第3話 逮捕された教師は

仕事から帰ってきたら朝の8時半だった。夜勤は客も少ないけど、出勤する子も少ない。その分お茶を引かなくて済む。


 その日は何故かニュースをつけた。理由はよく分からない。


 いつもだったら、テレビにNetflix入れてご飯だらだら食べて化粧落として寝る。でも何故かその日はNetflixじゃなくて朝のニュースを流していた。


どっかの国で大爆発が起きたとか、田舎でババァが子供を何人轢き殺したとか、芸能人の不倫の謝罪コメントとかそういうニュースをぼーと見ていた。


 そして、それはコンビニで買ったきゅうりの胡麻和えを食べていた時だった。


『自身の生徒に手をかけた卑劣な犯行です』と喋るアナウンサー。画面の下部にはテロップで《教師の男、強制性交等の疑いで逮捕》と表示された。


 私は画面を見ながら、ヤギのようにきゅうりをもしゃもしゃと食べていた。


 アナウンサーが映っていた画面が切り替わった。写ったのは紺色ジャンパーのフードを深く被った1人の男だった。男は何人もの屈強な男に囲まれて車に乗せられていた。


 私はテレビの画面を見ながら、残り一本のきゅうりを箸で押さえ付けパックの四隅に溜まったゴマだれをしっかりと絡め口に運んだ。


 画面が切り替わり次は男が車に乗っているところだった。そこで画面は止まり、男の顔と名前が表示された。


 「ん…」と声が反射的に出た。それでも私はしっかりとキュウリを咀嚼している。


 見覚えのある顔だった。でも、テロップに表示される男の名前に全くピンとこない。私が見覚えあるということは客か。私はきゅうりを咀嚼しながら目を細め、空っぽな脳みそを回転させた。そしてキュウリを飲み込んでから大きなため息をついた。

 

 「カナエちゃんだ…」


 そうだ…コイツ1ヶ月前に来た客だ。ヤりやがったな。被害者は教え子…。間違いなくカナエちゃんだ。やっぱりあの客、本物だったんだな。


 テレビのアナウンサーが『男は同意があったと主張しています』と重たい口調で言った。


 私はあの日、男に見せられたカナエちゃんの写真を思い出した。



 綺麗な顔立ちにボブのヘアスタイル。頭に巻いてあったハチマキ。



「花が咲く前に、蕾の状態で僕がメチャメチャにしたいんだ。」



 私はテレビを消した。化粧落とすのも歯を磨くのも面倒くさい。私はベッドに入った。カーテンの隙間からキラキラした光が差し込む。レースも遮光にすれば良かったと後悔した。


 明日は15日ぶりの休みだ。しかも二連休。明日はダラダラ休んで、明後日は美容デー。


 私は目をつぶってからすぐ眠りに落ちた。





 「待ってるから」


 「は、どこで…?」


 「ここでだよ。未来ちゃん。」

 

 

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