちをかけるように射撃された。


ドドドッドドドドドド タタタタ、タタタタン ダダダダンダダダダダダ

バシュュューーゥ バシュュューーゥ


丁度放たれた重MATが建物丸々建材に戻した所で両隊の射撃は止んだ。

〈対陣地モックオペレーション終了、対人モックオペレーションに移行する。〉

すると89式と73式は停車位置から数百メートル先に移動し再停車した、そしてそれぞれ後部ドアが開きサプレッサーを付けた20式小銃、ガムテープで補強した64式小銃、折り畳み式銃床の89式小銃やM4カービン、更にはM249 SAWミニミを装備した海兵隊員26名が出て来て付近にある演習目標 ―― 対人訓練用高層キルハウス ―― へと走って行った。付け加えて上空からUH-1JとAH-1J、AH-64DJアパッチロングボウとAH-64Eアパッチガーディアン総勢4機が飛来し、UH-1からラペリングで新たにWz.89やMPi-AKS-74MNを携行した海兵隊員が建物の屋上に降下し兵員を下ろし終えたUH-1J、護衛をしていたAH-1J、AH-64DJとAH-64Eは任務を終え飛び去って行った。

〈こちらエコー1、建物の制圧完了。フォックスロット隊と共に離脱します。〉

〈司令部からエコー1了解。〉

暫くすると、総勢33名の海兵隊員は建物から出てくると即座に89式や73式の車内に消え、それぞれエンジンを吹き返し去っていった。

それとすれ違う様に16式機動戦闘車MCVを改造した18式多目的装輪観測車1台が建物手前2000mに展開、数人の海兵隊員が素早く野戦用目標指向レーダーを組立て建物に照射し。レーダーを分解するとまた18式へと戻っていった。

〈こちらセイバー、レーダー指向完了。目標の情報をデータリンク送信した。既に車内退避完了済み、開始されたし。〉

〈ドーベン了解。〉〈ルーゼンベープラジャー〉〈ノエルからセイバー、了解しました。〉

そんな無線が聞こえているのをよそに、私は後ろから聞こえるジェットエンジンの音に耳を注目していた。

〈Tolly Ho!! 石材に戻してやるぜぇ!!〉

「まさか・・・・。」

私はそう思い、建物の方を見てみると。胴体にそれぞれ猟犬をあしらったマークを描いた海兵隊第3航空団隷下第4特別小隊のF-4EJ改 3機がその白色の機体を急降下させ。

その刹那、投下した3つのMk.83 GBU-30 JDAM が建物に直撃しその弾頭を起爆させた。

すでに3機のF-4EJ改は消えていた。


ドドッドゴーーン ズズズーーン


建物はあっけなく崩れ落ち、土煙を上げるまで上げてそれをたびなかさせていた。

〈・・・ザーーッ、こちらセイバー。キルゾーンは石材に戻った。〉

〈ドーベンよりセイバー、誘導感謝す。〉

〈了解。〉

そんな交信が終わった後、建物手前で停車していた18式もエンジンを吹き返し後退していった。

〈ヤマより演習参加中の全部隊へ、対地航空機モックオペレーション終了。以後は各部隊各個に行え、送れ。〉

「・・・・終わったみたいね、陸将。」

「はっ。」

「まあ彼ら、にはいい参考にもなったろうし。そろそろ帰るわね、あと頑張って。」

「は・・・・はっ、了解しましたブルーコバルト。」

私は壕から立ち去る彼女らに敬礼しつつ見送った。


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〔軍事国家ユーレイン連邦 参謀 佐藤 千歳 TACネーム ティファニー〕

[ユーレイン連邦 西海岸中部 首都サガント サガント遊泳海岸(サガント統合基地から2km)]


私は横で砂浜をベッドにして眠りこけているエケテリーナとニットコールをよそに、半場沈みかけている夕日を見つめ座っていた。

「ったく、何が何やら・・・・。」

思わずぼやいてしまった、私の悪い癖だ。

だがこんな詳細もほぼ分かっていない異世界に飛ばされていては話は別だ。


”プルル、プルル、プルル・・・・・”


私が常日頃所持している軍用タブレットから着信音がし、私はそれをポケットから取り出した。

「もしもし?」

〈千歳、ごめーん。だいぶ遅れそうだわ〉

「ごめーん、じゃなくて。何処ほっつき歩いてるのよ青海。」

青海ことブルーコバルトだった。

〈ごめんごめん、今丁度セントラルに戻って来たばかりだから。今どこ?〉

「海岸よ、いつも行く。」

〈ああ~、あそこね。〉

「すぐに来れるでしょ、ブルーコバルトいや青海の事だし。」

〈りょーかい〉

私はそう告げ電話を切った。

「はぁー・・・・ったく。」

「どうしました?ティファニー」

すると横で眠りこくっていたニットコールが目をこすりながら聞いてきた。

「いや、ブルーコバルトがもうすぐ合流するっていう連絡寄越して来てね。」

「そうですか・・・。」

「まあ、演習って言ってたし。ジャーメルライヒの人達を連れてるとは言えここまで遅くなるとはね。」

「千歳ーっ。」

「って言ってたら来たわね。」

後ろを振り返って見てみると、ブルーコバルトが歩きながらこちらに近寄ってきていた。

「流石、早いわねブルーコバルト」

「ごめんごめん、ジャーメルライヒ関連で用事済ませてたら遅れちゃった。

行こっか。」

「了解」


〔ユーレイン連邦空軍 特殊救助隊パラジャンパーズ 第1特別戦術中隊STS 第1特別戦術班STT 班長兼中隊長 ベラース・”ニットコール”・クリル TACネーム: ホワイトスネーク コールサイン: ナイチンゲール1 ロメオ・アルファアクチュアル〕

