第13話 誰も集まれとは言ってない
朝霧結衣は、その日こそ平和に過ごせると思っていた。
なぜなら――
放課後、用事がない。
バイトもない。
誰とも約束していない。
これはもう、勝ち確である。
「今日は何も起きない」
自分に言い聞かせながら、結衣は学校の最寄り駅へ向かって歩いていた。
……その途中までは。
「結衣!」
聞き慣れた声が背後から飛んでくる。
「……はい、来た」
振り返ると、白石結菜が全力で手を振っていた。
「一緒に帰ろ!」
「用事なかったっけ?」
「ない!」
即答だった。
「……その即答、ちょっと怖い」
「えー? 嬉しくない?」
「嬉しい以前に、予感がする」
悪い予感が。
「結衣、帰り?」
今度は横から声。
「……はい、来た二人目」
神崎玲が立っていた。
落ち着いた様子で、いつも通り距離感が絶妙に近い。
「今日は一人で帰る予定だった?」
「予定では、そうでした」
「じゃあ一緒だね」
予定を尊重する気配はない。
「……なんで皆、同じタイミングで現れるんですか」
「偶然」
玲が言う。
「必然!」
結菜が言う。
どっちも信用できない。
「結衣ちゃん」
今度は、聞き覚えのある軽い声。
「……三人目、確定」
月城碧が、駅前の自販機の横に立っていた。
今日も余裕の笑顔だ。
「奇遇だね」
「奇遇って、同じ日に三回目ですよ」
「運命じゃない?」
「やめてください」
「結衣、誰?」
結菜が警戒心を隠さない。
「卒業生」
碧が先に答える。
「からかい担当」
「自己紹介雑すぎません?」
「事実でしょ?」
否定できないのが悔しい。
「……今日は帰るだけなんです」
結衣は念押しする。
「特別なことはしません」
「うん」
玲が頷く。
「する気ない」
碧も言う。
「一緒に帰るだけ!」
結菜が元気よく締めた。
……全員、言ってることは同じなのに信用できない。
改札前。
「どの電車?」
玲が聞く。
「同じ!」
結菜が即答。
「私も」
碧が手を挙げる。
「……示し合わせました?」
「してない」
三人同時だった。
ホームで電車を待つ間、妙に視線を感じる。
「ねえ結衣」
結菜が小声で言う。
「最近、誰と一番話してる?」
「ここでその話します?」
「今だから」
「今だから危険なんです」
「結衣はね」
碧が割って入る。
「放っておくと全員に気遣うタイプ」
「分析やめてください」
「でもさ」
碧は楽しそうに言う。
「こうやって集まるのも、結衣のせいだよ?」
「私、何もしてません!」
「してる」
玲が静かに言った。
「存在」
「一番反論しづらいやつやめてください!」
電車が来て、全員で乗り込む。
座席は空いていない。
立っているだけなのに、なぜか落ち着かない。
「結衣、疲れてない?」
玲が聞く。
「……少し」
「じゃあ今日は早く帰ろ」
「それ賛成!」
結菜が頷く。
「えー、もう少しからかいたい」
碧が言う。
「却下で」
三人の視線が一斉に結衣に向く。
「……決定権、私なんですか」
「もちろん」
全員即答。
「……じゃあ」
結衣は深呼吸する。
「今日は、全員解散です」
一瞬の沈黙。
「了解」
玲が一番に頷いた。
「はーい」
碧もあっさり。
「えー……」
結菜だけが不満そうだ。
「でも明日は一緒にいよ!」
「……検討します」
電車を降りて、それぞれ別方向へ。
ようやく一人になった結衣は、思わず空を見上げた。
「……誰も引かないって、こういうことか」
でも、不思議と嫌じゃない。
騒がしくて、落ち着かなくて、
ツッコミが追いつかないけど。
「ラブコメとしては、正解なのかもしれない」
そう結論づけてしまった自分が、一番問題な気がした。
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