第二十四話 王城で起きたいきなりのドタバタ劇

 僕が王城に行く朝、いつも通りに朝の訓練をして朝食を食べたら、屋敷の中にある衣装兼化粧部屋に連れて行かれました。

 レガリアさん、イザベルさん、ナンシーさんに加えて、セードルフちゃんもついてきました。


「ナオ君は髪の毛もサラサラで、白銀の髪色と合わさって本当に綺麗だわ」

「女性として、少し羨ましいわ」


 昨年からずっと切っていなくて少し長い髪だったので、僕は侍従に髪を切りそろえられています。

 肩にかからない程度に切りそろえて貰い、昨日試着したガイルさんの小さい頃の服を着ます。

 この服は青の生地に様々な刺繍が施されていて、とっても綺麗で豪華な服です。


「うん、白銀の髪に青の服が映えていてとっても可愛いわ」

「にーに、かわいー!」


 あのイザベルさんもセードルフちゃんも、せめて可愛いじゃなくてかっこいいって言ってくれませんか?

 セードルフちゃんに抱かれているスラちゃんも、触手を叩いて拍手していました。


「私も準備できたわ」

「おー、ねーねかっこいい!」

「ふふ、セードルフちゃんありがとうね」


 ナンシーさんは、ポニーテールではなく髪を下ろしています。

 そして、髪色と同じ赤のドレスを着ていて、まさに貴族令嬢というべき姿ですね。

 でも、セードルフちゃんにとってお姉ちゃんはドレス姿でもかっこいいみたいです。

 冬で外は寒いので、きちんと上着を着てから馬車に乗り込みます。


「じゃあ、行ってくるわね」

「行ってきます」

「ええ、気をつけてね」

「いってらっしゃーい!」


 レガリアさん、イザベルさん、それにセードルフちゃんとはこの衣装兼化粧部屋でお別れです。

 僕とナンシーさんは、玄関に行って馬車に乗り込みました。


「すみません、お待たせしました」

「いやいや、大丈夫だよ。それにしても、髪を整えただけで随分と見違えたね」


 お仕事で一緒に行くランディさんが乗っている馬車に合流して、王城に出発します。

 王城はオラクル公爵家からすぐ近くなので、あっという間に到着しました。

 馬車は王城の中庭を進んでいき、とても大きな玄関の前に到着しました。

 僕は馬車から降りると、思わず上を見上げちゃいました。


「ほわー、凄い大きい! こんなにすごい建物だったんだ」

「ふふ、ナオ君はしゃいでいるわね」

「この国で一番大きな建物だからね。初めて見たものは圧倒されるだろう」


 王城は遠くからでも大きいと思っていたけど、近くで見ると本当に大きかった。

 オラクル公爵家の屋敷も大きかったけど、比べられない程大きいよ。

 そんな王城の中に入ると、更に圧倒されました。


「ふわあ、中も凄い広いです!」

「沢山の人が働いているし、部屋も沢山ある。舞踏会専用の広間もあるくらいだ」


 王城の中は煌びやかで、沢山の人と警備する兵やメイド服を着た侍従が忙しそうに働いていた。

 玄関ホールだけで、僕の実家が何個入るんだろうかという広さだった。

 僕は色々な凄さに、ただ圧倒されるばかりだった。

 でも、ランディさんとナンシーさんは慣れているのか、平然としていますね。


「じゃあ、私たちはそろそろ行くね。帰りはお父様のところに寄るわ」

「ああ、分かったよ」

「お仕事、頑張って下さい」


 僕は仕事場に向かうランディさんを見送ってから、ナンシーさんとともに王城内を進んで行きます。

 王城内はとっても広いので、ナンシーさんがいないと絶対に迷子になっちゃいそうです。

 更にどんどんと王城内を進んで行くと、とある部屋の前に着きました。

 王城の中でも、かなり奥のところですね。

 ナンシーさんは、慣れた感じで部屋のドアをノックした。


 コンコン。


「ブレア、私よ。ナンシーよ」


 ドタドタドタ。


 あれ?

 部屋の中から、とっても慌てている足音が聞こえてきたよ。

 僕とスラちゃんは思わずナンシーさんの方を見ちゃったけど、ナンシーさんもはてな状態だった。


 ガチャ。


 おお、部屋のドアが勢いよく開いたと思ったら、ヘンリーさんと同じサラサラの金髪をミディアムにした背の高くて体格の良い男性が、かなり焦った表情で現れた。

 僕もスラちゃんも、もちろんナンシーさんも慌てる男性を見て思わずキョトンとしちゃいました。

 そして、男性はナンシーさんの両肩をガシッと掴みました。

 えっ、えっ?

 一体何が起きているの?


「ナンシー、ナオという冒険者と一緒にいたらしいが、何もなかったか?」


 男性がナンシーさんの両肩を掴んだまま、必死に何かを確認していた。

 ナンシーさんも何が何だか分からないみたいだけど、もしかして男性が言っているナオって僕のことかな?


「ブレア、何かって?」

「どうもそいつは公爵家に滞在しているようだが、そいつから不埒な事はされなかったか?」

「ああ……」


 ナンシーさんも男性が何を言いたいのか理解できて、男性をジト目で見ていた。

 そしてナンシーさんは、顔を僕の方に向けて説明しだした。


「ブレア、私の横にいる子がナオ君よ」

「はっ?」


 男性も、僕の方を向いてキョトンとなっちゃった。

 挨拶しようとしたら、またもや男性が叫んでしまった。


「ナンシー、ナオは男って聞いたぞ。この子は、どう見たって女の子にしか見えない。こんな可愛い子が、男の子のはずがない!」

「「ええー!」」


 僕もナンシーさんも、男性に叫び返してしまいました。

 どうやら、完全に僕の事を女の子って思っているみたいです。

 僕は、思わずガクリとしちゃいました。


「ブレア、正座!」

「なっ、何を言って……」

「正座しなさい!」

「はい……」


 そして、ナンシーさんが怒って男性を無理やり正座させちゃいました。

 うん、何だか凄い事になっているよ。


 ガチャ。


「怒鳴り声が聞こえたが、って何だこれは?」

「うん、ちょっと何が起きているか分からないわね」


 隣の部屋から貴族服を着たヘンリーさんとドレス姿のシンシアさんが慌てて飛び出してきたけど、項垂れている僕に正座させた男性を説教しているナンシーさんの構図に混乱していました。

 そして、この状態が約五分間続きました。

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