「行きましょうか、ニットコール。彼女を起こしてあげて。」

ティファニーにそう言われ、私はエケテリーナさんの肩を少しゆすり、

「エケテリーナさん、起きて。そろそろ戻りますよ。」

「う・・・うん、すっかり寝てたわ・・・。」

彼女は少し目を細めこすりつつそう言い、我々はブルーコバルトがピックしてきたであろうM1151 HMMWYの方へと歩いて行った。


〔数時間後〕

〔サガント総合統合軍基地”セントラル” 陸軍ブロック ― 来賓用宿泊施設内〕

私達はブルーコバルトの粋な計らいで特別に彼女 ―― エケテリーナと共に寝泊りする事になった。

「それじゃあ何かあったら内線か電話でよろしく。」

「了解。」

ブルーコバルトはそう言い、ティファニーと共に去っていった。そして私達2人も部屋へと戻っていった。


〔ユーレイン連邦海兵隊最高司令官 カーン・シュワルツコフ陸将 コールサイン: ストーキングハンター〕

〔ユーレイン連邦海兵隊 本拠地 - キャンプ・マッカーサー - セントラルから12km西方〕

自分はOperation Golden Owl の状況報告会議が終わり、本部庁舎の建物屋上で一息付く為。私は屋上へと向かう階段を上がっていた。

アルミニウム製のドアを開け、屋上に出てみると。唯一 作戦参謀である山北・垃陸らえつ 将補が紙巻き煙草を咥えていた。

「ほほう、君も吸うのか。いや驚きだな。」

私は口に咥えていた葉巻煙草にジッポで火を付けてそう言った。

「ええ、週に1回だけ吸うんです。この職業ストレス溜まるので。」

「そうか、隣いいか?」

「どうぞ。」

彼女は振り向かずにそう言った、、私は彼女の隣に立った。

「陸将。」

「何だ?」

「これからこの国はどうなっていくのでしょうか・・・・?」

「君もそう思うか。」

「はい。」

「私もな、そう思う。突然普通の世界からこんな異世界に飛ばされて、いつ戦いが起きても可笑しくないこの状況下で私は心配でならない。」

「は・・・。」

「イラク戦争、第5次中東戦争や第2次アフガニスタン紛争の時も同じだった、私は戦いが起こる度に君達部下の事が心配でならない。」

私は夜空を見ながらそう言った。

「陸将。」

「ん?」

「世界はこんなに変貌して行ってるのに、この屋上からの景色だけは変わりませんね。」

「あ・・・ああ、光陰矢の如しと言うが。ここだけは違うな。」

「はい。」


〔ユーレイン連邦北部 - 連邦空軍 北部航空軍 レッドグリプス空軍基地AFBにて〕

〔ユーレイン連邦空軍所属 高森・健 少尉 TACネーム: クレイジーケン〕

俺はブラックコーヒー片手に食堂で福神漬を添えたハヤシライスを食べていた。

「よぉ、少尉。」

すると、食堂の戸を開け。飛行場防衛隊 隊長の室字むろじ竹広たけひろ 中尉が雪原迷彩を施した64式小銃に極地用ギリースーツというちで入って来た。

「ああ、中尉。」

「うう、豪雪の中の見回りローテは体にこたえる。」

「そりゃここはユーレイン連邦最北の空軍基地だからな。」

「さみぃや、烹炊長!なんか温かい物ん頼む。」

「分かった。」

調理場でカップヌードルを啜っていた烹炊長は手を止め、業務用冷蔵庫からウオッカを取り出した。

「やっぱ中がいいなぁ、外よりも。」

「そりゃそうだわな。」

「ほらよ、ウオッカ。」

すると烹炊長の古川・栄一中尉が片手にカップヌードルの容器を持ちウオッカの入ったカップを机に置くと、近くにあった椅子の一つに座った。

「ああ、ありがとう。」

「そんでだ、あんさん達は何してんだここで?」

「暇潰し。」「見回りを部下に引き継がせたところだ。」

「そうか、

・・・・・それにしても、ここも寂れたなぁ・・・。」

「確かに、だがここを活気に溢れさせる事はもうねぇよ。」

「それもそうだな・・・・、ここはどん底だからな。」

「・・・・・どん底か、まあ・・・・俺らは同じ物同士だからな。」

「烹炊長は何故此処に?」

俺はそう聞いてみた。

「泥酔した士官に握った寿司を吐き捨てられて乱闘になった。」

「俺は上官を誤射しちまった。」

烹炊長に続けて中尉がそう告げた。

「お前はどうなんだ?」

「自分は・・・・、復讐を遂げかけて飛ばされました。」

「・・・・。」「度胸あるな。」

「そういえば、もしまた戦争が起きたらどうします?」

「俺はまあ、何だろうな・・・・敵さんとやりあえるし。楽しみだな、こう見えて昔はこいつ64式で結構やってたからな。」

「何だろうな・・・・取り敢えずここが活気に溢れればそれで良いと思う。」

「第5次中東戦争や第3次アフガニスタン紛争みたいにか?」

「ああ。」

「あの頃はすごかったからなぁ・・・・。」

「あの時は長距離任務のせいか沢山人が居て、活気もあって。たまにスクランブルが掛かったりしたがな、良かったさ。」

「ああ。」「はい。」


〔ユーレイン沖 西20km - 重ミサイル航空母艦”クルクスニャク・ソビーノフ” 艦橋内〕

〔第3艦隊 ”クルクスニャク・ソビーノフ”空母打撃群 郡長 ワシリー・モリタ・カーティス大佐 コールサイン:ゼーガイスト〕

重ミサイル航空母艦”クルスクニャク・ソビーモフ”を基幹とした空母打撃群は当初実施予定だった公海内哨戒を繰り上げし、今回の停泊先のトレガルゴ泊地に投錨した。

とっくの昔に太陽は沈んでおり、今は月の光のみが支配する静寂の世界になっていた。

旧然としたこの元ユーゴスラビア連邦納品予定艦だったクルスクニャク・ソビーモフの艦橋にはいつもなら十人からでの人員が詰めているが、今は私含め4人のみである。

「郡長。」

すると近くに居た艦長のセル・ウンキャル少佐が声を掛けてきた。

「何?」

「一緒にコーヒーでもいかがですか?」

「良いわ、行きましょうか。」


[主艦橋テラス]

