第6話 未来って呼んで

風鈴の音で目が覚めた。


 1番最初に目に入ったのは天井だった。天井には暗くなると光る星の形をした蛍光シールが一面に貼られていた。しかし、そのシールは薄い緑色をしている、まだ昼なのか。


 確か私はカナエちゃんと電話している時に意識失って…。


 「どこだここ?」と私は辺りを見回した。白の学習机に薄ピンク色の絨毯。今流行りのぬいぐるみ。安物のプラケースに服と下着。窓には図工の時間に作ったであろう風鈴が一つ。


 私が部屋を見渡していると「目が覚めたんですか?」とか細い声が聞こえ部屋のドアが開いた。


 「か、カナエちゃん…」


 黒いスキニージーンズに紺色のTシャツを着ている。さっきはパジャマだったから着替えたのか。カナエちゃんが持つお盆の上には氷の入った麦茶が2つ用意されていた。


「か、カナエちゃん…」と私は再び彼女の名前を呼んだ。


「どうして自分に“ちゃん”付けするんですか?」


「えっ!!」


「だって貴方、未来からきた私、10年後の私なんでしょ」


こ、この子信じてる!私が10年後のカナエちゃんだって。嘘でしょ。いや自分がついた嘘だけど信じてくれてる。こ、これが10年風俗嬢やって客に嘘つき続けた成果なのか。でも、それはそれで少し悲しい。


「な、なんですか…?」とカナエちゃんは不安そうな表情で私の顔を見つめた。


「信じてくれて嬉しいなって…」


「そ、そりゃあ、こんなに顔がソックリだったら、信じるしかないじゃないですか」


「あ、顔…。」

そっちか。でも良かった。まぁ確かに… 改めてカナエちゃんの顔をしっかり見ると私とカナエちゃんは信じられないくらい顔が似ている。私の方は整形して作られた顔だけど。


 カナエちゃんは小さなテーブルに麦茶を2つ置き、ピンク色の絨毯の上に座った。



「タイムスリップって本当にあるんですね…」


「そ、そうだね。」

ヤバい。そこまでタイムスリップの設定詰めてなかった。下手なこと聞かれたらヤバい。



「安心してください。タイムスリップの仕組みを聞いたり、未来の私が何をしているのかなんて今は聞きませんから」


カナエちゃんは私の心を見透かしたように言った。


私はなんで返せば良いか分からなくなって黙り込んでしまった。


「とりあえず、お茶飲んでください。」とカナエちゃんは言って、テーブルに置いてあった麦茶のグラスを一気に飲み干した。


 私もテーブルの上に置いてあった麦茶に手を伸ばした。麦茶は歯に着色すると分かってから飲むのをやめていた。でもそんなの今となってはどうでもいい。私は麦茶を一気飲みした。



「名前、なんてお呼びすれば良いですかね?。同じ海野叶恵ですし。」


 そっか。私は今10年後の海野叶恵なのか。私はベッドから立ち上がり、カナエちゃんのことを見つめた。


「未来って呼んで。貴方は私の10年後の未来なんだし。わかりやすくて良いでしょ。」


私の源氏名だし、呼び慣れている名前。お互いウィンウィンだ。


「未来…良いね!ミライちゃん!」とカナエちゃんはキラキラした目で言った。


 カナエちゃんも立ち上がり私の両手を握った。


「ねぇ未来ちゃん!じゃあこれから私の裁判とか学校とか病気とかどうなるか…どうすれば良いか教えて!!」


「…ん…。さいばん?がっこう?びょうき?」


大きな風が吹いた。風鈴の音がチリンチリン音を立てて、最後には紙が引っかかって音を出さなくなった。


 私は幼い時から後先考えずにいつも突っ走ってしまう。


 私は彼女がこの先どんな地獄を待っているのか、対して考えずに首を突っ込んでしまった。


 そのことを嫌というほどこの先味わうことになる。


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