第12話

 ある夜、閉店まぎわになって、一人の老人が店にやってきた。

 私は小さな声で「うわ、来た」と口にした。


「コーヒーを一杯頼む」

「エドさん、いらっしゃい。少々お待ちくださいね。エマ、コーヒーをお願い」


 私はエマに作業を振った後、急いで店の扉に閉店の札をかけてカギを閉めた。なぜなら彼が厄介な客だから。


 彼は、一応庶民っぽい恰好をしているが、おそらく、いや明らかに上級貴族なのではないかと私が勝手に疑っている人物だ。

 それは国策なのでは? と思われる明かな厄ネタについて占ってほしいと頼んできたりするので、毎度丁寧にお断りする。が、大金を前にした私は無力。すでに何度か占いをしてしまった。


 コーヒーを静かに飲むエドさん。灰色の髪をオールバックにしていて、細身の体もあいまって執事のように見えなくもない。なんとなくコーヒーをいれる腕を審査されているような気分になってきた。

 いつもであれば、このあたりで占いの話をし始めるのだが、いまだに沈黙を保ったままだ。

 プレッシャーに耐えきれず、私は声をかけた。


「本日、占いは不要でしょうか?」

「ふむ? 特に必要ないが」


 え? 逆に怖いんだけど?

 占い抜きにして、お貴族様がこの店に来る用事ってなんだろう。

 まさか、召喚獣たちに会いにきたのか!?


「何を考えておるのか知らんが、ただコーヒーを飲むために来ることもあるわい」

「さようですか。それは嬉しいお言葉を……」

「ふむ……しかし、ここまで来たとなると、何かしら占ってもらったほうがいいかもしれんな」

「うわっ、やぶヘビ……」


 思わずトニーのもさもさ頭からパールが飛び出る場面が頭によぎった。


 エマは、先ほどから一言も喋らずに、たんたんと閉店業務を進めている。彼女も貴族のはしくれだからか、なんとなくこの人が貴族というのを察しているのかもしれない。


「そうじゃなぁ、来月、ワシの知り合いの子供が誕生日をむかえるんじゃが、贈り物に何を渡そうか悩んでおるので、それを占ってもらおうか。その子供は十七歳の男じゃ。ついでに、その子の妹にも何か送りたいと考えておる」


 おや? 今回はかなり簡単な内容だ。本当に今日はコーヒーを飲みに来ただけだったのだろう。

 私は水晶を用意し、『エドさんは知り合いの子供に何を贈ればいい?』と問いかけた。


「これは……」

「なんじゃ。何が見えた?」

「私がエドさんに何かを渡していますね」

「ふむ。ワシがアー……知り合いの子供たちに何を渡すか聞きたいんじゃが。占いが失敗することもあるのか?」

「失敗は、あります。けど、大きく外しているわけではなく、読み切れていないという感じがするんですよね。もう少し見直してみます」


 水晶の中では私がエドさんに何か小さなものを渡している。と思ったら、次はエマが見えた。水晶の中のエマはネックレスを外し、それをエドさんに渡した。


「なるほど! いや、でもそれでいのか……?」

「なんじゃい、もったいぶるんじゃのう」

「あ、すみません。占いの結果では、おそらく、この指輪を渡すのが良いと出ています。それと、エマ、申し訳ないんだけどそのネックレスもエドさんに渡してくれる?」

「えぇ! いやよ! これはアタシの……じゃなかったわね。そういえば。気に入ってたんだけどな……」


 名残惜しそうにしながら、迷い鳥達があしらわれたネックレスをエドさんに渡した。私もパールの指輪を彼に渡した。


「うーむ……ワシはこういったものにうといんじゃが、それでも美しいものだとわかるわい。これなら、でん……彼らも喜んでくれると思う」

「そうですか。これは私の友人であるカインという男が作った作品なんです。『ゴールデンカイン』という店に行っていただければ、サイズの調整なども可能かと」


 エドさんは一度持ち帰り、後日ゴールデンカインへうかがってみると言って、去っていった。



「マリー、マリー、マリー! ちょちょちょちょっと、ちょっと、ちょっと!」


 エドさんが店に来た数日後、カインが叫びながら店に飛び込んできた。慌てすぎて何を言いたいのかまるでわからない。

 マヨ、イド、リーたちもびっくりして『チョチョチョ』『チョット』『チョウチョ』などとわめきながら店中を飛び回っている。カオス。


「他のお客さんがいない時間帯だったからいいけど、迷惑だから静かにして」

「無理だって! とんでもないことになった!」

「はぁ……わかったから、とりあえずかけつけ一杯。これを飲んで」

「ありがとう。……ん。熱っ! にがっ!」


 ホットコーヒーを飲んで少し落ち着きを取り戻したカインが説明してくれた話をまとめると、彼の店にエドさんと他に数名の騎士や使用人らしき者達が来て、大量の商品を購入し、今後も直接取引をするよう頼まれたそうだ。


「意味わかんないよー。なんでいきなりボクの店に宰相様が来るわけ? なんでボクの作品が王子様の誕生日プレゼントに選ばれちゃうわけ?」

「え?」

「ん? マリーが宰相様にボクの作品を紹介してくれたんでしょ?」

「……私が知ってるのはエドさんなんだけど。サイショウ様って誰?」


 カインとエマから説明を受けて、ようやく私は、エドさんがこの国の宰相であることを理解した。やはり超ド級の厄ネタだったようである。

 しかも、エドさんの言っていた「知り合いの子供」というのはこの国の第二王子であるアーサー様だったらしく、パールの指輪はサイズ調整され、そのまま王子の手に渡ることになったらしい。

 ちなみに、マヨイドリーのネックレスは第一王女のクレア様へ渡されるとのこと。


「まぁ、なんにせよボクの店は今後も安泰だね!」

「不敬罪でしょっぴかれなければね」

「変なこと言わないでよ! 大丈夫だよね?」

「さぁ? パールの指輪は大丈夫だろうけど、マヨイドリーのネックレスは……本体の性格を知ったら返品されるんじゃ……」

「そんなぁ!」

「ふふ、冗談だって」


 今後も王家から依頼が来たりすればカインは大変な思いをするだろうけれど、影ながら応援しようと私は心に決めるのだった。



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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


「女性が主人公の作品を書いてみたいなぁ」と思って試しに書いてみただけなので、現時点で、この12話までしか書いていません。


 この後の展開は全然考えていないですし、書く予定もなかったのですが、感想などで「続きが読みたい」などというリクエストがあれば、続きを書こうかなと思います。


 では、みなさま、ありがとうございました。

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コーヒーにしますか? 占いにしますか? ~転生OLのドタバタ占いスローライフ~ 川野笹舟 @bamboo_l_boat

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