第47話 剣聖と二人で肝試しを歩きだすのに成功しました
私は食事会にいきなりジャルカが現れたからこれは謀られたかと一瞬皇太子を睨んだ。
しかし、良く考えれば、皇太子は昔からプライドは高く、きざな野郎なのは変わっていないから、私を罠に嵌めたりしないはずだ。
少なくとも私はゲームの世界の悪役令嬢ではなくて、正義の味方なんだから。
「いやいや、お嬢。お嬢みたいに好き勝手やっていたら、普通、施政者はお嬢を煙たがりますから、気をつけてくださいね」
トムは警告してくれたけれど、外聞を気にするこの皇太子はそんなことはしないはずだと私には判っていた。
私を怒らせるリスクも十二分に考えられるはずだ。
私は恨みは忘れないのだ。
ジャルカは決して私を嵌めたわけではないと言い訳していたけれど、判ったものではなかった。
まあ、金が乏しくなったのは勝手に教師の契約を切った伯爵家が悪いわけで、少しは私の責任でもあったから余り言い張るのは止めようと思ったけれど……
それでも何か、ムカつく。
本当にジャルカのせいで変態伯爵にはひどい目に合わされそうになったんだから!
そう思ってジャルカを睨みつけていたら、皇太子が「肝試しをしないか」と言ってきたのだ。
なんでそんな子供じみたことをと文句を言おうとしたら、前世の記憶が蘇った。
オレオレ詐欺チームで、一度肝試しをやったことがあるのだ。
いつも閉じ込めておくだけではストレスが貯まるからと確かセドが言い出してくれて、墓地でやったことがあるのだ。
私は何故肝試しをしなければいけないのよと文句を言いたかった。
くじで私はそのセドとペアになって最悪だと思ったのだが、今では良い思い出だ。
最もそのすぐ後に殺されたけれど……
その肝試しの時はセドは嫌味も言わずに、怖がりの私をちゃんとエスコートしてくれたのだ。
うーん、どうしようと悩んだ時に、皇太子はくじでペアを作って回ると言ってくれた。
それなら、セドと一緒に肝試しが出来る。
私の心の中の白馬の王子様と一緒に肝試しが出来るのだ。
こんな機会は二度とないかもしれない。
恥ずかしがり屋でシャイな私はセドに助けてもらった時のお礼さえもまだ言えていない。
誰が恥ずかしがり屋なんだ?
シャイなやつなんてどこにもいないだろうが!
セドが私の言葉を聞いたら即座に言いそうだったが、誰がなんと言おうと私は内気でおとなしいのだ!
「判りました。やりましょう」
私はやる気満々になったのだ。
そして、デザートのケーキの後で、肝試しの時間になった。
まずはくじ引きだ。
コリンナは1番を引いた。
ついで私はジャルカの前から棒を弾いた。
棒の先には2番と書かれていた。
その次がセドだった。
セドが棒に手を伸ばす。
私はジャルカを睨みつけたのだ。
このくじの始まる前にトイレに立ったジャルカを追いかけて絶対にセドと同じ組にするように脅したのだ。
「いや、しかし、キャロライン」
抵抗しようとしたジャルカに
「そうしたら、変態伯爵の魔封じの首輪の事は忘れてあげるわ」
私はそう言ったのだ。
ジャルカは更になにか言いたそうに私を見たが、私の強い視線に、視線を逸らせた。
私に逆らうとどうなるか判ったみたいだった。
もし今度裏切ったら今度こそ燃やしてやるんだから!
私が爆裂魔術の準備をしていると、流石にジャルカは顔を青くしていた。
私の覚悟が判ったのだろう。
セドがくじを引くと2番だった。
「げっ、キャロラインだ」
セドが嫌そうな顔をしたので、思いっきり足を踏みそうになったが、素早くセドは私から離れてくれたんだけど……
「なんでセドなの?」
私も嫌そうなふりをした。
が、心のなかではワルツを踊り出したいくらいだった。
でも、セドと二人きりってどうしたら良いの?
それわ想像すると私は少し赤くなった。
なんか、皇太子が青い顔をしているんだけど……また碌でもないことを企てていたのだろう。
セドと二人きりでどういうふうに過ごそうとそちらに頭がいって、皇太子の事を詳しく考える余裕はなかった。
次のエイブが引くと
「えっ、一番だ」
青くなっていた。
「えっ、あなたとなの?」
皇太子と一緒を期待していたのだろう。コリンナもがっかりしていた。
ナイスフォローだ、ジャルカ!
私はジャルカに笑顔で頷いたのだ。
でも、その後、エイブが青い顔で私のところに来たんだけど、伯爵令嬢となんて話したことがないと言い出したのだ。
「俺と替わってやろ……ギャッ」
余計なことをセドが言い出したので私は思いっきり足を踏んでやったのだ。
「エイブ、あなたは公爵令嬢の私といつも話しているんだから問題ないわよ」
その一言で黙らせたのだ。
「あなたも私の護衛なんだからちゃんとして」
痛がっているセドの耳元で私は囁いた。
エイブとしてはセドと替わって欲しいみたいだったが、せっかくジャルカを脅してセドとペアの肝試しにしたのだ。
私は絶対に代わりたくなかった。
「なんで俺が男のお前と一緒に肝試しをしないといけないんだ」
皇太子はアロイスと一緒になったので、怒っていた。
余計なことを企むからこういう事になるのだ。
いい気味だった。
私達は霧が出始めた湖畔に出たのだ。このまま湖畔沿いに昔の遺跡まで歩いていくのだ。
まず、人生初の伯爵令嬢のエスコートに緊張しきったエイブとコリンナが歩き出した。
そして、その10分後に私とセドが歩き出したのだ。
すたこら歩き出そうとするセドの腕を私は掴んだのだ。
「えっ」
「セド、少し歩くのが早いわ」
驚くセドに私はそう言うとセドの腕にすがりついたのだ。
その姿をきっと睨みつけている皇太子がいるのに私は気付かなかった。
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