革命《レボリューション》⑥:消えた村

「――建国記念日の式典?」

「ああ。俺の読みでは、パーシアスの狙いはそこだ」


 気力を取り戻したジンはアッシュの考察を静かに聞く。


「……言われてみれば絶好の機会ではあるけど……だからこそ、毎年厳戒態勢だよね」


 建国記念日のスピーチ。国王が鉄壁の王宮の外に出る数少ない行事の一つだ。

 技術が発展し遠隔で声を伝える手段が生まれてはいるが、それでも国王は国民の前に姿を現す。

 リスクは承知なのか、それとも暗殺など誰もしようと考えもしないと高をくくっているのか。

 その真意は定かではないが、騎士団総出の護衛の下、国王は王宮前広場でスピーチを行う。


「団長たちが総出で護衛に当たるんだからさ、ギリギリまで味方のふりをした方が得策なんじゃないかな」


 パーシアスの操る魔法武器は“魔盾”アイギス。あらゆる攻撃を防ぐ盾を持つ以上護衛の要所を担うに違いない。

 つまり国王の命に手をかけることが可能な立場でいれたはずだ。


「確かにその方が得策かもしれないな。が、他の団長に気取られたらお終いだ」

「……俺ならそうするけど、慎重なパーシアスなら、か」


 パーシアスは豪快な物言いに反してその実、石橋をたたいて渡る慎重な男だ。


「奴と話した限りじゃ、俺の禁忌魔法があってもまだ足りないと考えているらしい。そんな奴が自分一人の力で団長四人を蹴散らして事を成せるとは考えないだろうな」

「禁忌魔法で足りない……魔人がいて、団長がいて、魔法武器もあって、禁忌魔法もある……それでもまだ足りないって」


 建国記念日のスピーチでは国王は鉄壁の王宮の外に出る。

 極端な策を考えるなら、王宮広場を全て吹き飛ばしてしまえばいい。

 大勢の犠牲が出るが確実に国王を暗殺することができるはずだ。


「どれだけ実践投入できる魔人がいるかわからないが、少なくとも仕掛けた瞬間に陛下を王宮に避難させることになる。仕損じたら団長たちの相手をしながら逃げるのを阻止する必要がある」

「しかもことが起きれば広場は大騒ぎ。敵も味方もそう簡単に動けない、はず」


 犠牲など構わずに暴れることはできるが、物量に叶うほどの火力が出せる必要がある。

 国王のスピーチを聞こうと数万人の国民が王宮前広場に詰めかける。

 それを一掃するだけの火力を出せなくては身動きも取れないだろう。


「……でも変じゃない? そこまで勝算がないのに暗殺計画に噛もうって言うんだから」


 ジンは何か引っかかるものを感じたがどうにも言葉にすることができない。

 喉の奥に小骨が引っかかっているような、吐き出せそうで吐き出せないもどかしさ。


「俺は感じなかったが……我慢の限界って言葉もある。長年抱き続けてきた不満が、遂に爆発したってとこだろ」

「……なんで爆発したんだろうね」


 アッシュは怪訝な目をジンに向ける。


「十分だろ。長年、国のために献身してきた。国の為を思って進言しているのに全く聞き入れてくれない。むしろ今まで不満がこぼれなかった方が不思議なくらいだ」

「だとしても、きっかけはあるでしょ」


 不満の溜まったパーシアスの心は水が並々とつがれたコップのようなものだ。

 表面張力でどうにか溢れずに溜まっているだけで今にもこぼれることは間違いない。

 だが何のきっかけもなしにこぼれることはない。

 最後の一押し、不満を爆発させる“きっかけ”がきっとあるはずだ。


「きっかけ……勝算の薄い賭けに乗せるきっかけか……」


 アッシュは天を仰ぎながら頭を掻きむしり――ピタリ、とそれを止める。


「イフリートか?」

「!」


 この数か月で様々な出来事があったが、一番大きな出来事と言えばイフリートの発見だろう。

 イフリートが発見され、何も知らない一般人のジンが誤って装着し暴走。

 そしてそれを運用し『落胤』との戦いに投入しようとする一派。


「それって……俺の」

「さあな。少なくとも最後の一押しがイフリートの可能性は高いだろうが」


 ジンは自分のせいではないかと口にしようとしてアッシュに制される。

 言ってしまえば罪悪感で動けなくなる、だから何も言うな。そういう事だろう。


「イフリートの発見をきっかけに暗殺計画に相乗りしようと決心した。『落胤』も元団長の協力があるってなら歓迎する。で、元々あったのか持ちかけたのかはわからないけど、建国記念日のスピーチで事を成そうと考えている」

