第11話 魔女裁判で女神像が異議を唱えました
俺達『傭兵バスターズ』はそれから入念な準備をし、当日を迎えた。
聖教会の中心の大聖堂、それは公国の中心に建つ巨大な建物だった。
大聖堂を中心として放射状に道路や街並みが整備されていた。
世界に散らばる聖教会の総本山だ。
本当かどうかは定かではないが聖教会は全世界の半分の者が信者になっていると言われている世界最大の宗派だ。当然この辺りでは、貴族や平民の全てが信者だ。
その総本山の大聖堂は言い伝えによると千年前に女神様によって建立されたのだとか。
まあ眉唾物だと思われるが……
一説によると魔王を倒した、聖女が女神様の指示で作ったとも言われていた。
俺達は警戒が厳しい大聖堂の中に何とかうまく潜入すると、魔女裁判の行われる中庭に移動しようとした。
大聖堂の中に入るとその吹き抜けは広大で、俺は見慣れているからなんとも思わないが、初めて来た者はいつも圧倒されてるのだ。
案の定、中に入った途端に、俺と厄災女以外はその広さと豪華さにあっけに取られて見とれてくれた。
ホールからは辺り一面のステンドグラス群や豪華な装飾等が見え、何枚もの女神の奇跡を示した壁画も見えた。それを口を開けてみているトム等に対して
「おい、行くぞ!」
俺が言うと、
「ああ」
それぞれ、司祭とその従者に化けているダニーとトム、それにシスターに化けたエイミーは頷いたものの唖然としていた。まあ、最初はどうしてもこうなる。
でも、こんなので圧倒されていては困るのだ。
「どうしたのよ、皆? こんなの帝国の皇城に比べたら、全然大したことはないわよ」
さすが、もと公爵令嬢、言うことが違う。
「そらあ、お嬢は帝国の公爵家の令嬢だから慣れているかもしれないけど、俺たち平民ははここでも凄いんだよ」
トムが言い訳してくれたが、
「何言ってるのよ。いずれは帝国に呼ばれることもあるんだから、これっくらいで驚かないでよね」
厄災女の言葉に皆はギョッとした顔をしてるんだけど……
「とりあえず、行くぞ」
俺は案内役の司祭と一緒に歩き出した。
司祭役のダニーは見た目も司祭らしく見えたが、その従者のトムはいかにも胡散臭い親父にしか見えなかった。
まあ、少しの間の辛抱だ。何とか誤魔化してくれるだろう。キョロキョロお上りさんのように見ている連中を不審に思われないように注意しながら中庭に向かう。
「じゃあ、後はよろしくお願いします」
俺達を中庭まで案内してくれた、アシュビー司祭が手を振って離れて行った。
この五日間で、何とトムは大司教達のやり方を苦々しく思っていた若手のアシュビー司祭らに接触し、協力を取り付けたのだ。ついでに終わった後の報酬の話までしていたのには恐れ入った。
俺たちがやってきた中庭には広い舞台がありそこには大きな十字架が3つ地面に突き刺さっていた。
そして、なんとフィンズベリー司祭の家族三人が十字架に縛り付けられていたのだ。
「えっ!」
さすがの俺も唖然とした。
三人は拷問でもかけられたのか、体も服もボロボロだった。
こんなんだったらあの時に厄災女の言うことなんかを聞かずに、救いだしておけば良かった。
三人は目を瞑って、動いていなかった。
俺が思わず剣に手をかけようとして、厄災女に手を添えて止められた。
「ここまで来て、台無しにするつもりなの?」
俺はきっと厄災女を睨み付けたが、厄災女は俺ににらまれてもびくともしなかった。
「ムカついているのは私も同じよ。自分にね。大司教らがこうすると予想出来なかった。奴らは私が許さないわ。だから今は我慢して!」
俺はそこまで言われたら厄災女に頷くしかなかった。
中央に吊るされた女達を周りにいる騎士達はニヤニヤ笑いながらいやらしそうに見ていた。その大半は俺の元部下だ。
「ふん、セドも、バカだよな。大司教様に逆らって追放されるなんて」
「本当だ。平民のあいつに指揮されるのが俺は厭だったからな。ああなって清々したよ」
そう言っているのは確か伯爵家の次男だ。
「それは言えてるよな。そもそも貴族の出でもない剣聖さまなんてこの教会で生きていけるわけないのにな」
「それは言えてる。どのみちあいつは、いずれ何らかの罪をでっち上げられて追放される運命だったんだから」
「素直に俺ら貴族の配下になってくれれば良かったのに! 本当にバカだよな」
騎士達は笑いあってくれた。
「でも、本当にここにやってくるのか?」
「大司教様は来るって言ってるが、これだけ警備されてるのに来たら、飛んで火に入る夏の虫だぜ」
「まあ、バカ正直なセドリックなら来かねないけどな」
「言えてるよな。あいつはいつも罠があるのがみえみえのところでも、人質がいたら飛び込んでいくからな」
「そして、人質にナイフが突きつけられたら、止まってしまうのな」
騎士達は呆れて言っていた。
「平民の人質の命なんて、なんの価値もないのにな」
「本当のバカな奴だったぜ」
騎士達は声をあげて笑ってくれた。
俺はこいつら全員を許さないと心に誓ったのだ。
しばらくして、大司教らが入ってきた。
あの大司教の豚は尊大な態度で中央の席についてくれた。なんか、十字架の女達を見てにやにやしている。
本当に最低のゲスだ。
俺は今にも飛び出したかったが、厄災女が首を振ってくれた。
魔女裁判が始まった。
検察役の司祭が家族の罪状を次々に読み上げていく。
悪魔を信じただの、魔王を崇拝しているだの、大司教を敬っていないとかどうでも良いことだろう。
俺は剣に手が伸びそうになるのを厄災女に押さえられていた。
どれだけ喧嘩っ早いと思われているのか。
まあ、喧嘩っ早いのは事実だが……
「意義があれば声に出して反論せよ」
司祭が三人に申し渡した。
しかし、拷問でもう話す力もないのだろう。家族はピクリとも動かなかった。
「異議あり」
その時、突然、大きな声が会場中に響いたのだ。
「な、なんだ」
「どうしたんだ」
皆キョロキョロしている。
その皆の前の女神像がいきなり光り輝いたのだ。
「私はこの裁判に異議を唱える」
そして、唖然と見守る皆の前で女神像が語りだしたのだった。
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