不死鳥がいくは理想郷
ふわポコ太郎
意中の姫に親愛の花を
白亜の城を堂々と闊歩するメイド?はノックを三回して、ディアナ様よろしいでしょうか?と己が命より大切な名前の持ち主に伺う。
その声は技術で気絶させ密室に拘束し、スケジュールまで完璧に抑えた上で模した相手と寸分の狂いすら無い。
鈴を転がす。という表現すらも、ヌルい。と思わせる程の美しい声に許されて、物語の主人公は愛しき人の部屋へ、いつも以上に昂揚おさまらぬ夜と行為を忘れる事ができず、期待を胸に抱き女側の都合にあわせたインターバルをおいて再度入室。
そこには整形としか思えない程に美しい顔をした姫が、繁殖旺盛な強者を相手どった疲労感が抜けなかったせいかベッドの上で欠伸をしていた。
外形以外取り柄がない無能のモノとは思えない……いい色をした瞳がメイド?の意図的に出している間違いに気づき、気品の欠片もない程に大きく笑った。
関係薄き他人に見せないであろう、その表情が主人公には嬉しくてたまらない。
──禁忌たる遺伝子調整。
世界征服をするために作られた男、すなわち王になるために作られた存在である兄のデータすらも参考資料……には雌雄の違いから成る事は無く。
結果と実績がモノを言うため……盛りが一生来ない可能性のある男と、若さという全盛期を必ず持ち……己の最適解を常に探求する女。
二つの性が歩む人生の違い等、引きこもりの負け犬でもない限り語る必要は無いだろう。──
「下半身と脳が直結しているのが男という生き物。悲しいかなディアナにはもしもこの国がイビルディアによって滅ぼされた後、我等が血の全てを託さねばならぬからな。こればかりは老いた母にも、男であるモードレッドにもできぬ事。」
寝たきりになる前の女王が、名前の持ち主である美少女に、すなわち娘に求めた義務は王族の血をどんなに汚してでも後世に残すという……生物の本懐。
そのために作られた彼女が、ルッキズムという現世を染め上げる思想に合わせて、誰よりも美しく遺伝子をイジってでも作られるのは当然の事であった。
若さは価値観のアップデートをされてない老婆の戯言をくだらないと思い、双方の気まぐれがもたらした偶然と不思議な出会いは、驚愕で高鳴る心臓の鼓動を演技力が……特異な才を持つ者同士の恋愛に偽装させた。
強く優秀たる鳳雛と、見た目ステータス全振りの一本勝負な姫君は本能に従い、人の領域から低きへ……すなわち獣が欲望に流される。
己の力で何かを成したいと思う若さを評する言葉は傲慢。
それを女の身で宿していた事は歴史が教える。
「さて姫様。只今からのご予定は?無いのならとある殿方とセッ……」
「人差し指が薬指より短い。で合ってるかしら?さっさと元の姿に戻って欲しいのだけれど……
正解。という言葉と共にメイドの服と体が変異していき、名前の持ち主であるハーフの少年が愛する女の趣味に染られた格好で、常に顎を上げて世間を見下す所作を行い、笑う。
彼の笑顔がディアナは好きだった。
かっこいいよりも可愛らしいと思う程に……
礼服でも軍服でも無き格好等、彼の先祖たる帝国人が見れば絶句モノ。
オシャレ等といった浮ついた事は高貴に産まれ落ちたか、優秀な雄の配偶者に選ばれた女の特権。
ましてや今は乱世である。
だがいつの時代も、惚れた異性の選択や自分の意志より、世間体を優先した人間の生涯は反吐が出るほどに醜い。
──コイツ絶対に人間じゃないだろ。と治世や旧時代の常人は思うだろうが、遺された資料に書かれた情報を総合的に判断した結果。
これでも不死鳥の再現度が低い。と叩かれ、苦情がくるレベルであった。
そもそも子供ができるのなら、人間から遠い別種にはあたらないだろ。たぶん──
「改めてディアナ。只今からのご予定は……愛する二人の邪魔は無いだろうし、有ったところで殴って黙らせるけど!なぁ完全に空いているよね。まぁ別の要件があっても恋人のために空けてくれるよね?ぶっちゃけほら昨夜、いやもう今日になってたか、とにかく!さっきはチョットミスがあったというか……二人の関係には零点零一すら邪魔は必要無いというか……あんなモノあってはなら無いというか……いちいち穴を開けるのも面倒だし……今は駄目かな?」(
衛兵!緊急事態。気分が乗らない時に乱暴されそうだから早く来て。と美しい容姿の持ち主は即座にブザーを鳴らす!
ディアナは強者を相手どった疲労を抜く為にもゆっくりと体を休めたかった事もあり、禁忌に脳を焼き切られた頭のおかしい愛する存在を無視する事にした。
モブ共が汚い手で触るな!俺は今日こそ父親になるんだ!絶対にこれからは死んでも着けないからな!!!世間体なんてくそくらえだね!!!と叫ぶイビルディア帝国のボンボンが、目にするは可憐な紫の薔薇。
花言葉すら知らない店主に呆れた記憶が、頭をよぎり翼は少し嫌な気分になるが……誇り、気品、尊敬の三要素を揃えていると自負するが故に飲み込んだ。
特異体質故に人質としての価値すら無い存在は、殺されても文句が言えないような下品な言葉を叫びながら、今度新しいのを用意しようと。行きつけの花屋たるマロリーフラワーを想像。
──通う理由は店主との縁を感じたから。……そう日記に書いてある事が
このクズ野郎が三十人に勝てるわけ無いだろう!と絶対に不可能と断言できる言葉が、情報収集を怠っている衛兵達から発せられた。
惚れた女、もくしは仕える姫の部屋を汚したく無い。という敵対者同士の利害が一致。
乱世の男達が見せる背中を、よ〜し昨夜はあまり寝れなかったし疲れを取るためにゆっくりするぞ。と不死身兼不老不死な存在を相手どった事もあり、精神と肉体が休息を求めているディアナであった。
──乱世の世界は決着を目前にしていた。
悪魔の進行を押さえる事ができず、各国は順調に南から侵食されていった。
それは二番目に強いグレテン王国も例外では無く。
最強相手に勝率が二割も無い国に、尚武はもはや与えられる称号では無いだろう。
だが、悪い事は重なる物である。
劇中劇の舞台はグレテン王国。
ロストテクノロジーによる産業革命は、法則性の都合上ガンガン他国に真似され……もはやアドバンテージにならず。
斜陽の地で始まるのは、正統なる血族が起こした騒乱。
それを止めた彼の二つ名は不死鳥。
後の史に刻まれる名称はグレテン騒乱。──
暴力的な雄を女は好む。
それは弱い男が勘違いしている事ランキング第一位。
厳密には雄の領域において周りが圧倒的な差を自覚している!世間に一目置かれている!他者を従えている!そんな絶対強者が好きなのであって……女にだけイキる小物等視界どころか意識外。
そんな事等つゆとも知らず、雄の領域たるは闘争。
打撃というものは、二律背反するものを高レベルですり合わせる技術。
一撃を重くするために手数が……
連撃を重視するあまり威力が……
それは永遠に終わらない探求の旅。
その果てに近づくため、鍛錬あるいは実戦で、人は拳の形が変わる程幾星幾星霜霜モノを叩く。
事実彼の正拳は相手の腹筋を貫き膝から崩れ落ちる前に、己の手元へと戻っている。
投げというものは、タイミングと重心の取り合い。
三者三様、十人十色の世界で奇を狙い、機をうかがう嗅覚の世界。
ラッキーが存在しない故、修練がモノを言う領域。
事実、才能あふれる存在ですら素人の時は、何度も何度も地べたに転がり泥をすする。
若さ故の未熟は才が補ったのか、前傾する相手を斜めに崩すや、翼の腰に他重がかかった瞬間、片足を払いあげ大地に叩きつけた。
逆に極めは法則性の領分。
余程の特異体質でない限り、全員が共通する関節、頸動脈を押さえ込む故……面白い事にコチラもまた練度がモノをいう幸運やチャンスが入る余地なき場所。
それは幾度も幾度も意識を奪われようと、立ち上がったものだけが進める茨の道。
鍛錬時間という巨大な壁は、垂れ流すだけの日々と集中の日々という二つの差が明確に分けた。
