25、ちょっとした変化ではない
複数ジョブを持っていることについては運営に報告する必要があったんだな……と、うっすら考えていると天使な運営さんがペコリと頭を下げた。
「すみません。そこまで落ち込まれるとは……複数ジョブについての分析は近々公開するいう発表をしますので、騒ぎが収束するまで少々お時間をいただきますとお伝えしたかったのです」
「ああ、そういうことでしたか」
なんか落ち込んで損した。
でも、ポメ太郎のことといい、うちの庭にダンジョンの入り口があることといい、俺のまわりはイレギュラーなことが多い。
自分が持っている情報の公開には気をつけないとダメだよな。特に今回のようなレイド戦……大勢の人たちと一緒に行動するなら特に。
無表情ではあるものの、申し訳なさそうな表情で「ご迷惑をおかけしまして……」と再び頭を下げていた
海竜討伐を終わらせたムサシ氏にも頭を下げていたのは、サーバーダウンによってリアルタイムで配信できていない時間があったのが理由みたい。
その理由については俺にも責任があるような気がする。ごめんなさい。
「構わないって。海竜討伐の参加メンバーは、全員顔見知りだからな。酒でも奢れば文句ないだろ」
「すごいですね。もしやムサシ氏は人脈オバケ……?」
メイリはやたら異世界人の知り合いが多いけど、ムサシ氏はダンジョン探索している冒険者たちに対して顔が広いもよう。
ムサシ氏の隣にいるアヤメさんを見れば、無言で首を横に振られてしまった。
「この人と一緒にしないで。私は普通だから」
「普通の人が深層に行くなんて、なかなか出来ない事ですよ」
俺のまわりには高ランクの冒険者が多いから忘れがちだけど、普通は外皮(アバター)があっても魔獣と戦うのは怖いものだ。
最初はメイリに付き添ってもらったけど、めちゃくちゃ怖かった思い出。さすがに今はもう慣れたけど、普通は怖いものなのだよ……。
さて。
討伐対象が海竜になったため、討伐後のお土産は伊勢海老ではなく海竜の鱗やら骨やら肉になった。
異世界人の冒険者チーム『啓明』は、向こうのギルドへの報告のためグリフォンに乗って先に帰って行った。海竜の素材については俺のほうで預かって、後日よろず屋に来てもらうことに。
負傷者は海竜と戦っている途中から意識が戻り、鍛え方が違うのかグリフォンに乗れるくらいには回復していた。異世界人ってすごいな。
そして今。
俺とメイリは早々に引き上げ、よろず屋で打ち上げをしている。
配信を切るために、レイド戦で一緒だった人たちから離れる必要があったのだ。
現在、配信環境はダウンしているとはいえ、いつ復活するかわからないからね。
「お疲れ、カイト。伊勢海老じゃなくて残念だったな」
「メイリもお疲れ。ポメ太郎はグリフォンからおやつを分けてもらったから、ご機嫌になったよ」
仲良くなったらしい、子グリフォンたちから何かの干し肉をわけてもらって、それをずっと噛んでいるポメ太郎。
ただその場所が俺の肩の上なので、耳もとで延々と咀嚼音が……かわいいから良いんだけどね。今日は活躍してくれたからヨダレも許そう。
カウンターに梅酒を出したら、そっちへ行ってしまった。俺より梅酒なんだなポメ太郎。
メイリはボトルキープしている焼酎を水割りで飲んでいて、俺はレモンを浮かべたハイボールだ。燻製したナッツと数種類のチーズをつまみに出している。
普段よろず屋では飲まないんだけど、今日は色々と疲れたから特別ってことで。
「何人か死に戻ったな……」
「ムサシ氏が参加者の名簿から、ちゃんと海竜の素材を分配してるって」
「意外とマメなんだな……」
「さすがにそれは失礼じゃない?」
俺も同じ事を思ったけど口に出していないからセーフってことで。
「そういや、もうひとつのジョブ、黒いほうは初めて見たぞ。お前の外皮(アバター)、腹筋けっこう割れてるんだな」
「どこに注目してるんだお前は」
「いつものバーテンダーみたいな服も白い陰陽師みたいなのも、ほとんど肌を露出させてないだろ? だからついそっちに目がいってなぁ」
「言っとくけど、あの露出モードは俺の趣味じゃないからな? 黒いほうはポメ太郎の式(モード)で色々と試していた時、休憩中にカレーを食べたら偶然出来たやつだし」
「食い物で変わるのか?」
「今のところカレーでしか変化してない」
「よくわからんな」
俺にもよくわからないジョブ【
ポメ太郎は、とある神の眷属。
そして、俺のもうひとつのジョブは、神に関する儀式をコントロールする立ち位置を意味している。
……たぶん。
メイリの【
特に俺のジョブはレアだからか、運営さんに直接問い合わせたところ「萬(よろず)を勘定(かんじょう)するジョブということです」なんて言われて、危うくブチ切れるところだった。大人だから我慢したけどさ。
最初の頃、自分なりに【
勘定は「他から受ける作業、先々に生じるかもしれない事態、あらかじめ見積もること」であり、萬(よろず)「すべてにおいて、どのようなことでも」対応できるというものだった。
俺のジョブでの「勘定」をどうやって使うのかは、リアルでもやっていた占い稼業で判明した。
守り石はクズ魔石を使用した占いの結果にできるもので、必要なければ作成されることはない。現に、休日の自分について占ったら何も起こらなかったし……。
ダンジョン内では常に危険にさらされている冒険者を相手にしているからか、今のところ占い後には100%の確率で守り石が作成されている。
現実逃避、終了。
「これから騒がしくなりそうだな」
「うーん、まぁ、大丈夫でしょ。ポメ太郎がいるし」
「かわいいからか?」
「違うよ」
「大丈夫だ。わかっている」
わかっていて言っているんだろうけど、メイリの場合ポメ太郎に関してはポンコツになるから油断できない。
あっ、そういえば。
「メイリ、最近ダンジョンの外で変わったことはないかって聞いただろ? お前自身に変化とかは?」
「前にも言ったが、腰痛がなくなった」
うん。確かに前にメイリが言っていた。
「それって、どれくらい変化した?」
「医者が驚くくらい。ずれていた骨が、正しい位置に戻っていた」
……おぅふ。
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