第五十二話 犯人はもしかして?
コンコン。
「お祖母様、エミリーです」
「入って頂戴」
「失礼します」
ガチャ。
ここで、礼儀作法の勉強が終わったエミリーさんが部屋に入ってきました。
今日もツインテールにした髪をおろしていて、綺麗な青色のドレスを身に着けています。
表情は疲れていて、とってもヘロヘロだけど。
シアちゃんも一緒に入ってきて、エドガーちゃんのところにぴょーんと飛んでいきます。
「いやあ、またあいつにあっちゃったよ。本当にしつこくて、大嫌いなんだよね。礼儀作法の勉強なんて比にならないレベルで疲れちゃった」
あれ?
何だかエミリーさんが、かなり不機嫌な表情に変わりました。
あいつって誰だろうかなって思ったら、シャーロットさんとマリアさんには心当たりがあるみたいです。
「ハイラーン伯爵の跡取りね。昔から、事あることにエミリーに求婚しているのよ。貴族主義の考え方で、自分の勢力を伸ばす為にしかエミリーのことを考えていないのよ。私は、この婚姻には絶対に反対だわ」
「見た目は確かに美形なのだけど、もの凄く自信家で自分勝手なのよ。だから、まともな貴族令嬢はみんな避けているわ」
その男性に対するシャーロットさんとマリアさんの評価が、とんでもなくボロクソです。
エミリーさんはずばっと物事を言っちゃうけど、二人は人を悪く言うことは今までなかったよね。
侍従に対する態度や評価も、その一例だし。
「え、エミリーさんも本当に大変だったんですね」
「本当よ、もう。ナオを抱きしめて、ナオ成分を補給しないと」
エミリーさんが疲れた表情をしながら僕に抱きついてきたけど、本当に大変だったんだ。
うん?
そのハイラーン伯爵って、何歳何だろうか?
「今は二十五歳よ。三年前に初めて会った時から、ずっとアプローチをしていたのよ……」
「はあっ」って溜息をつきながらエミリーさんが僕に頬ずりしてきたけど、十五歳差の結婚自体は珍しくないんだって。
ここで、洗濯担当の侍従がエミリーさんの発言を聞いて何かを思い出したみたいです。
「あの、本当にこんなことがあったという話なのですけど、ハイラーン伯爵の嫡男様と洗濯担当の別の侍従が陰で会っているのを見たことがございます」
「「「えっ!?」」」
「あれ? あいつがどうしたの?」
侍従の発言を聞いたシャーロットさんとマリアさんは、目を大きく開くほどビックリしちゃいました。
もちろん、僕もスラちゃんもです。
エミリーさんは周囲の反応に戸惑っていたけど、マリアさんが今まで何があったかを教えたら怒気がズゴゴゴゴって上がっていきました。
「ふふふ、あいつ、前から怪しいと思っていたんだよね。お祖母様を、一瞬睨みつけるようなこともしていたし……」
「エミリー、落ち着きなさい。今は、まだ確定した情報ではないわ。憶測で動くのはやめましょう」
マリアさんは怒れるエミリーさんを何とか宥めているけど、僕的にはマリアさんもかなり怒っている気がするけど……
現に、アーサーちゃんとエドガーちゃんは、シャーロットさんのところに避難しています。
スラちゃんも、ちゃっかりとシアちゃんとともにシャーロットさんの膝の上にいます。
僕はというと、未だにエミリーさんに抱きつかれていて逃げることができません。
そして、更に部屋に入ってきた人がいました。
コンコン。
「お祖母様、ヘンリーです。それと、シンシアもいます」
「あら、みんな集合なのね。入って良いわ」
ガチャ。
部屋の中に入ってきたヘンリーさんとシンシアさんは、何故かいつも勇者パーティとして行動する騎士服とライトプレートを身にまとっていました。
二人とも何で王族らしい服じゃないのかなと思ったら、ヘンリーさんが理由を答えてくれました。
「容疑者の容疑が固まり次第、軍と協力して奴を捕まえる。お祖母様を苦しめていたこととエミリーをたぶらかそうとしていた両方で、私も相当頭にきている」
「ヘンリーはシスコンなのよ。まあ、王族は家族を大事にするから、繋がりが強いってのもあるわ」
シンシアさんが苦笑しながら補足してくれたけど、つまりはそういうことらしいです。
それに、ここまでの準備ができているとなると、ある程度の証拠を掴んだんだ。
すると、エミリーさんが急に元気になって立ち上がりました。
「私も着替えてくるわ。ふふふ、ある意味この時を待っていたのよ」
黒い笑みを浮かべながら、エミリーさんは部屋から出ていきました。
えーっと、スラちゃんはともかくとして、僕はどうすればいいんだろうか?
「ああ、ナンシーも既に騎士服に着替えているわよ。ナンシーも、ハイラーン伯爵は大っ嫌いだからね」
となると、僕も着替えないと駄目っぽそうです。
部屋の隅に移動して、アイテムボックスから着替えを出した時でした。
「せっかくだから、ナオ君の着替えを手伝ってあげてね」
「「「畏まりました」」」
シャーロットさんがにこやかに侍従に指示を出し、六人の専属侍従に加えて洗濯担当の侍従まで僕のところにやってきました。
あの、だから僕は一人で着替えができますよ。
ガシッ。
「それでは、お手伝いいたします」
「ナオ様は、大恩人でございますので」
「直ぐに終わりますので」
こうして僕は、七人の侍従に囲まれて着替えさせられました。
更には、髪の毛もセットされたりと色々なことをされちゃいました。
ううっ、ちょっと恥ずかしかったよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます