第百十五話 連行された犯罪者

 そんな僕のことを、ヘンリーさんが手で制して話を続けました。


「ナオ君が三人に奴隷のように扱われていた苦痛は、きっと私の理解を超えるものだろう。それほど酷い扱いを受けていた。三人は、反逆罪を抜きにしても罰せられるだけのことを犯した。それでも、ナオが悪いと罪をなすりつけるのか?」

「「「うっ、そ、それは……」」」


 もはやヘンリーさんは、三人の両親を罪人だと見下していた。

 あのとても優しいヘンリーさんがここまでの態度を見せるなんて、僕はある意味衝撃的だった。

 そして、ヘンリーさんはある命令を下しました。


「王国第二王子ヘンリーが、騎士爵ナオに命ずる。六人を脅迫、恐喝、窃盗の現行犯により拘束魔法で、拘束せよ」

「はい!」


 シュイン、シュイン、シュイン、バシッ!


「「「なっ!」」」


 僕は、間髪入れずに三人の両親を拘束魔法で動けないように縛り上げました。

 更に、バンザス伯爵領兵が縄で厳重に拘束していきます。

 突然のことで、三人はなす術なくぐるぐる巻きにされていった。


「ナオ君の両親からみかじめ料としてお金を奪い取ったらしいが、それはナオ君が冒険者ギルドを通じて送金した仕送りも含まれている。だから、直ぐに被害金額の一部が算出された」

「「「なっ!」」」


 ヘンリーさんが罪状を突きつけたのに、三人の両親は何故か僕の両親を睨みつけていた。

 しかし、僕の両親も負けじと睨み返していた。

 というか、この件で僕の両親を睨むのは筋違いな気がしますよ。

 そして、この場に例の人物が運ばれることになった。


「代官を連れてこい!」

「「「はっ」」」


 バンザス伯爵が兵に命令すると、直ぐに猿轡までされた代官が担ぎ込まれてきた。

 未だにフガフガ言っているけど、表情は真っ青のままだった。

 そして、三人の両親もぐるぐる巻きの代官を見て表情が真っ青になっていた。

 そして、ヘンリーさんからバンザス伯爵にバトンタッチされた。


「ここからは、私が話そう。と言っても、お前らの方がよく分かっているはずだな。代官と結託して地元の各家から金品を奪い取り、代官は国の官僚にお前らは代官の後釜になることを画策していた。代官と親戚関係にあるから、これだけの傍若無人を働いた上に、被害をもみ消すばかりか脅迫までしていたのだろう。お前らは、近年稀に見る大悪人だな」

「「「うう……」」」


 バンザス伯爵のまるで視線で人を殺すかのような威圧に、三人の両親は必死に視線をそらしながら対抗していた。

 しかし、その姿は罪を認めているのと同じだった。

 というか、代官とあの三人の家は親戚関係だったんだ。

 だから、代官は後釜を親戚に回すとオオワル伯爵にも伝えていたんだ。


「お前らの罪は、もはや私では裁くことができない。国で裁くことになる。私の手で叩き切ることができなくて、非常に残念だ」

「「「ヒィィィ……」」」


 剣の柄に手をかけたバンザス伯爵を見て、三人の両親は自分がどんな運命を辿るのかを知ったみたいだ。

 ガクガクと震えていて、首をイヤイヤと振るっていた。

 しかし、もうこの後やることは決まっています。


「七人を、厳重な監視を付けて王都の軍の施設に護送せよ」

「「「はっ!」」」

「フガフガ!」

「いや、いやー!」

「助けて、助けて下さい!」

「許してー!」


 七人は、みっともなくもがきながらも兵によって連行されていった。

 そして、最後まで僕や両親への謝罪の言葉はなかった。

 もっとも、僕は全く期待していなかったけど。

 人数が多いし王都に近いのもあるので、自分の罪を把握するために馬車で護送するという。

 ドラちゃんも、あの七人を王都に連れて行くのは嫌だと言っています。

 応接室は一気に静かになったけど、これで終わりではありません。

 すぐさま、バンザス伯爵が次の命令を下しました。


「三家のものを拘束し、領都に護送せよ。取り調べは厳に行うように。また、家を家宅捜索して証拠品を押収するように。三家の協力者も、同様に拘束して領都へ護送せよ」

「「「はっ」」」


 これからが本番だと言わんばかりに、一気に兵が動き始めた。

 捜査には時間がかかるので、ここでようやくひと息つきました。

 ぬるくなったお茶が交換され、一口つけると全員が緊張状態から脱しました。


「はあ、本当に酷かったわ。親も親なら子も子ってのを、久々に見た気がするわ」

「あの三人の両親だと何となく想像していたけど、想像以上の酷さだったわ」

「私、あまりの酷さに爆発寸前でしたわ。代わりにお兄様が爆発していましたけど」


 女性陣もお菓子を食べながら、口々に色々な愚痴を零していた。

 とはいえ、誰もが納得できる内容だった。

 そしてシンシアさんは、お母さんに話しかけていた。


「ナオ君のお母様も、魔力が漏れておりましたわ。やはり、息子のことになると母親として思うところがありましたか?」

「ええ、息子がこれほどの仕打ちを受けていたと思うと、母親として許せませんでした。しかし、ナオが何とか踏ん張っていたので、私も何とか耐えることができましたわ」

「やはり、母は強しってことですわね」


 お母さん、水魔法の派生型のお得意の氷魔法が漏れていたのか、少しひんやりしていたんだよね。

 でも、それも和やかにしてしまうシンシアさんは流石です。

 そして、いつの間にかナンシーさんとエミリーさんも混じって、女性四人で仲良くお話していました。

 シアちゃんも参加して、共通話題の僕の話をしています。

 でも、本人の目の前で色々と話されるのはちょっと恥ずかしいですよ。

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