鳳雛は相手の腕を右手で掴むと左手は肘へ、それと同時に関節を曲がってはいけない方向に押し込む。
世界全土でみても上位、否環境レベルではあるがトップメタでは無い程度の強者が、それらの技術を使い、捌き咆哮。
最後につけられた傷とダメージは、馬鹿げた特異体質によって完全修復。
これを行った時点で、不死身の身体を持つ
絶対に殺されない!は悪魔の証明。
己を殺す存在によって愛する女との日々を奪われないためにも……だからこそ技量を積み上げて対策をするのは当然の事。
受け、いなし、捌きを完璧にこなせなければと……成長を止めれば特異体質に驕り、頼っていると他者に思われても文句が言えない故。
だからこそ彼は圧倒的な格下たる、雑魚相手とはいえ手合わせできた事を素直に喜んだ。
──衰え知らずの暴魔や鳳凰、何なら全盛期の
絶対的なトップが決まっていて、全盛期か平均かどうかで二番目をレスバする。という意味不明な未来の最強……二番目に強い男を決める議論等、知るよしがない鳳雛の周辺には戦闘不能な三十人の衛兵。
モブ達は強者の手心で意識を保ったまま、軽重の差はあれど怪我程度で倒れていた。
無論勝者は全員の頭上に足を置き格付けを完了する。
「さてとモブ共を全員ボコボコにしてやったぜ。お前らこの程度で死なずに済んだ事をディアナに感謝しろよ。ったく腰に両足、首に両腕ガッチリまわしておいて、あんなに夜はいい表情しておいて、まぁ好きで好きでたまらない俺以外の世間様には本当格好つけなイキリ娘ちゃんだから……やっぱり優勢思想を超えた真実の愛は最高だな。」
それは
もちろん
(まぁ男性ホルモンの過剰供給が殴り合いで発散されているし、この程度ならいつも通り。国際問題にならなくて本当に良かった良かった。……ヤルからには子供の面倒をしっかりとみろよ。私の末裔になるんだから)
ったく、俺が女二人から作られた存在だからって子泣きジジイと同じで、父親みたいな面しやがって、クソみてーな事を長い間してるくせに。と満足げな翼に毒づく主人公の姿は世間的に独り言。
不気味な言動の
それは、民衆から身内の醜態がタレこまれたため。
征服王、ペンドラゴン、後世の人間から今を生きる人間まで、二つ名や号で賞賛するはモードレッド。
だがこの物語ではただの脇役。
実際、実の妹を政略の道具としか思えない無能な男として演じられていた。
乱世に人権を求める等……治世しぐさにも程がある。
お義兄さん。と不敬罪待った無しの言葉を、予想外たる妹の裏切りと淫行で憤怒顔な王子様に向けるのは
うん?誰が君の兄になったんだろうね。おかしいな〜!ディアナと早く別れろ!アレは政略結婚のカードに使う。と嫌味を返された事もあり、
「呼び方の問題じゃない!そもそも君にはグレテンの血が一滴も入ってないであろう。尚の事君が僕を義兄と呼ぶ理由も言われも無い、ほらほらさっさと別れて世界中にいる雌豚連中を漁れ。全ての地を征服する故人種など気にしない僕だが、イビルディア人と東亜人は反吐が出るほど大嫌いなんだ。……品の無い行動は絶対に謹んでくれたまえ。」
「ハハハご冗談を、総合力でディアナ以上の女なんて星の数程いますが……人を真に愛すとは、互いの難点や弱点を受け入れる俺達の様な関係を言うのです。すぐに伯父という立場にしてあげますので楽しみにしてくださいな。さぁここまで言えば我らが帝に屈するであろうお義兄たまでもお解りでしょ?どうせ交渉や政略結婚のカードに使うなら、妹君が愛してやまない偉大なる
