第三十四話 ざわめいている冒険者ギルド
今日は、大教会にある治療施設での治療をする依頼を受けにいきます。
昨日早く寝たから、僕とスラちゃんの魔力もバッチリ回復しています。
うーんと背伸びをしてから、スラちゃんと一緒にベッドから降りてソファーに座ります。
「もっと沢山の人を治療できるように、僕もスラちゃんも頑張らないとね」
僕とスラちゃんは一緒に魔力循環の訓練をしているけど、昨日シャーロットさんを治療して魔力が尽きちゃったのが実はちょっと悔しいんだよね。
もっと凄い魔法使いになれるように、これからも頑張らないと。
「ナオ君、体調は大丈夫?」
「怠いところはないかな?」
魔法の訓練を終えて食堂に行くと、やっぱり色々な人に体調のことを気遣われました。
特に、レガリアさんとイザベルさんはかなり心配そうな表情をしながら僕の体をペタペタと触っていました。
セードルフちゃんは、もぐもぐとパンを食べながら不思議そうに首を傾げていました。
「一晩ぐっすりと寝たら、魔力も全快しました。ご心配おかけしました」
「それだったら良いのよ。今日も治療するらしいけど、無理はしないでね」
僕のとなりに座るレガリアさんが、ホッとした表情で僕の頭を撫でていました。
どんな人が治療施設にいるか分からないから、今日も十分に気をつけないとね。
ところでナンシーさんがちょっと静かだなと思ったら、眠そうな目つきでもしゃもしゃとパンを食べていました。
周囲の話よりも、眠さの方が上回っているんだ。
そんなこんなで朝食も終わり、冒険者服に着替えてから庭で馬車を待ちます。
「ナオ、おはよう!」
「エミリーさん、おはようございます。シャーロットさんの体調はどうですか?」
「すごく元気よ。自分の足で歩く練習も始めていたわ」
エミリーさんがニコニコしながら馬車から降りてきたけど、やっぱり自分のおばあさんが元気になったのもありそうですね。
シャーロットさんも殆ど動けずにずっと寝ていた生活だったから、部屋の外に出るための訓練をするそうです。
シャーロットさんは僕の冒険者服を買ってくれると言っていたけど、馬車に乗るくらい元気になったら僕もとっても嬉しいな。
そんなことを思いながら、僕たちは冒険者ギルドに向かいました。
ガヤガヤガヤ。
「あれ? 何だか冒険者ギルド内が騒がしいですね」
「何かあったのは間違いないわね。先に受付を済ませて、他の冒険者から話を聞きましょう」
何故か冒険者ギルド内がざわざわとしていたけど、ここ数日あったあの三人が受付で騒いでいる訳でもない。
シンシアさんも良く分からないみたいだけど、僕たちはやる事をやりましょう。
受付の列に並んでいると、他の冒険者たちが僕たちの姿を見つけて次々と話しかけてきました。
「ナオ、あいつらがギルドマスターに呼び出しをくらって個室にいるぞ」
「まあ、間違いなく冒険者ライセンスの停止か剥奪だな」
「受付で冒険者カードを没収されたし、間違いないだろう」
「もう少し持つかなと思ったけど、ナオを追放してからあっという間に駄目になったな」
冒険者が口々に三人の駄目だしを言っているけど、大きな問題を起こしちゃったんだ。
他の冒険者も、うんうんと頷いていました。
でも、冒険者ライセンス停止とかって、とっても重大なことだよね。
あの三人がどんな事をやったのかなと思ったら、ナンシーさんが詳細を教えてくれました。
「まあ、ナオ君にしたこともあるし、三人が冒険者ギルドで騒いだりしたのも含まれるわ。特に、ナオ君からお金をとったりしたのは厳罰ものよ。ナオ君をパーティから追放した際に奪い取ったお金の件が、三人にトドメを刺したはずね」
「他にも沢山のお金絡みの件があるけど、どれも冒険者としてやってはいけないことだわ。その為に、冒険者登録時の冊子にも報酬関連のことは書いているし、初心者向け講習でも厳しく言っているわ」
「お金にだらしない人は、どんな仕事をしても失敗するわよ。あの三人は短気で堪え性がないし、どうせ駄目になるのは目に見えていたわ」
シンシアさんとエミリーさんも、三人への評価は辛辣でボロボロだ。
話を聞いていた冒険者たちは、ナンシーさんたちの話に激しく同意していた。
そして、ある冒険者が僕に話しかけました。
「ナオは、同じパーティのメンバーが個別に稼いだお金を奪おうとするか?」
「えっ、しないですよ。人のものを盗るのは、とっても悪い事ですし」
「そういうことだ。奴らのやっていたことを自分に置き換えた時に、良いか悪いかが良く分かるだろう」
自分ならどう思うかがとても大切だと、その冒険者は教えてくれました。
そう思うと、あの三人がやったことは逆に絶対にやっちゃいけないことです。
僕はあの三人に逆らえない立場だったからどうしようもなかったけど、パーティを離れて改めて思ったら、僕はあの三人に支配されていたんだ。
うーんと考えているうちに、僕たちの受付の番になりました。
すると、受付のお姉さんが僕に話しかけてきました。
「ナオ君、昨日の指名依頼の件で一時金が入っていますよ」
「あれ? 指名依頼って何だっけ?」
「王太后殿下を治療するという、国王陛下からの依頼になります。全ての報酬がでるのは、もう少し後になるそうです」
あっ、そうか。
シャーロットさんの治療は、陛下が指名依頼とするって言っていただけ。
それで、治療だけでなく原因追及もあるから、全容解明まで時間がかかるんだっけ。
でも、僕としてはシャーロットさんに元気になって欲しいって思ったから、スラちゃんと一緒に頑張っただけなんだよね。
するとこの話を聞いた他の冒険者が、ざわざわとし始めました。
「え、エミリー殿下、この話は本当なのか? 確か王太后殿下って、ずっと病に伏せていたはずじゃ……」
「ナオとスラちゃんが、おばあ様の事を魔力を使い切るまで頑張って治療してくれたの。おばあ様も、少し歩けるくらいまで回復したわ」
「「「おおっ!」」」
エミリーさんがスラちゃんと一緒に実演付きで話をすると、冒険者たちも喜んでいました。
シャーロットさんが病気で寝込んでいたのは王都の人なら知っているそうで、だからこそシャーロットさんが回復して良かったと思っているそうです。
それにシャーロットさんは福祉事業に積極的で、良く炊き出しとかに顔を出していたそうです。
だから、明日はシャーロットさんの代わりに王妃様やマリアさんたちが炊き出しをするんですね。
さてさて、この一時金だけどどうしようかな?
「あの、お金を半分に分けることはできますか? その、スラちゃんと一緒に治療したので……」
「ナオ君ならそう言うだろうと思いまして、最初から半分にしていますわ」
おお、準備が良いですね。
受付のお姉さんは、僕の前に半分に分けた一時金が入った革袋を二つ出しました。
ドサッ。
あの、受付のお姉さんが革袋を受付のテーブルに置いたら、かなり重そうな音がしたのは気のせいかな?
うん、革袋を少し持ってみたらとっても重かったよ。
幾ら入っているのかと思ったら、少し怖くなっちゃった。
スラちゃんとどうしようかと顔を見合わせた、その時でした。
ガチャ。
あっ、ギルドマスターと三人が入っていた個室のドアが開いて、かなり不機嫌そうなギルドマスターが出てきたよ。
そして、戸惑った表情の三人が出てきて、僕と顔を合わせた瞬間でした。
「「「テメー!」」」
突然、三人が顔を真っ赤にしながら叫びました。
更に、僕の方へ走り出そうとしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます