第5話

 全身全霊でライブを楽しむ。

 余命宣告されてなりふり構わずにはっちゃけるようだった。もちろん余命宣告なんてされていない。バリバリ元気な女子大生ですが、なにか。


 あっという間に一区切りの時間となる。

 周りを気にせず楽しんだというのと、モヤモヤが解消されて心地よかった。この二つが重なったことで、憂うものはなにもなく、楽しむことに全力を注ぐことができた。全力で楽しんだからこそ、時間が経つ感覚がなかった。気付いたらもう終わり。まるでスキップボタンでも押したかのように、時間は進んでいた。


 「最後にALIVEからちょーっとだけお知らせでーす」


 きらりと輝く汗を手のひらで拭いながら、日野灯は私たちオタクに語りかける。


 「ちょっとではなく大事なことでは」


 さゆちゃんはそうツッコミを入れた。


 お知らせ。

 ふーむ。今までそんなのはなかった。動画始めます、みたいなことでさえALIVE公式アカウントでの発表であった。基本的にそこまで営業に力を注がないタイプのアイドル。ALIVE。それがお知らせをする。

 なんとなく嫌な予感がした。変な胸騒ぎがした。しかもさゆちゃん曰く大事なことらしい。大事なお知らせ。それは一体……。うーむ。

 ネガティブな思考に陥る。

 もしかしたら解散すんじゃ、という悪い方向にどんどん思考は加速していく。良くない。でも普段お知らせとかしないようなアイドルがそんなことを言い出したら悪い報告でもあるんじゃないかって思ってしまう。


 そう思ったのは私だけじゃなかったようだ。

 ずっとALIVEを応援していたオタクたちはざわざわし始める。

 その様子を見て、ALIVEの三人は顔を見合せた。なんか焦ってる。ヤバって表情をしていた。


 「悪い話じゃないから」

 「そーだよ! 悪い話じゃないから。だから落ち着いてね」


 さゆちゃんと星空未来は騒めくオタクたちを宥める。

 何だこの光景。


 でもそのおかげでざわざわした空気は一旦落ち着く。

 それを見て、ステージ上に立つ三人はほっと一息吐く。


 「それじゃあ早速……って、ブイ振りしなきゃなんだよね」

 「あかりんがんばれ」

 「いけーいけーあかりん! ふぁいおー」


 さゆちゃんと星空未来は完全に他人事である。

 どうせ面倒だからしないだけなんだろうなってのはわかるんだけど。でもこういうのはリーダーに譲るべき……という思考の元動いているようにも見えて、そう捉えたら、まぁまともだなぁと思う。


 「はぁ」


 ギロッと一瞬だけ二人のことを睨んだ日野灯だが、ALIVEの中でも随一ってくらいアイドルとしての意識が高いだけのことはある。崩した表情を直ぐに戻し、笑みを作る。

 流石だなぁと素直に思った。


 「VTR! どうぞ」


 パチンっとかっこよく指を鳴らし、箱は暗転する。

 スタッフが横から出てきて、ステージ後方に大きな単色の布を垂らす。そしてプロジェクターで映像を投影した。即興のスクリーンではあるものの、映りは悪くない。


 流れてきた映像。それはALIVEの公式チャンネルで投稿していた、カバー曲の演奏動画であった。

 もしかして、発表って公式チャンネルの宣伝とかじゃないよな。

 普通のアイドルグループならまぁありえない。数ヶ月も宣伝せずに、突如宣伝し始めるなんて無茶苦茶なこと普通はしない。普通は。まぁこのALIVEというグループに関してはその普通とやらが通用しない。演者も運営も曲者揃いだからしょうがない。むしろそれが魅力でもある。

 次に流れたのはカバー曲の練習風景。初公開映像である。

 かと思えば、また違う人気アーティストの楽曲をカバーしている。やけにカメラワークが良いのが気になる。

 公式チャンネルの宣伝にしてはあまりにも手が込んでいるし、なによりも音楽に特化し過ぎている。

 とても公式チャンネルの宣伝をここからするとは思えない。もしかしてチャンネルの方針を音楽に変えたのかな。ALIVE比ではあるものの、そこそこバズったわけだし、そっちにシフトしてもおかしくはないか。


 と、通ぶって考えながら、映像を眺める。


 BGMはクライマックスへと向かう。

 ジャンジャンジャンと写真が代わる代わるに映し出され、最後にはどかんと華々しいテロップが映し出される。


 『☆対バン決定☆』


 の文字が。


 「アイドルとしてじゃなくて、バンドマンとして、出演が決定しました。いつもとは一味も二味ももしかしたらそれ以上に違う私たちを見せられると思っています。ぜひ見に来てね」


 日野灯はそうやって締めくくる。

 想定していなかった展開に興奮で呆然としていた。


◇◇◇お知らせ◇◇◇


 次章は蛇足(番外編)です><

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