プロローグⅢ - 隠密作戦

〔スイース大陸 某森林地帯にて〕


私、七瀬青海とその部下達約20名は、とある山奥の洞穴に潜伏していた。冒険者ギルトと某国政府双方からの”依頼”を受けた為である。

冷えた風が洞穴に吹き、月と雲がかくれんぼをしている中。我々は作戦開始時刻を待っていた。

我々は空を眺めてはいない、ただ緑がかった暗視装置ごしに写る濃い森林とひたすら続く森林地帯、そして丁度我々の前方に目視できる小道しか視認してない。

丁度私が使っている軍用G-ショックが作戦開始時刻ETS15分前に差し掛かった時、仲間から無線が入った。


〈こちらボンバーマンよりブルーコバルト、ゾーン内のトラップ設置完了。〉

「ブルーコバルト了解した、指定退避位置に移動し命令を待て。送れ。」

〈ボンバーマン了解、ブレイク。〉


交信が終了し、私は一度暗視装置を外し目視で周りを見てみた。洞穴の後方部では、最近創設されたばかりのユーレイン連邦ミサイル軍から派遣された小隊がAGM-65 マーベリックを直射用発射機に載せていて、4人がマーベリックに、残りの3人がBGM-71 TOW対戦車ミサイルの発射筒の最終チェックをしていた。横を見ると、私の愉快な仲間が自らのトレードマークを動かしたり、愛銃を弄ったりしていた。

時間は今、作戦開始時刻10分前にさしかかろうとしていた。

すると再び無線が入った。


〈こちらウォッチャー1、目標ターゲットを視認距離から確認マーク。〉

〈こちらウォッチャー2、こちらでも確認、歩兵20、騎兵10に馬車3。〉


私はすぐさま暗視装置を戻した。

「ブルーコバルトよりオール・ウォッチャー、全目標をアルファとする。送れ。」

《了解。》


画面が緑がかったアクティブ方式ノクトビジョンからパッシブ方式に切り替わり、赤い33個のプロットが映し出された。

「こちらブルーコバルト、オール・ウォッチャーはボンバーマンと合流し指示を待て」

《了解。》〈ボンバーマン了解、ブレイク。〉

「こちらブルーコバルトよりアテナ、聞こえるか。」

そして私は上空で作戦管制を行っている母さんもといAWACSを呼んだ。

〈こちらアテナ、言われなくても聞こえている。目標ターゲットは現在貴官らの手前1.5kmでゆっくり移動している、トラップには5分弱でかかるだろう。〉

「ブルーコバルト了解。」

無線交信を終え、私は隊内無線に切り替えこう話し始めた。


「こちらブルーコバルト、諸君らも聞いての通りもうすぐ作戦開始時刻となる。今回の目標ターゲットは歩兵20、騎兵10に馬車が3台だ、低速で移動しているが装甲化されている。我々歩兵の手では負い切れないのでまず最初にクレイモアを使い、その後に我々が残敵を掃討し最後はミサイルで締めて回収地点で回収を待つ。

以上だ、質問は?」


誰も質問はない様だ。


「ないようだな、各員気を引き締めてかかれっ! いいな?」

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈了解!!〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉


時間は今、作戦開始時刻4分前になろうとしていた。


そんなことも気付かずに鎧甲よろいを身に付けた武者達は武器弾薬等を搭載した馬車3台を囲む様に移動している、馬車には申し訳程度の鉄板装甲が施されており。何とも言えないただの錻力ブリキ缶と化していた。