傲慢さが臨界極まった想像もしない妹への強姦宣言プラス敵国の女神を軽視する問題発言。
予想以上に二人の関係が進んでいる事もあってか、殺してやる!と叫びながらも周りに引っ張られ戦場へ連れて行かれるは、人望も才能も足りない王子様。
数多の人を適材適所で振り分け使いこなす聖帝と比べれば、足りぬ足りぬは工夫が足らぬ。を地で行くモードレッドの踏み地は薄氷。
現にグレテンとイビルディアの戦力比オッズは、ニ対八と言っても過言で無く。
アンタが死ぬ時ディアナが泣くかは知らねぇが……惚れた女を悲しませる可能性はゼロを目指さないとね。と引きずられる義兄を見送り笑うのは主人公。
そんな殺されても文句が言えない……どころか拘束すらできなき特異な存在に一人の伝者が近づく。
「フェネクス殿!……ダイジナ砦から伝法です。」
悔しさに歯を食いしばっている敵国の労働者から、名乗る気無い
「
一翔さんから。と嬉しそうに口にした
「絶対にアレは人間じゃないだろ。だって羽か翼が増えてるもん。」
邪魔が少ない空の領域を我が物で移動する存在に対して、殴り倒された労働者は当たり前の事を口にする。
人ならざる存在から奪い取った聖剣。
それは王族のみが正体と安置された場所を知る。
グレテン王国には選定の岩と突き刺さった聖剣があった。
王の血を引く者だけが剣を抜くことができるという伝承。
それはある時期をさかいに、王族が柄に手をかけ適当に引っ張るだけの茶番になりはてていた。
膨大な時間が流れ、偽りの存在が玉座に長く腰を下ろすという大罪。
──完全に破壊され未来に継承されない事など、つゆとも知らないであろうカリバーンは真実を待ち望んでいた。──
「理想の状況になってきたな。偽りの王族、傲慢なる簒奪者、その一方でかつては国を富ませたという事実。揺れ動くは我が感情、花言葉で例えるなら……特に思いつかないけど。」
この夜、正統なる血族によって聖剣が抜かれた事をまだ世界は知らない。
「ふぁぁ、よく寝た。今何月何日?本剣は何年ここで担い手を待ってたの?」
「「「うわー!剣が喋った!!!」」」
「あっ、カリバーンの声って皆聞こえているんだ……それはそれでモヤモヤするな。」
王の座を奪われた先祖から脈々怨嗟と怨念を受け継ぎ、特異な鍛錬によって牙を尖らせ、信用できる仲間とロストテクノロジーの情報を集めた彼は悲願成就を確信し、呵呵大笑。
事実今この時、白亜の城には世界の頂点を自称するボンクラ王子はおらず。
即ち寝たきり老人の女王と、見た目以外は可愛げを出すためあえて平均以下に調整された姫が滞在。
そんな砂上の楼閣を思わせる様な現状、チョット暴動が起きるだけで指揮系統が混乱する事は想像に難くない。
真実と正義に焦がれた
世界を変えるには運と適正が必要不可欠。
(そんなんだから我等が同士の店は流行らないんだよ。利益の九割五分がフェネクスの落胤ってどういう事なの?年下から釣りはいらないとか言われて悔しくないの?そして花の届け先が攻めこむ城って恥ずかしくは無いのか……ハッまさか二人は裏で手を組んでいる?いやそうじゃなくても敵を知ることは大事か)
──もし彼に不幸があれば、ボンクラと侮った姫が行動力だけなら平均以上のモノを持っていた事と、己と同じように先祖の悲願を受け継ぐ鳳雛が……子孫の願いを叶えようとする不死鳥がたまたまグレテン王国にいたことであろう。──
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