「どうするつもりかわからんが、俺の魔法を使えば大惨事は間違いない」


 灰燼機構アッシュギアはそもそもが無限の魔力を生み出す魔法だ。

 それを解き放つだけでも十分な脅威だろう。


「とりあえず取り戻さなきゃいけない理由はよくわかったよ。計画を阻止できるかはさておき、禁忌魔法さえ取り戻せれば被害は減らせる……で、問題はそれをどうやるか」

「奴の潜伏先は突き止めたが……恐らくもういないだろうな」


 一度見つかった場所に潜伏し続けることはありえないはずだ。


「慎重なパーシアスは絶対に見つからない場所に潜伏するはずだよね」

「……ああ。俺が見つけた時もヴェルデの外れにある廃屋で隠れてた。まず誰も来ないような場所だった。それ以上の場所となると……」


 二人は考え込んでお互いに黙り込んでしまう。

 誰からも見つかりにくく、かつ決行当日に王宮前まで移動できるような都合のいい場所。

 アッシュからの情報提供で騎士団も総出で捜索に当たるだろう。

 そうなっても見つからないような場所。


「地図には載ってない場所、とか?」

「騎士団の団長だから知ってる場所、か。だがそういう場所は真っ先に捜索されそうな気もするが」

「そうだよなぁ……」


 ジンは天を仰ぐ。

 騎士団にゆかりがなく、かつ誰も知らないような場所。

 もし場所を突き止められていない『落胤』の本拠地に身を隠していたならどうしようもない。


『――アークの村は22年前……つまりこのお方が訪れてから間もなく廃村となったのです』


 パーシアスとゆかりがありそうな場所を考えていると、ミシェルと共に情報を集めていた時のことが思い出される。


「……例えば、昔は地図に載っていたけど今は載ってない場所……とか」

「確かにあり得そうだが、そんな場所は早々ない気もするが」

「一か所だけ心当たりがあるんだ」


 ジンはアークの村をアッシュに教える。

 22年前に廃村となった、パーシアスにとっても因縁のある場所だ。


「確かに、俺らが生まれる前に廃村になった場所か……探す価値はあると思うが、場所はどこなんだ?」


 地図を頼りに探そうにも、アークの村が載っているのは20年以上前に発行された物に限るだろう。

 探索しようにもまずは場所の特定から始めなくてはならない。


「俺は知らないけど、知ってる人なら心当たりがあるんだ」




 ジンとアッシュの二人は第二騎士団の駐屯所へ向かう。

 アークの村は第二騎士団団長、アリエスの出身地である。


「……忘れた」


 アリエスは死んだ瞳のままタバコをふかしている。

 ぼーっと虚空を見つめ、視線はジンたちの方を向いていない。


「それ、本当に……?」


 目論見が外れジンは思わず頭を抱える。

 それが本当ならば万策尽きてしまう。古本屋で20年以上前の地図を探すしかなくなってしまう。

 一刻も早く捜索に向かいたいのにそれは大きなロスだ。


「…………」


 アリエスは何も答えない。

 表情もなく、何を考えているのか推察することすらできない。


「本当に覚えてない? おおよそでもいいんだ」

「…………」


 彼女は肩を掴まれるも表情は変わらない。

 何のリアクションもなく、タバコの煙を吸い込んでいる。


「頼むよ……あんただけが頼りなんだ」

「…………邪魔」


 彼女も完全に情緒を失っていることはないようで、肩を大きく揺すられて若干鬱陶しそうにつぶやく。


「ッパーシアスはアンタの故郷に潜伏してる可能性がある。忘れたで済まさないでくれよ……!」

「……」


 ピクリ、と彼女の眉が動く。

 表情は全く動いていなかったが、初めて感情が動いたように見える。


「……ジジイが、どこに居るって?」

「アンタの故郷だよ……22年前に廃村になった、アークの村」


 アリエスはジンの手を振り払うとタバコを地面に落としてもみ消す。

 そして質問に答えることなく踵を返して立ち去ろうとする。


「待って! 何か思い出したの!?」

「……別に」


 取りつく島もないアリエスだったが、彼女の退路をアッシュが断つ。


「自分でパーシアスを始末しに行くつもりか?」


 短気なアッシュはもう我慢の限界なのか、声には怒りが込められている。


「……だったら何?」


 ぶち、という音が響く。

 アッシュの堪忍袋の緒は非常に切れやすかった。

 右ストレートを繰り出すも容易く受け止められてしまう。


「ッ……!」


 細身な見た目に反し、アリエスの力は非常に強かった。

 アッシュは手首を握られて顔を顰める。


「アリエス団長。俺たちは奪われた禁忌魔法を取り戻したい。何か思い出したならそれを教えてほしい」

「…………」


 アリエスは静かにアッシュの手を放す。


「……来て」


 ジンの言葉が響いたのか、彼女は静かにつぶやいた。

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