その上には奴隷が馬の手縄を持っており、足には足枷が付けられていた。武者達は何を考えているのだろう、国の為、または家族の為か。

奴隷達はただ死に怯えているのか、もうすぐそれが現実となり武者達にとっては思い掛け無い終わりになるにも関わらず彼らは死という終わりに向かって突き進んでいる。

ただ他人が介入しているのは除いて。現地人にとっては地獄であり、我々ユーレイン軍にとってはただの一任務には変わりはない。


2分前となり、私は隊内無線を入れた。


「こちらブルーコバルトより全隊員へ告ぐ、戦闘に際し消音器サプレッサーを使用。そして、弾種を徹甲弾APに変更する・・・全員何時いつでも撃てるように。」

それぞれ自分達の銃にマガジンが差し込まれ、サプレッサーが取り付けられた。

私は愛銃の一つであるFN SCAR-Hにマガジンを差し込み、チャージングハンドルを引いて初弾を装填した。


そして私は再び命令を待っているボンバーマンに無線を入れた。

「こちらブルーコバルトよりボンバーマン、聞こえるか。」

〈ボンバーマン、感度良好。〉

「いつでも起爆可能か?」

〈はっ。〉

私はゾーンにさしかかっている33個のプロットマーカーを目で追い、緑で塗りつぶされたゾーンに全てのプロットが侵入した時。

「今だ、殺れ。」

そう命令した。


ドゥーーーーーン

ゥーーーーーーン


直後、刹那な時間が過ぎ去った後。ゾーンに設置されたトラップ ―― 米国製 M18A1対人地雷20基が派手という言葉通りに私の腹に響く爆音を発しながら爆発した。

両刃剣クレイモアという名が冠せられている対人地雷は、1基あたり700個の鉄球が内蔵されている自らの所定の効力をいかんなく発揮し、文字通り地獄の華となった。

馬車の横を警備していた騎兵10は爆発に気づく事もなく挽き肉ミンチになり、馬や人間の肉塊が鉄スクラップと共に爆風で吹き飛ばされ馬車や随伴歩兵達に吹き付けられた。そして、鉄球は何人かをあの世に送り。また、馬に散弾の様に襲いかかり馬の足が木の枝の様にポキポキ折れ、文字通り木っ端微塵に帰した。

しかしながら、馬車内に居た奴隷や大部分の歩兵達が辛うじて生き残った。

だがしかし、それが死への序章だどとは彼らは思わなかった。


彼ら武者達が抜剣している中、私達は大量の徹甲弾APをその減音化された銃声と共に撃ち込んだ。

まず、私は7.62 x 51mm NATO弾を未だ晴れていない粉塵の中でさまよっている一人の兵士 ―― もとい武者に撃ち込んだ。


ププ、プププ


剣を持ち怯えていたその武者は、私が撃った数発のタングステン弾を頭部に受け即死した。彼の剣には、彼の返り血が飛び散っていた。

次に3台目の馬車に張り付き、”中身”を取り出そうとしていた老武者に狙いを付けて撃った。


プ、プ


タングステン弾はまっすぐ老武者の胸と顎に直撃し、その衝撃で小道に落ちてしまった。甲冑を貫通した2発はひどい銃創を残し地上にめりこんだ、そしてその老武者はその痛みにもがき二度と立つこともなく己の血で窒息死した。

2分も経たぬ内に掃討は終わり、それぞれの馬車を誘導していた奴隷3人を除き全滅した。小道には馬と人間の血が入り交じり、鉄球や各種の金属片が散乱していた。馬車には武者達の返り血がこびり付き、辺りには屍となった武者達が転がっていて。

1人は上半身・下半身が真っ二つになっていて、またもう1人は、両足を持って行かれていた。まさに、文字通りの地獄であった。


だがしかし、我々が居る洞穴は全く逆で。大量の各種空薬莢が散乱し、それらが入っていたマガジンが空っぽな中身を覗かせながら置かれたいた。

また、さっきまで迫力のない銃声が木霊こだましていた洞穴内も今は風音しか聞こえていない。


すると、再びウォッチャー1と2の両名から無線が入った。

〈ブルーコバルト、こちらウォッチャー1。馬車の座席下にうずくまる人間らしき反応。数は3〉

〈こちらウォッチャー2、こちらでも確認。〉

「了解した。」

私は画面をパッシブ方式からアクティブ方式に戻して、警戒しながら立つ奴隷達を見つめながらこう続けて言った。

「撃つな、救助する。」

また私の隣に居た狙撃手スナイパーのデランダル・デュ・トルペグ伍長に視線を移してこう告げた。

「伍長、頼む。」

伍長は何も言わず、ただ頷くと得物のH&K MSGー90A1 スナイパーライフルを構え直し何発か撃った。


プ プ プ


彼が放った7.62 x 51mm NATO弾は500m先に居た奴隷に付いていた足枷の金具に当たり、その奴隷は解放された。他の2人も同様に解放され、私はその様子を画面越しに見つつウォッチャー1と2にこう指示した。

