第1章7 タイマン

〔ユーレイン連邦空軍 パラジャンパーズ 第1STS 第1STT 班長兼中隊長 ペラース・クリル TACネーム: ホワイトスネーク コールサイン: ナイチンゲール1・ロメオ・アルファアクチュアル〕

〈ユーレイン軍立フォード島病院 正面玄関〉

あれから私はエケテリーナさんを迎賓用の宿泊施設に送り届け、担当者に引き継ぎを行い。私は多くの救助者が収容された軍病院のエントランス前に居た。

「ごめんねー、待たせちゃって。」

すると1台のフォード・レンジャーが入って来て、私の前で停車すると後方ドアが開き総帥が出て来た。

「はっ、総帥 ―― 。」

「そんな固くなくても、気軽にタメ口で接して欲しいわ。」

「じゃあお構いなく、ブルーコバルト。」

「よーし、じゃあ行こうか。」

総帥は私にそう言い一緒に中へと入って行った。


〈病院内〉

病院の中では私から別れて副官のアナトール曹長の指示でここで手伝いをしていたパラジャンパーズ 第1STSの面々が疲労の為か休息を取っており、私と総帥を見るなり彼らは騒然となり各々敬礼をし始め最終的にはその場の音が消えてしまった。私がそんな彼等に答礼すると、何もなかった様に戻った。

そして病院内にはルガー ミニ14 AC-233、M203付きのM16A4 MWSやスケルトンストックのUZIで武装した歩哨がかなりの数立っていた。

「貴女、愛されてるわね。」

「えっ、ただ私のバディや仲間達に好かれてるだけだと・・・・。」

「それを愛されてる、と言うのよ。」

私は階段へと続くドアの前に立ち、総帥も同じく立った。するとそこに立っていたイングラム M10で持つ親切そうな歩哨の兵士はニコリとハニカムとドアを開けてくれた。

「ありがとう。」

総帥がそう言うと、

「はっ、・・・・・相変わらず人気ぶりは変わりないですね准尉、」

「はぁ・・・・。」

私は少し溜息を付きそう言うと、総帥と共に後にし目の前の階段を上り始めた。


階段は薄暗く、靴が鳴る音や服の擦れる音しか響かず少々不気味だったが。1階ごとに設置されている発光ダイオードLEDの蛍光灯と半球状の監視カメラがその不気味さを中和していた。

「そう言えばブルーコバルト。」

「ん、どうした?」

「何故私なんかを呼んだんですか?」

「王族を助けた本人が居れば交渉も堅苦しくならずになるかと思ってね。」

「へぇ・・・・。」


〈病院 5階 ―― 多目的エリア〉

そう話してると、王族が収容された5階へとたどり着いた。

5階は他のフロアとは違い、未だに医者ドクター看護師ナース救急救命士パラメディックが慌ただしくしていた。私達はドアの横で監視業務をしているイズマッシュ サイガ12Kを携行した歩哨に略式敬礼をし足を踏み入れた。

病院特有のアルコール臭を嗅ぎつつ、病室が並ぶ長い廊下へと着くと。近くに居た2人の男女が出て来た。彼等は連邦国家保安庁 国家保安部 秘密諜報部SIA特有の黒い制服を着ていた。

「貴方達SIAは何時も早く来るのね。」

私達を待っていたかの様に敬礼して来た彼ら ―― SIAから派遣されて来たというオペレーター、芦田あしだ修二しゅうじ 一佐と高峰・里子 三曹に総帥はそう言うと、

「それも我々SIAの仕事ですから。」

一佐がそう言い、

「何かあれば我々が対処出来るので。」

そして、三曹はヒップホルスターに入ったスプリングフィールド M1911 TRP を見せつつそう言った。

「まあいいわ、人払い宜しく。」

「はい、王族さんの病室はすぐそこの017号です。」

「はいはい了解了解・・・・・。」

総帥は呆れたようにそう返すと、一佐と三曹はすぐに姿を消した。


〔ユーレイン連邦総帥 七瀬青海 TACネーム: ブルーコバルト〕

王族が収容されているという017号病室へ准尉と共に入ると、右腕の無い茶髪碧眼の若い男性がベッドで横になっていて既に目を覚ましていた。

「貴女は・・・・あの時は助けてくれてありがとう、お嬢さん。船団を代表してお礼申し上げたい。」

「いえいえ、

それよりも貴女はブリックス公国の第3王子様何ですか?」

准尉にお礼の言葉をかけるその人に対し、准尉は直球的にそう尋ねた。

「え、ええ。しかし、何故その事をご存知で?」

「救助した冒険者の方から聞きました、そしてご紹介したい人が居ます。」

「・・・・・そちらの女性は?」

「こちらは私の上司でユーレイン連邦総帥・・・・現国家元首の七瀬青海です。」

「!!?? なんと!! 国家元首殿下でしたか、この御無礼誠に申し訳ありません。

私はブリックス公国 第3継承者のミハイル・ソム・ブリックスと申します、殿下。この国の国家元首たる者にこの軽々しい態度・・・・・どうぞご容赦を願います。」

「いえいえ、大丈夫ですよミハイル王子。」

「ミハイルで構いません、親しい人はそう呼びます。」

お互いに挨拶をし終えた所で、少しの間を置き私は本題をぶつける事にした。

「ではミハイルさん、今回私はこれからの事について・・・・一市民そして国の代表として話したいと思いここに来ました。」

「はい、それで・・・・これからとは?」

「我々ユーレイン連邦は今日の朝、突然我々が居た元の世界からこちら側の世界に転移させられました。

その為我々はこの世界で生き残る為の知識、そして何よりも他国との繋がりと情報がありません。そこで我々は調査隊を派遣することを決定していましたが、今回の件を利用し一気に進めたいと考えています。」

