第12話 高橋にやられてガタガタになった最大会派

こうじ @KojiT123

議会の様子を見ていて、天地と藤吉には怒りしか感じない。市民として恥ずかしい。

#備後市議会 #天地議員 #藤吉議員

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ももちゃん @MomoLove

高橋市長、応援してる!天地と藤吉の老害コンビに負けるな!

#備後市議会 #高橋市長

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たけし @Tak_Ymd

藤吉議員の「高橋市長は無能」発言には驚いた!こんな議員に市政を任せられないだろう

#備後市議会 #炎上

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ローカルジャパン @local_japan

藤吉議員、マジでヤバすぎる。議会で塩撒くとか正気の沙汰じゃない

#備後市議会 #炎上

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「ええい! ワシは塩など撒いてない! 悪いのは全て天地と総務部長だ! どうしてワシがこの様に言われねばならんのだ!」


 議会が終わり、創政フォーラムの控室。普段SNSをやらない藤吉は若い議員にスマホを借りて、話題になっているという備後市議会と自分の評判を×で見ていた。

  その時初めて、自分を名指しで非難するコメントがいくつも投稿されていたのを知った藤吉は、激怒して借りたスマホを床に叩きつけた。


「な、なにするんですか!?」

「許さん! 許さんぞ! 元をただせば何もかも、皆高橋のせいだ! あの若造! どんな手を使っても叩き潰してやる!」


 スマホを壊された若い議員は、当然藤吉に弁償を求めた。しかし、藤吉は意に介することなく、壊れたスマホを踏みつけて怒り狂い続けていた。


「キイイイ! 貴様のせいで、えらい恥をかかされたぞ!」

「も、申し訳ありません」


 鼻水を垂らして泣き叫びながら土下座する総務部長を、天地が怒鳴りつける。


「助けてください、このままじゃ私のキャリアが終わってしまいます」

「うるさい! 貴様のせいで創政フォーラムは大きなダメージを受けたのだ! 懲戒解雇でもなんにでもなれ!」

「そ、そんな酷いです……今までこんなに尽くしてきたのに」


 項垂れる総務部長を見下ろしながら、天地はますます怒りを募らせた。


「キイイイ! 高橋! 許さんぞ高橋いいいい! う、まだ奴の邪悪なオーラが残っている。塩だ! この場所も塩で清めなければならん!」



 天地は狂ったように叫びながら、まわりに塩を撒き始めた。控室の中はカオスと化し、周囲の議員たちは完全に混乱している。

 片桐はそれを少し離れた場所で冷ややかな目で見ながら、先ほどのことを思い返していた。


(高橋市長、影響力が大きく行動力もある支援者をお持ちですね。また、優秀な職員も見つけて、上手く副市長に任命したようで……)



 高橋本人だけでも手強いと思っていたが、サポートする人間も優秀な人材を揃えているようだ。その手腕に片桐は感心しながらも、強い焦りを感じていた。


(会派の評判は地に落ちた。でも私自身の評価はむしろ上がっている。ここでなんとか上手く立ち回れば……)


 考え込んでいたとき、片桐に会派の若手議員が不安そうに話しかけてきた。


「片桐議員……あの私たちは、これからどうすればいいですか?」


 その言葉に一端思案をやめた片桐は、毅然とした態度で若手職員に向き直った。


「今回の直接請求は不明瞭な部分が多いです。総務部長以外は処分が覆る可能性があります。100条委員会を設置して調査を行いましょう。調査結果によっては、解任された部長の人事撤回だけでなく、高橋市長への問責決議案も視野に入れて動きます」


「了解しました!」

「片桐議員、ありがとうございます!」


 この言葉に創政フォーラムの多くの議員たちが、安堵の表情を浮かべた。


(一時的なもの……先ほど高橋市長はそう言っていたわよね。だったら交渉の余地はあるかも……)


 片桐は冷静に、次の一手を練り始めた。



「ったく、ぜってえめんどくせえことになるから、俺はもっと穏便にやりたかったんだよ」


 夜。高橋は自宅でLIVE配信をしながら今日の議会での愚痴を、昔からのリスナー達にぼやいていた。


”ゆず様は悪くない!”

”お前なら乗り越えられる!”


「俺を持ち上げて誤魔化そうとするな!」


”まあこれから創政フォーラムは100条委員会を設置するだろうな”

”そうだな”


「100条委員会? なんだそれ?」


”議会が自治体の不祥事や問題について調査権を使って事実関係を追及する特別委員会だ”

”俺たちはお前が市長になってから地方自治法を勉強してるんだぞ”

”そうだ! お前も100条委員会くらい覚えろ!”


(なぬううう!?)


 確かに総務部長は不祥事を起こしている。だが他の部長たちは態度が横柄なものはいるが、なにか不祥事があるという話は今のところ入ってきていない。


”もし総務部長以外が白なら問責決議案も出るかもな”

”いや、辞職勧告、下手したら不信任決議もあり得る”

”でも、ゆず様は証拠無しにあんなこと言わねえだろ”

”そうだな。ゆず様が言ってる通り部長たちは皆不正や不祥事を起こしているに違いない”


(やべえな。すぐにでも市長なんて辞めたいが、あくまで穏便にだ。不信任決議が通って配信者に戻ったら迷惑系で食っていくしかなくなっちまうかも知れねえ。あくまでこれは一時的な処置だよ、一時的な処置……片桐議員、気づいてくれよ)


 ここまで考えて、高橋はあることに気づいた。


(ん? 待てよ。もしかしたらこれは、創政フォーラムへの有効な交渉カードになるかも知れねえな。解任した部長たちを元に戻す代わりに、何かを譲歩させることができるかも。って言っても、そのなにかは思い浮かばねえけど……まあ、ゆずさんが忘れた頃に考えりゃいいか)


 そんな事を考え始めたとき、とあるコメントが目に入った。


“ところで高橋、ダンジョンを中心にした街づくりとはいうが具体的にはどんな事をするんだ?”

“そうだな。ダンジョン観光以外はどんな施策を考えている?”

”他にはどんな政策があるんだ?”

”具体的な政策を教えてくれ”


「良い質問だ。それはだな……」

(やべえな。なにも浮かばねえ。なんとかギャグで誤魔化さねえと)


 ダンジョンを活用して税収を増やし、街を豊かにするべき。これは備後市民ならば約9割の人が思っていることではある。しかし、具体的な施策となると難しい。

 考えていると、スマホの着信が鳴る。表示を見ると、ゆず希のようだ。

 

「もしもし高橋、配信見てたわよ。どういうこと? 具体的な政策も考えてないの?」

「いやそういう訳ではないんですが……」

「ったくなんのためにアンタは市長になろうって思ったのよ?」

「あのう、俺は話題作りに選挙に出た泡沫候補です。実現したい具体的な政策なんてありません。ゆずさんもその辺、最初から分かってたと思うんですが……」

「私が政策考えるの得意な奴を紹介するから。今週の土曜日、7時に駅前の居酒屋に来て」


 電話は切れた。高橋はため息をつきながらスマホを置き、再びリスナーたちに向き直った。


「くそおおお。あの人どこまで一方的で自己中なんだ」



”高橋、ゆず様が怒るのも無理ないぞ”

”ゆず様、本当に頼りになるな”

”それに比べてお前はもう少ししっかりしろよ!”


「いや、お前らの反応明らかにおかしいだろ! ちゃんと俺の話聞いてたのかよ!?」


リスナーたちのコメントに頭を抱えながらも、高橋はこの状況を良い方向に持っていくことを考え続けてきた。

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