艦長に砂糖なしのブラックコーヒーを入れてもらい、艦橋ブリッジテラスに出た私達はそこで一服することにした。

「相変わらず綺麗ですね、ここから見る夜空は。」

「口説き文句のつもりか? 少佐」

「いやいや、まさか。」

「ならいいのだが。」

艦長はコーヒーカップを防御機銃として備え付けてあるM2重機関銃の一つの上に置き、そう言った。

「艦長。」

「はい?」

「また・・・・、あの第5次中東戦争の様な一大戦争が起きたら・・・・我々はどうするべきなのだろうか・・・な。」

「戦争ですか・・・・、出来るだけ合理的に物事を済ませるしか無いでしょう。」

「そうか・・・・。」

「艦長に郡長殿、こんな所で何を?」

すると、既に火が付いた紙巻きたばこを咥えながら副艦長の上正路・古坐かみこうじ・こざ 少佐が来た。

「少佐。」「これは副艦長。」

「何の話をしてるのですかな?」

「ああ・・・・、もしまた戦争が起きたらどうしようかという話だ。」

「そうですか・・・・・、ん・・・。」

上正路が見ている方向を見ると、付近に投錨停泊しているステルス駆逐艦”ヴォルチャーⅡ”から発光信号が打たれていた。

「”ナニノハナシヲシテイルカ”と・・・。」

私はタブレットを取り出し、”ヴォルチャーⅡ”の艦橋に掛けた。

「もしもし? ヴォルチャーⅡ聞こえる?」

〈見えましたか郡長?〉

タブレット越しに、”ヴォルチャーⅡ”の艦長がそう言った。

「ええ。」

〈こっちも副長と丁度一服してまして、気になりまして・・・。〉

「ええ、こっちは・・・・」


[ユーレイン連邦 西海岸中部 首都サガント サガント統合基地 陸軍ブロックにて]

〔ユーレイン連邦陸軍 最高司令官 ジョンソン・レッドフィールド元帥 TACネーム: フォックスアイン〕

深夜となり、俺は静まり返ったブロック内を散策していた。俺の様な上級指揮官が簡単に出歩くわけには行かないのだがオフィスワークの疲れを取るためにも外に活力を求めていた。

暫く歩いてるとベンチが見えたので、そこに腰掛けると一服する為マイルドセブンのパッケージを取り出し一本と取り口に咥えるとジッポで火を付けた。

「フゥ・・・・・、ん・・・?」

すると俺の後ろに人の気配がした。

「相変わらずですね、フォックスアイン司令。」

人影の方に振り向くと、安藤あんどう無作むさく 中佐がホルスターにトカレフ TT-33を挿した状態で立っていた。

「・・・・貴様か、かれこれ前のアフガニスタン紛争以来か。お前と喋るのは。」

「まだ古臭いガバメント使ってるんですか。」

「悪いな、生憎これは気に入ってるんだ。もう100年は手放すつもりはないぞ。」

「くっく・・・・司令らしいな・・・・。」

中佐はそう言いながら俺の横に腰掛けた。

「そう言うお前こそ、まだトカレフか。」

「お互い様じゃないですか、ガバメント使いさんよ。」

「ふっ・・・・それもそうか、だがな・・・・

貴様どうして軍を離れた?」

「スカウト、ですかね。」

「グレイハウンド・・・・あのフォックスにか?」

中佐の制服は従来の士官制服ではなく特殊部隊などが羽織る市街迷彩じみた制服だった。

「それは小官の一存で言及出来ません。」

彼は顔を顰めるとそう言った。

「・・・・・そうか、貴様も変わったな。」

「・・・・。」

「・・・・まあお前の事だ、フォックスやビッグボスも貴様の素質を認めるだろう。」

「・・・・・・。」

「だが、貴様が”Soldier-X”のコールサインで呼ばれる事に変わりは無い。ファントム・ゴースト幻想の幽霊

「その様なコールサインは連邦内に存在しません。」

「ふっ・・・・だろうな。」

「・・・・司令。」

「どうした。」

「もしこれから、戦争が起きたらどうします? 司令なら」

「・・・・戦争か、起こるとしたら・・・想定を組んで効率よく処理するまでだ。貴様はどうだ?」

「・・・・自分は平和の中であぶれた人間です、互角で戦える相手を探し・・・・極めるまでです。今の世の中それぐらいしかやることがありませんから。」

「・・・・そうか。」

「司令がもし本部から更迭される様な事があれば、我々グレイハウンドは司令がこちら側に渡る事を承認しています。」

「と云うと?」

「ビッグボスはあなたに多大な関心を寄せている。」

「・・・・ふっ、そうか。」

「今のは聞かなかった事に・・・。」

「・・・・・そうか。」

「はっ。」

「・・・・それだけか、・・・・その事を言う為だけにこんな時に俺を訪ねに来たか。」

「・・・・。」

「俺は行く。」

俺はそう言うと短くなったマイルドセブンを揉み消し、ベンチから立った。

「司令。」

「何だ?」

「貴方とまた話が出来て良かった、感謝します。」

「・・・・ああ、俺こそ。ゴースト」

俺はただそう言うと、去った。

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