「ブルーコバルトよりオール・ウォッチャー、奴隷の救助と手当を行い合流せよ。」

〈〈了解。〉〉

無線を切り撤収しようとした時、AWACSから無線が入った。

〈ブルーコバルト、こちらアテナ。衛星からも偵察機からも確認したわ、成功ね・・・ご苦労さん。〉

「ええ、母さん。オーバー」

そして、私は交信を終えこう全員に言った。

「作戦は成功、撤収するわ。」

すると我々は各自で洞穴の中の片付けを始めた。一方、小道の方ではウォッチャー1と2、さらにボンバーマンが加わり解放された奴隷3人の手当をしていた。

私は洞穴の奥で射撃管制装置FCS設定セットアップをしていたミサイル小隊長に声を掛けた。

「いつでも使えます?」

「はっ、いつでも。」

「分かった、終わったら君達もよろしくね。」

「はっ。」

少しして、全員の撤収準備が出来き。我々は周りを警戒しながら洞穴があった山を下り始めた。周りは大自然に囲まれ、所々大木や巨石が見受けられた。

回収ポイントの草原 ―― テニスコート2枚分の開けた場所に到着した。

そこには既に回収ピックアップ用のヘリコプター ―― もといボーイング・バートルCH-47D チヌークと、随伴護衛用のヒューズ AH-64D アパッチ・ロングボウ2機が着陸しとり我々を待っていた。

別名 アロー・26と呼ばれるこの空飛ぶ軍艦ガンシップは、顎にアリアンテック・システムズ 30mm M230A1 チェーンガンを持ち、左右のスタブウィングには AGM-114 ヘルファイア 対地ミサイルや M200 70mm ハイドラ・ロケット弾ポッド、TOW対戦車ミサイルの4連装ランチャーなどを搭載し、命令とマーカーさえあればどこでも攻撃できるすぐれ物である。

我々はチヌークの機内に搭乗し、我々はそれぞれ近くにあった座席シートに座った。

しばらくするとチヌークはエンジンを入れ、ローターを回転させ闇夜の空へと飛び立った。アパッチも同じ様に空へと飛び出した。

しかしながら、こんな空にも月が輝くものなんだな。そう思いつつ、私はヘルメットで押し付けられた自慢のブロンドの髪を解き放った。

「ふーっ・・・。」

背伸びをしてそう独り言を呟いた私に、横でその様子を見ていた軽機関銃手の松井・涼曹長が

「ブルーコバルト。」

と言った。

「ん?」

「あ、いえ。」

「ふーん、そう。」

彼がいつもの優しい顔でそう言うのに、私は笑顔でそう言い返した。

だが、ここである事を思い出した。

「小隊長、マーベリックとTOWは?」

マーベリックとTOWである。

「やっと思い出しましたか・・・いつでも射撃可能です、ブルーコバルト。」

小隊長はやっとか、という顔でそう答え。ポケットをまさぐり、アナログ式のリモコンを取り出してどこからか取り出したタブレットと接続した。

目標ターゲットロック後に撃て、間隔は任せる。」

そう言うと、私は目を閉じた。

数秒し、小隊長はリモコンのスイッチを押し発射軌のマーベリックが発射された。マーベリックは誘導されつつ1台目の馬車側面で爆発しその馬車を廃材に帰した、そしてその次に同じく発射筒に装填されたBGM-71 TOW が発射され有線式誘導で2台目と3台目の馬車の間に入り込み爆発を起こし。さらに馬車内に載せられた油樽が誘爆し、周りで大爆発を生じさせた。

私は目を開き、そんな音で聞きながら担架の上で就寝している奴隷3人を見つめつつ、なぜこんな生活を送るようになってしまったのか思案していた。

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