第百二話 復旧作業中の襲撃

 次の現場は、森の近くで地面に大きな地割れが何箇所も入っていました。

 街道全体の地盤が弱くなっている可能性もあるので、ここは念入りに治さないと。

 僕は魔力を溜めながら、地面に手をつきました。


 シュイン、シュイン、シュイン、ズゴゴゴゴ!


「何度見ても、この魔法にはびっくりしてしまう。流石は竜使いの騎士様だ、ヘンリー殿下のパーティに選ばれるだけのことはある」

「しかも、既に大魔法を使っているのにまだまだ動けるとは。軍の魔法使いとは雲泥の差だ」


 護衛をしてくれる兵も未だにびっくりしているけど、なんとか街道の地割れを修復しました。

 魔力の感覚で見えない街道の先の地割れも修復したけど、他のところでも地割れやひび割れが起きていそうです。

 すると、急に探索魔法に複数の反応がありました。


「森から複数の反応があります!」

「「なっ」」


 護衛の兵が驚いている間に、僕は魔力を溜め始めました。

 その間にも、複数の何かが僕たちのところに近づいてきました。

 兵も、剣を抜いて警戒します。


 ガサガサ。


「「「グルル……」」」


 森から姿を現したのは、なんと二十頭以上のオオカミでした。

 全頭唸り声を上げて、僕たちに敵意を向けています。

 ここで撃退しないと、僕たちばかりか背後にある領都を襲うかもしれない。

 僕は、再び地面に手をつきました。


「先制攻撃を仕掛けますので、撃ち漏らしを撃退して下さい!」

「「はっ、はい!」」


 兵も剣を構えたところで、僕は一気に魔力を解放しました。


 シュイーン、ズシャ!


「「「ギャウン!」」」

「「ななっ!」」


 僕は出来るだけ森に影響がないように、アースニードルという魔法を使いました。

 この魔法は、敵の足元から鋭いトゲを多数発生させて突き刺します。

 エリアスタンは消費魔力が大きいので、今回はこの魔法を使いました。

 完全に不意を突いた形になったので、オオカミは全頭戦闘不能になりました。

 大半が息絶えて、残りのオオカミも息絶え絶えって感じです。

 なので、兵も難なく生き残ったオオカミにトドメを刺しました。

 念のため、浄化魔法を使ってからアイテムボックスに倒したオオカミをしまいました。


「ふう、何とかなりました。もう一回探索魔法を使っても、周囲に危険な反応はありません」

「ありがとうございます。もしかしたら、地震の影響で、森の中の生態系が変わったのかもしれません」

「森の中でも、地殻変動があったのかもしれません。いずれにせよ、調査は後日となりましょう」


 色々な可能性が考えられるけど、いずれにせよ今は目の前の街道復旧に全力であたらないと。

 報告も兼ねて、一旦屋敷に戻ることになりました。


「おや? ナオ君お帰り。何かあったの?」


 屋敷に戻ると、シンシアさんが起きていていて僕を迎えてくれました。

 顔色は良いので、疲れとかは大丈夫みたいです。


「三つの街道を復旧し終えました。ただ、森の近くでオオカミの群れに襲われました」

「もしかしたら、普段起きない地震のせいで気が立っていたのかもしれないわね。ヴィッツ男爵に、その辺りも含めて報告しましょう」


 ということで、僕はシンシアさんと兵とともにヴィッツ男爵の執務室に向かいました。


 コンコン。


「どうぞ」

「「「失礼します」」」


 執務室の中から女性の声が聞こえてきたけど、部屋に入ったらヴィッツ男爵の奥様らしき人が僕たちを出迎えてくれた。

 ヴィッツ男爵は、疲れているのか顔色が良くないですね。

 シンシアさんも同じことを思ったらしく、ヴィッツ男爵に声をかけました。


「ヴィッツ男爵様、報告の前に治療いたします。万が一の事があっては大変です」


 シュイン、ぴかー!


「これはシンシア殿下、大変申し訳ない。夢中でやっていたので、気が付きませんでした」


 ヴィッツ男爵も、体が楽になったのか少し表情が柔らかくなりました。

 そして、兵が間髪入れずに報告します。


「報告します。ナオ様の魔法により、主要三街道の復旧が完了いたしました」

「なお、王都に向かう街道に接する森から多数のオオカミの襲撃がありました。こちらも、ナオ様の魔法にて撃退しております」

「えっと、まだ作業開始から一時間と少しだが、もう復旧したのか。しかし、これで他領からの応援部隊と物資も届くことになる」


 報告を聞いたヴィッツ男爵の表情が、一気に良くなりました。

 やっぱり孤立状態が解消されるのは大きいよね。

 ヴィッツ男爵は、さっそく通信用魔導具で各所に連絡を始めました。


「食料事情が良くなれば、住民の気持ちもかなり良くなるわ。ナオ君には悪いけど、他の街道の整備もお願いするわ」

「任せて下さい!」


 シンシアさんが僕に話しかけたけど、ふと何かを思いついたみたいです。

 僕に、あることを確認しました。


「ナオ君、土魔法を使って簡易的な住宅はできるかしら?」

「あっ、建物が復旧するまで住むところですね。多分できると思います」

「じゃあ、明日朝テストしてみましょう。簡易的な図面はひいておくわ」


 今はテント暮らしだし、ちゃんと住めるところができた方が良いよね。

 スラちゃんもできるかもしれないけど、きっと王都からの荷物運びで忙しいはずだから、ここは僕が頑張らないと。

 こうして気合を入れたけど、休憩した方が良いと言われて僕は応接室で休むことになりました。

 ちなみに、倒したオオカミは冒険者ギルドに卸して報酬は寄付することにしました。

 兵にあげると言ったらキチンとお給料が出るからと断られたので、こういう対応にしました。

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