「・・・・・つまり我が国に部隊を派遣したいので許可を出して欲しい、と。

それを受けた時のメリットは・・・・何です?」

彼の言葉にスターターが入り、そう聞き返してきた。

「我々の妥協案としましては・・・非軍事に限りですが制限付きでの技術の供与や輸出、技術の共同開発や調査隊の一部をギルドへ登録させる予定ですので依頼して頂ければ護衛、調査、要人救助、捕獲、殲滅や討伐、そして工事など直ぐに対処致します。

将来、そちらの災害を復興支援したり、将兵の養成、そして同盟国の支援も可能になるでしょう。貴国にとっても有益になると思いますが?」

「我が国が払う代償は・・・・?」

「そうですね、貴国の南海岸西部の一部地域での開拓許可、その地域での金銀銅鉄以外の採掘権、そして他の街と街道を結んでの交易許可と取引許可。当然税は一律でお支払いするつもりです。」

「調査隊の安全は保証できませんよ?」

「覚悟の上です、我々にとっては仲間の安全は国に代えたとしても最優先です。我々に危害を与える者があれば容赦なく断罪致します。しかし、近くで苦しんでいる物が居ればそれが例え何人なんびとであったとしても救います。」

「・・・・・・ふぅ、そうですか・・・・・七海殿下。」

「はい?」

「すまないが少々私の個人的な愚痴に付き合って貰ってもいいか・・・?」

「・・・・はい。」

「我々ブリックス公国・・・・その公権はいまや形骸化しつつある。」

「・・・・・。」

「・・・・数年前、旧式化したダンジョンを再利用して開発された鉱山が人災で崩落した時、救えたはずの数百人のも公民は貴族の私腹を肥やすために死んだ・・・・・。私は救助に奔走したが結局1割も救うことが叶わなかった。」

「・・・・。」

「オリーク川がまた再び洪水を起こせば中央の農耕地帯が復旧不可能な状態に陥るのは目に見えているはずだが担当している貴族や大臣は目を瞑ったままだ。

我が公国が独立直後に巻き込まれたオリーク大洪水の時、幾百のも民を見殺しにした大臣共は未だに権力を握っているし、父上は周りの腐敗貴族が原因でほぼ実権が無いに等しい・・・・更に民達が飢えているのにあの腐った豚貴族共は!! あのクソッタレ共は・・・金を湯水の如く使っている・・・・・・

私・・・・・私はもう・・・・・もう・・・・」

そう苦しい顔で言う彼は・・・・・泣いていた。

「・・・・・。」

私も、こう・・・・言葉にならない様な気持ちになっていた。

「すまない・・・・しかしな・・・・しかしな。」

「ミハイルさん。」

「七海殿 ―― 」

何故かは分からない、しかし私は”彼”に同情できる。

そう思った私は”彼”の心 ―― いうてボロボロになっていたであろう精神 ―― を諌める為抱擁した、Dカップもある私の胸に”彼”の顔をうずませた。

”彼” ―― ミハイルさんは埋まった胸の中で少し動揺していたが、それも直ぐになくなり再び”彼”は子供の様に泣きじゃくり始めた。

「私もです。」

私の横で静かに涙を流していた准尉もそう言い、私より少し大きいその豊満な胸を”彼”の後頭部に押し付けサンドイッチのような体勢になった。


[2分後]

一体何分経ったのだろうか、私と准尉はその体勢を崩した。

ミハイルさんを見ると、彼は泣き疲れた様で少し悄気ていた。

「大丈夫ですか・・・・・ミハイルさん」「王子様大丈夫です?」

「・・・・・・すまない、

七海殿下、その条件なら・・・・大丈夫です。父上と大臣らが何を言うか分からないですが・・・・・このブリックス公国・・・・我が祖国を何卒よろしくお願い致します。」

そんな悄気た顔だったが彼は私と准尉に向かい深々と頭を下げた。

「ミハイルさん、こちらこそ我々を宜しくお願いします。」

私も返すようにそう言った。

そしてこう続けた、

「傷がある程度癒えるまでここで安静なさってて下さい、現在ミハイルさんの右腕を再生していますので後・・・・1ヶ月半もあれば元通りになるかと。」

「本当ですか!! 私の腕が・・・・

何から何まで有難うございます。」

「いえいえ、ただ私達は人助けが好きなだけですから。

帰国の際に私の部下を4人程、護衛兼連絡役として同道させますが宜しいでしょうか?」

「ええ、実際に居た方が現実味があって楽でしょう・・・・お願いします。」

そう言うと彼は左手を出して来た。

「こちらこそ、帰国の際にはちょっとしたお土産もお渡しいたします。」

これからの方針も決まり、准尉と共に彼の病室を後にした。

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