一年間悩まされたストーカーの犯人は私の推しでした
こーぼーさつき
アイドルの本性
プロローグ
「さゆちゃん! 今日も来ちゃった。いつも元気貰えるから。あ、そうだ。一昨日ね、友達とカフェでお茶してたんだけどそこのお菓子がホント美味しかったんだ。手紙に住所書いてあるから良かったら調べて行ってみてね」
手紙を渡し、推しとのお渡し会は終わりに差し掛かる。時間にして二十秒。最近は推しと喋るというよりも、推しに日常の報告をする……という感じになっている。
ニコニコして楽しそうに聞いてくれるので、ついつい喋ってしまう。
時には冗長に自分語りをしてしまう時もある。それでも彼女は嫌な顔せずに聞いてくれる。いや、うん。それが彼女にとっての仕事だってのはわかっている。わかっているが、嬉しくなってしまうのもまた事実。なんというか私ちょろ過ぎかもしれない。
私の推しも私相手なら喋らなくても良いと思っている部分があるのかもしれない。私がどうすれば喜ぶかを知っているのだ。
認知される程度には足を運んでいる自信がある。そういう信頼感があるというのは優越感に浸れて結構気持ち良い。
「じゃあ、これ。大事にしてね。また来てね」
推しは今日の本題である缶バッチを受け取った。そしてタイムリミットが来て、スタッフさんに出口へ行くよう促される。さゆちゃんは私に対して笑顔で手を振ってくれるので、私も笑顔で手を振る。
貰った推しの缶バッチを早速リュックに装着する。
お渡し会後の高揚感ったら凄い。
荒んだ心を浄化してくれるのだ。
「いやー、これだからやめられないんだよなぁ。推し活!」
ぐへへへへ、と女の子とは思えないような笑み浮かべる。
きっと周囲からは気持ち悪いと思われているのだろう。
まぁ良い。思われてナンボだ。
「さゆちゃん。また来るからね」
会場を出る時に、ぽつりと呟いて、会場を去る。
この時、私はまだ知らなかった。
今日この日から約一年間、ストーカー被害に合うことに。
◆◇◆◇◆◇
ストーカー被害を警察に相談したが、実害が出ないと動いてくれないらしい。なんとまぁ使えない。
というわけで、自分で動くことにした。
他人を頼ろうとするから上手くいかない。
罠を仕掛けることにした。
安い中古のスマートフォンを大量に購入し、家の近くの電信柱の陰にカメラをオンにした状態で置いておく。そして夜道、その道路を闊歩するのだ。
ストーカーが釣れてくれれば、きっとどこかのスマートフォンには顔が映り込むだろうというわけだ。甘い考えだと言われればたしかにそうかもしれないと認めざるを得ない。
でも現状私にできるようなことはこれくらいだ。だって私は探偵でもなければ格闘家でもない。しがない女子大生なのだから。
夜道を歩く。
終わりが見えない状態で一年間も続いたストーカー生活にやっと終わりが見える。
もう帰宅する度に恐怖しなくて良い。郵便受けを見る時に緊張しなくて良い。人の目を執拗に気にする必要もない。なにげない当たり前の日々。それがやっと戻ってくる。
駅から五分ほどの道のりを歩く。
今日も駅から視線を感じる。振り返るとそこには誰も居ない。こういう日に限って、ストーカーがやってこないってパターンだったりするんだよなぁと思っていたが、しっかりと撒いた餌に食いついてくれた。
あとはカメラに写るよう、祈るだけ。
気付けば自宅に到着していた。
ふぅと息を吐き、玄関の扉を開けた。
◆◇◆◇◆◇
翌日。
スマホを回収する。
拾ったスマホのデータを片っ端から確認していく。
動画データに犯人の顔が映っていた。
私は目を擦る。眉を顰める。
なにをしても変化はない。
映し出されている顔はまったく同じ。
「え、なんの冗談。これ」
乾いた笑いしか出てこない。
だって犯人のことを知っていたから。
「ストーカーの犯人が推し……?」
私の推しは私のストーカーでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます